高濃度ビタミンC点滴療法(今村文昭)
連載
2017.08.07
栄養疫学者の視点から
栄養に関する研究の質は玉石混交。情報の渦に巻き込まれないために,栄養疫学を専門とする著者が「食と健康の関係」を考察します。
[第5話]高濃度ビタミンC点滴療法
今村 文昭(英国ケンブリッジ大学 MRC(Medical Research Council)疫学ユニット)
(前回よりつづく)
抗がん作用があるとうたわれている医療行為です。経口摂取では達成できないレベルのビタミンC(以下,VitC)を点滴で身体に巡らせます。数クールで数十万円にまで費用はかさみ,その市場は年間億単位と考えられます。保険適用外なので費用は全て患者の自己負担です。しかし,その効果について,臨床で活かせると判断できるエビデンスは皆無です(Integr Cancer Ther. 2014[PMID:24867961], Oncologist. 2015[PMID:25601965])。
VitC点滴療法を肯定する意見には,疑うべきバイアスが数多く存在します。そのいくつかについて解説します。
■「がんが消えた」:よくある症例の記載ですが,これはVitC点滴療法の効果というより,並行して行われた適切な治療の効果と考えるべきです(CMAJ. 2006[PMID:16567756])。
■「動物実験で効果が得られた」:鍵となる論文の一つでは,がん細胞株をマウスに移植しVitC点滴によりがんの縮小を観察しています(PNAS. 2008[PMID:18678913])。この細胞株の選択は43種についてin vitro実験により効果が期待できそうなものを3つ選んだものです。その他の細胞株種については検討されていません。
■「臨床試験は非倫理的で実施すべきではない」:客観的なエビデンスのない医療行為こそ非倫理的と考えられます。また対照群を設けられないというのは誤りです。はり治療や外科手術のように(N Engl J Med. 2014[PMID:25184861]),Sham(擬似)の応用(Sham infusion)が最良でしょう。医師の言葉を信じ,すがる思いで点滴療法に身を委ねるがん患者のプラセボ効果はどれほどでしょうか。そのバイアスを可能な限り抑えた臨床試験は不可欠です。
■「副作用はない」「化学療法を助ける」「QOLが改善する」:観察者側のバイアス,プラセボ効果などを考慮すると真偽は不明です。最低でも経過観察を盲検化・標準化し追跡した研究が必須です。副作用について,VitCサプリメントの使用と腎結石のリスクとの関係が認められています(JAMA Intern Med. 2013[PMID:23381591])。化学療法を妨げるという基礎研究もあります(Cancer Res. 2008[PMID:18829561])。今後も研究が必要という段階であり,患者さんに偏った考えを伝えるのはNGです。
QOLについてある新興雑誌の論文を紹介し...
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