リツキシマブによるB型肝炎ウイルス再活性化に注意(森信好)
連載
2017.08.07
目からウロコ!
4つのカテゴリーで考えるがんと感染症
がんそのものや治療の過程で,がん患者はあらゆる感染症のリスクにさらされる。がん患者特有の感染症の問題も多い――。そんな難しいと思われがちな「がんと感染症」。その関係性をすっきりと理解するための思考法を,わかりやすく解説します。
[第15回]リツキシマブによるB型肝炎ウイルス再活性化に注意
森 信好(聖路加国際病院内科・感染症科副医長)
(前回からつづく)
今回はモノクローナル抗体と感染症について解説します。1997年に,初めてのモノクローナル抗体であるリツキシマブが登場し,がん治療は新たな時代へと突入することになります。細胞傷害性の化学療法と異なり分子標的治療であることから,これまで避けては通れなかった骨髄抑制も軽微であり副作用が大幅に軽減されると目されてきました。その一方,モノクローナル抗体に特有の副作用が明らかになり,それらに対する注意喚起がなされるようになりました。
現在,がん領域で最も重要なモノクローナル抗体はリツキシマブと抗CD52モノクローナル抗体であるアレムツズマブでしょう。アレムツズマブについては第10回(3216号)の「液性免疫低下と感染症②」で取り上げ,慢性リンパ性白血病(CLL)に対する治療薬として活躍することを紹介しました。CD52はB細胞,T細胞に加えてマクロファージやナチュラルキラー(NK)細胞にまで発現しているため,液性免疫低下に加えて極めて深刻な細胞性免疫低下が見られるのでしたね。ただし,日本ではCLLが少ないため,あまりアレムツズマブの脅威を感じる機会は多くありません。
本稿では日本でも頻用されるリツキシマブにスポットライトを当てて,どのような免疫不全が起こりどのような感染症の合併が見られるのかを掘り下げていくことにしましょう。
リツキシマブではどの免疫が低下する?
リツキシマブは抗CD20モノクローナル抗体であり,第10回で少しお話ししたとおりB細胞表面のCD20をターゲットにしているため,主に液性免疫低下が見られます。具体的には,リツキシマブ投与の24~48時間後からB細胞は低下し始め,投与終了後でも回復するまでに9か月程度要しますし,低ガンマグロブリン血症も見られ,やはり5~11か月にわたり持続します。
では他の免疫不全はどうでしょうか。まず好中球減少については,リツキシマブにより遅発性好中球減少症(late onset neutropenia;LON)が起こることが知られています1)。正確な病態はよくわかっていませんが,リツキシマブを投与した患者の27%程度で投与から約90日後に好中球減少が見られます。ただし多くの場合,好中球減少は比較的速やかに改善し,感染症の合併症を起こすことはまれだとされています2)。
次に細胞性免疫に与える影響はどうでしょうか。これまではリツキシマブが細胞性免疫低下を起こすことはほとんどないと考えられてきましたが,最近になり,どうやらCD4陽性T細胞を減少させることで細胞性免疫低下を引き起こす3)ことがわかってきました。その詳細な機序はやはり不明ですが,B細胞の抗原提示で開始されるCD4陽性T細胞の活性化経路を抑制することが関連しているのではないかとする研究4)もあります。
つまり,リツキシマブの投与による免疫不全は以下のようになります。
B型肝炎ウイルス(HBV
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