医学界新聞

連載

2017.09.18



目からウロコ!
4つのカテゴリーで考えるがんと感染症

がんそのものや治療の過程で,がん患者はあらゆる感染症のリスクにさらされる。がん患者特有の感染症の問題も多い――。そんな難しいと思われがちな「がんと感染症」。その関係性をすっきりと理解するための思考法を,わかりやすく解説します。

[第16回]ステロイドと感染症

森 信好(聖路加国際病院内科・感染症科副医長)


前回からつづく

 今回のテーマはステロイドと感染症です。ステロイドは,読者の皆さんが最も使用経験のある免疫抑制剤ではないでしょうか。膠原病領域や呼吸器疾患でよく使用されると思いますが,がん患者でもステロイドは頻繁に使用されます。本稿ではステロイドによる免疫低下の機序,そしてどの程度の量や期間で免疫不全が起きるのかについて説明します。

がん患者へのステロイド使用

 がん患者に対するステロイドの使用は実にさまざまです。固形腫瘍に対する化学療法の際の嘔気対策としてデキサメタゾンを散発的に使用することもありますし,悪性リンパ腫に対する治療であるR-CHOP療法のように比較的量の多いプレドニゾロンを使用することもあります。また造血幹細胞移植後の移植片対宿主病(GVHD)に対する治療として,長期間減量しながら使用することもあります。ただ,いずれの場合も注意しなければならないのが,ステロイドにより疼痛や発熱がマスクされることがあるということ。象徴的なのが「好中球減少者の発熱」でしょう。

 第4回(3191号)でも強調したとおり,「発熱」だけにとらわれていてはステロイド投与患者の感染症は容易に見過ごされてしまう危険性があります。全身状態,発熱以外のバイタルサイン,詳細なreview of systemと身体所見により,緻密に感染症を見極めていく必要があります。ですので,本連載では一貫して「好中球減少時の感染症」として注意喚起をしてきました。

 また,同じステロイド投与をする場合でも,がん患者は非がん患者と比較して敗血症のリスクが有意に高いとする英国からの研究1)があり,注目を集めています。これは,がん患者では化学療法などを併用していることも当然その一因として考えられますが,興味深いことにがん患者では低アルブミン血症が見られ,そのことも感染症リスクを増加させているのではないかとされています。

ステロイド投与が引き起こす免疫不全とは

 では,ステロイドによってどのような免疫不全が起きるのでしょうか。最も有名なものは「細胞性免疫の低下」ですね。ステロイドを投与するとT細胞,なかでもCD4陽性ヘルパーT細胞(Th)が低下します2)第11回(3220号)で説明したとおり,Thは樹状細胞により抗原提示されることで5つのsubsetに分化します。細胞性免疫で特に重要なのがTh 1,Th 2,Th 17でした。Th 1はIFN-γを産生することで細胞内寄生菌に対する免疫を司っていますが,ステロイドによる影響は特にこのTh 1に対して最も大きいとされています3)

 それでは他の免疫不全はどうでしょうか。まず,ステロイドにより皮膚が菲薄化します4)。これにより「皮膚バリアの破綻」が起こりやすくなります。また,好中球に対する影響もよく知られています。特に重要なのは好中球遊走能の低下です。皆さんもよく経験されているかと思いますが,ステロイド使用患者では好中球が増加しますね。これは骨髄から好中球の放出を増加させることも一因ですが,好中球が血管壁に接着して血管外の炎症部位へ遊走しようとするのをステロイドが抑制し,結果として好中球が血管内に多くとどまるからです5)。そのため,ステロイドの投与により「好中球の機能低下」が見られるのです。

 最後に液性免疫への影響はどうでしょうか。ステロイド投与によりT細胞ほどではありませんが,B細胞も低下させることが知られていますし6),投与後数週間で免疫グロブリンも可逆的に低下します7)。従って,「液性免疫低下」も軽度見られると考えられています。

積算量が重要

 ステロイドの量や期間と感染症の関係はどのようになっているのでしょうか。これについてはスイスからの研......

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