医学界新聞

対談・座談会

2017.09.18



【座談会】

がん患者の安心を紡ぐ二人主治医制

川越 正平氏(あおぞら診療所理事長・院長)=司会
西 智弘氏(川崎市立井田病院 かわさき総合ケアセンター医長)
廣橋 猛氏(永寿総合病院がん診療支援・緩和ケアセンター長)


 がん診療で対応すべき分野は多岐にわたる。治療から副作用対策,その後の生活や仕事,家族や地域との関係まで幅広い。がん治療を司る腫瘍内科医(治療医)と,生活の視点や家族・地域といった文脈を踏まえサポートする緩和ケア医。この2人の医師が連携する「二人主治医制」によって,化学療法を施行する早い時期からがん患者にかかわれば,切れ目ない支援で患者に安心をもたらすのではないか。

 二人主治医制の意義と必要性を提言する川越氏,腫瘍内科医・緩和ケア医・在宅医の三役を担う西氏,病院と在宅の二刀流で緩和ケアを行う廣橋氏の3人が,それぞれの多彩な取り組みと経験を踏まえながら,二人主治医制における役割分担の在り方や,医師・患者双方のメリットについて議論した。


二人の医師が信頼し合い連携

川越 初めに,先生方はがん診療の現場でどのような医師として活躍しているのか,お聞かせください。

西 私は,腫瘍内科と緩和ケア,さらに在宅までトータルにがん患者を診ています。

川越 一人三役とは珍しいですね。腫瘍内科医,緩和ケア医,在宅医としての比率はどのくらいですか。

西 5:4:1でしょうか。そのうち緩和ケアは9割が外来です。当院は早期からの緩和ケア外来を設置しており,他院で抗がん剤治療を受けている患者さんも並行して診ています。最終的には緩和ケア病棟や在宅診療において,最期まで患者さんの療養を支えます。

川越 廣橋先生はいかがですか。

廣橋 私は,緩和ケア医として病棟・外来の緩和ケアチームで診療に携わっています。当院の立地する東京都台東区は,近隣に多くの大学病院やがんの専門病院があります。治療を受けた後のフォローアップや,将来的に緩和ケア病棟に入りたいと紹介されてきた方を外来で診ています。通院が難しくなり,在宅で療養を続けたいという場合は訪問診療に移行する段取りを整え,私も往診医として継続して診療します。病院と在宅の言わば“二刀流”で緩和ケアを実践しています。

川越 西先生,廣橋先生は他院の治療医の先生方とも連携した二人主治医制で診療に当たっており,さらにはご自身も一人二役,あるいは三役をこなしながら“二人目の主治医”の役割を担っていることがわかりました。

 がん医療の進歩に伴い5年相対生存率は現在60%を超えています。全経過を一人の医師だけで完結することは極めて難しくなっており,複数の病院,複数の医師がかかわるのが一般的になりつつあります。治療から療養に移行する過程で「分断」を生じさせず,患者のニーズに応じて切れ目なく医療を提供することは,今や必然的な流れではないでしょうか()。

 治療から緩和ケアまで,切れ目なくがん患者に伴走する二人主治医制のイメージ(クリックで拡大)

西 その通りだと思います。がん診療の形には,①腫瘍内科医が一人で診療する,②腫瘍内科医が困ったら他科にコンサルトする,③腫瘍内科医と緩和ケア医が協働する,の3つのモデルが想定されます。腫瘍内科医が患者の疼痛や精神的・社会的問題をツギハギに対処できたとしても,がん診療全体をカバーすることまでは困難です。効率やコストの面からも,まずは「腫瘍内科医+緩和ケア医」で診るのが,がん診療の一つの形になると思います。

川越 もう一人の医師を信頼して連携し,双方の仕事の内容を理解しながら連動していく。在宅診療の傍ら緩和ケアにかかわる私もそんな体制が広まればいいなと思い,「二人主治医制」の言葉を用いて連携の形を提起しています。先生方の実践から,二人主治医制の可能性について考えていきたいと思います。

治療医に「見捨てられた」と患者が思わないために

川越 まず,先生方自身の働き方を顧みて,医師が一人でがん患者を診ることにどのような困難が生じるか,お話しください。

西 腫瘍内科医として抗がん剤治療を行っていると,患者さんに対しEnd-of-life discussionやその先の療養について話す時間を十分に作ることが難しいと感じます。意識はしていても,治療を念頭にした診察ではどうしても後回しになってしまう。気が付いたときには病状が悪化し,「本当はこういう話もしておきたかった……」ということが起きかねません。腫瘍内科医が一人でEnd-of-life discussionや病状理解の確認を全て行い,さらに悪いニュースまで伝えるのは大きなストレスを伴います。

廣橋 緩和ケア医も似たような状況があります。患者さんの「もっと抗がん剤治療をやりたい」との求めに対し,「あなたは緩和ケアに専念したほうがいい」とはなかなか言えません。「治療の継続が,逆に体力を落とし寿命を縮めることにもなる」といった説明はするのですが,それを一人で背負うのはやはりつらい作業です。

川越 治療医が外来で面談に割ける時間はどのくらいですか。例えば15分くらいでし

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