医学界新聞

対談・座談会

2017.09.11



【座談会】

内科外来サバイバル
踏み外さない診療戦略

濱口 杉大氏(福島県立医科大学附属病院 総合内科部長)
岸田 直樹氏(北海道薬科大学客員教授/総合内科医・感染症医)=司会
西垂水 和隆氏(今村総合病院 救急・総合内科主任部長)


 内科外来を担当するのは,その道で修練を積んだ総合診療医ばかりではなく,他の領域を専門とする医師であることも多い。そうした医師にとっては,内科外来において「踏み外さない」ことが切実な問題だ。

 本紙では,3人の総合内科医にお集まりいただき,内科外来を担当することになった研修医に向けて,意識すべきポイントや見逃しやすい症例をご紹介いただいた。


岸田 内科外来は初期研修で経験することはほぼありませんが,後期研修に入ると専門外でも任されることが多くなります。今回は,ドキドキしながら内科外来の診療をしているであろう研修医の先生方に向けて「踏み外さないための診療戦略」をお話しします。

内科外来のピットフォール

岸田 まず,注意すべきピットフォールからスタートしたいと思います。内科外来でしばしば出合うのは,軽症だと思って判断を先延ばしにしていたら実はけっこう重症だったという「見た目軽症,実は重症」な例です。

 例えば,「風邪だと思う」と言って受診される患者さん。内科外来にはよく来ますよね。主訴にだまされがちですが,実際は風邪ではないことがあります。「内科外来はしょせん風邪ばっかりだし」という意識で診察していると見逃してしまいます。

濱口 インフルエンザに混じって来る尿路感染症などもありますよね。軽症患者さんが大多数な中に,ごくまれに注意すべき方が混じっているので足をすくわれやすいです。

西垂水 内科外来で診るのは歩いて来られている患者さんなこともあり,軽症しか来ないだろうという意識を持ちがちです。それも見逃しを招く原因の一つです。重症者の頻度は少ない上に,来院時にはバイタルも落ち着いていることが多いですから,より病歴に重きを置いて,発症時の様子を聞き出すことが大切です。

濱口 重傷者が紛れているかもしれないと身構えていれば,そうした患者さんに気付きやすいですよね。しかし常に気を張っているわけにはいかないと思いますので,緩急を付ける必要があります。

岸田 特にどういった患者さんに注意すべきでしょうか。

西垂水 高齢者,糖尿病患者,精神疾患患者は,元気そうに見えても安易に判断せず,一歩踏み込んだ検査をする意識を持ったほうがよいです。本人の自覚症状がないだけでなく,重症なのに見た目もバイタルも正常なことさえあります。

濱口 内科外来では「99歳,男性,咳」というだけで,要注意のスイッチが入りますよね。感覚麻痺がある方も,麻痺部分では通常見られるべき疼痛や圧痛が自覚されにくいので注意を払います。

岸田 見逃しやすいシチュエーションはありますか。

濱口 見逃しは病歴聴取や身体診察をスキップしてしまった時に多いと考えます。例えば,心窩部痛を主訴に来院した方の例を聞いたことがあります。内視鏡検査,心電図検査,腹部エコー検査では問題がなかったのですが,実は下壁の心筋梗塞だったそうです。

 多忙な内科外来では,まず検査をして,その結果が出てから患者と面接することもあると思います。私も忙しい時には検査に頼り,結果が正常だから問題ないと判断してしまうことがあります。病歴や症状をしっかり聞き,バイタルサインや見た目を手掛かりにして異変を感じ取ることが大事です。

西垂水 忙しくて病歴を聞かなかったり,患者さんは言っていたのに聞き逃したりということは私にもあります。1か月続く頭痛を主訴とする方で,苦痛の表情はなく,亜急性頭痛として腫瘍などを考えました。しかし,きちんと病歴を取ると頭痛はある日突然生じたことがわかったのです。椎骨動脈解離でした。

濱口 専門分野を持っている場合,検査や手技を用いてその専門分野の疾患を想定したり,除外したりということが行われますが,専門分野の疾患しか想定していないと,検査などで異常がなかった場合のアセスメントが難しくなります。

西垂水 自分の専門分野の疾患を想定しがちなのはある程度仕方のないことです。専門領域に引っ張られて見逃さないようにするコツは,病歴をきちんと聞いて自分の得意疾患のストーリーに合致するかどうかを意識することだと思います。

岸田 専門外の主訴の場合,「とりあえず」の検査を絨毯爆撃的にしがちですよね。そうしないためにも,しっかりとした問診が大切です。

西垂水 型通りに面接すれば見逃しは減らせるので,まずは型を学ぶべきです。

 その上でわからない場合には,専門科にコンサルトすることが大切です。きちんと病歴を聴取できたとしても専門外の病気を診断するのは難しいです。しかし,紹介先から結果を聞き勉強していけば,どんどんできるようになります。

救急外来とどう違う?

岸田 研修医が初めて内科外来を経験するとき,初期研修で経験した救急のノウハウで対応しようとしがちです。

西垂水 基本的には,まずは救急の知識を生かし,緊急性のあるものを見逃さないようにすることが大事です。私たちもそうやって育ってきました。

 ただ,内科外来の特徴の一つに,救急と比べて病歴が長いことがあります。救急患者は数日単位の発症が多いですよね。病歴が短ければ原因もわかりやすいですが,発症から数か月,数年を経ていると,他の症状が混ざり病態が複雑なことがあります。

岸田 臓器別の専門内科がある病院では,「内科外来」に来ている時点でセレクションが掛かっていることも意識すべきです。明らかに胸が痛い方は循環器科,腹部症状がある方は消化器科に回されます。内科外来に来るのは,主訴や原因が不明瞭で他科に振り分けられない,診断学的に難しい方です。

西垂水 一方,内科外来の良い点は,緊急性のあるものさえ除外できればその場で診断がつかなくてもよいことです。しばらくしてから再受診してもらうなど,繰り返し診る時間があるのです。その間に誰かに相談したり,経過を見たりできます。

岸田 わからない時は他の先生に振るのも一つの手ですよね。患者さんが話す内容が変わって,「なんで自分にそれを言ってくれなかったんだ?」となることもあります(笑)。

濱口 私が研修医に外来初診を経験させるときには,その後に振り返りのカンファレンスをします。経過観察とする患者さんには,診察後にチームで検討し,その結果気付いたことがあれば後から電話で連絡する可能性があることをあらかじめ伝えておきます。このようにしておくと,たとえ見逃しがあって電話連絡することになっても,患者さんは「皆で考えてくれているんだな」と感じ,むしろ感謝されるが多いです。

岸田 でも,内科外来といえども,先延ばしにできないケースもありますよね。西垂水先生から以前教わったのは,オンセットがsudden,hyper acuteな場合は落ち着いているように見えても,精査すべきということです。

西垂水 それが1か月前でも,オンセットがはっきりあるなら要注意です。例えば,2週間ほど食欲が...

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