医学界新聞

連載

2017.07.24



【短期集中連載】

伝わる!
医療者のためのスライドデザイン講座

勉強会や研修会,学会発表など,医療者にとって,スライド準備は切っても切り離せない作業です。どうすれば,見やすくて伝わりやすいスライドを作れるでしょうか。すぐに使えるデザインのルールとテクニックを短期集中連載でお伝えします。

[第3回(最終回)]視線を操るデザイン

小林 啓(京都大学大学院医学研究科 脳病態生理学講座精神医学教室)


前回よりつづく

 皆さんはプレゼンテーションを聞いているとき,演者が説明しているスライドの箇所とは別のところばかり気になって,「結局なんの話であったかちっともわからなかった」という経験はありませんか? 私はよくあります。今回は,こうした視線とスライドデザインの関係についてお話ししたいと思います。

視線を操る

 人間は,自分の意志で対象に注意を向けることができます。その反面,自分の意志とは無関係に注意は簡単にそれてしまいます。同じ場所に注意を維持することは難しく,いつの間にか自分の意志と無関係なものを見ていることも珍しくありません。

 このような無意識の注意を集めてしまうものは多く存在します。プレゼンテーションの場合,演者が伝えたいことと観客の視線の先にあるものが食い違っていたら,伝わる量はほんのわずかになってしまいます。逆に,観客の視線を演者の思う方向に誘導できれば,視覚的にも聴覚的にも十分にメッセージを伝えることができるのです。

 それではどうすれば視線をコントロールすることができるのでしょうか? 大切なことは「視線の流れ」と「視線を向ける対象」を考えることです。

自然な視線の流れ

 横書きのスライドの場合,見る人の視線は左→右,上→下に流れていきます。

 この流れは非常に大切で,右→左,下→上など逆方向のベクトルが混在すると途端に読みにくくなります。このルールを意識し,どの順番で見ていけばいいのか,視線の流れがはっきりとわかるスライドを作りましょう。

どこを見せるか

 次に,スライドのどこに注目してほしいかを決めることが重要です。「最も見せたい部分=最も伝えたい部分」であるため,この作業を経ることによって,自分がスライドで何を伝えたいかを明確にすることもできます。

 視線を集める要素としては,「テキスト<図・表<イラスト<写真」の順に注意を引きつけやすく,人間や動物の「目」が入っていると心理的にさらに強く引きつけられます。また,大きいもの,上にあるもの,単純なものはよく目立ち,さらに前回お話しした周囲の余白が広く空いているほど強調される傾向があります。例えば次のスライドでは,合計特殊出生率の変化をグラフで視覚的に表したかったのですが,どうしても下の赤ちゃんに目を奪われてしまうのがわかります。

 こうした場合は,あえて写真をなくし,テキストは最小限にしてグラフのみで伝えることが最も潔いでしょう。

アニメーションの使い方

 視線を向けさせる方法として,アニメーションは有効な手段です。わずかに変化をさせるだけでも,十分に注意を集めることができます。しかし,プレゼンテーションソフトに搭載されているアニメーションのほとんどは無駄にダイナミックな動きをするため,先ほどの左→右,上→下の自然な視線の流れに対し,非常に強いノイズになってしまいます。PowerPointであれば「アピール」や「フェード」などのベクトルを伴わない控えめなアニメーションを基本とし,よほど動かす必要があるときのみ,動きのある操作を加えることをお勧めします。

フローチャート問題

 視線を考える上で,フローチャートは外すことができません。これはとても優れたツールで,複雑な流れを一度に提示することができ,情報を余すことなく伝えられる手応えもあります。しかし,聞く側の立場になると状況は一転します。聞き手にとってのフローチャートは直感的な理解が難しく,時間の限られたプレゼンテーションとの相性が非常に悪いツールなのです。

 では,次のフローチャートを見てください。2つ目のブロックで矢印が分岐していますね。

 ここで視線の自然な流れが妨げられ,どちらに進むか判断しなければならなくなります。時間をかけて往復すれば解読できますが,スライドの表示される時間は非常に短く,さらにレーザーポインターでグルグルと照らされながら適当な解説をされてはいよいよ理解不能に陥ってしまいます。伝わりにくさがあることをしっかりと演者は理解し,「部分に分けて解説する」「軸となる流れを一本提示してその枝葉を説明する」などのデザインによる工夫をすることが肝心です。

 視線を操るデザインにするためには,ぜひ一度出来上がったスライドを聞き手の立場で眺め,どこに視線が集まるかをチェックしてみてください。スライドは見る人のためにあるものです。作り手の視点からは見えなかった,多くの改善点がきっと見つかります。

 ご紹介した以外にも,デザインのポイントはまだまだあります。皆さんの思う,伝わるデザイン,楽しいデザインをぜひ追求していってください。

(了)

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