医学界新聞

2017.07.03



内科医こそが行う臨床研究とは

ACP日本支部年次総会2017の話題より


支部長講演を行う上野文昭氏
 ACP(米国内科学会)日本支部年次総会2017(会長=聖マリアンナ医大・柴垣有吾氏)が6月10~11日,「スペシャリストとともに支える日本のGIM診療」をテーマに京大にて開催された。本紙では,昨年発足した日本臨床疫学会との共催セッション「内科医こそが行う臨床研究とは?」(座長=柴垣氏,ACP日本支部長・上野文昭氏)の模様を報告する。

「臨床疫学の適時」が到来

 “何よりも大切にすべきは,ただ生きることではなく,より良く生きることだ――”。最初に登壇した柴垣氏は,プラトン著『クリトン』の一節を引用した上で「現代の医療は,より良い生き方を与えているだろうか?」と問題提起を行った。特に複数の併存疾患を持つ高齢者において,RCT/SRに依拠するガイドラインの限界を指摘。臨床試験から得られるefficacy(効能)だけでなく,臨床現場のeffectiveness(効果)に関する情報を診療ガイドラインに組み込むためにも,臨床医が臨床研究のリテラシーを獲得する必要性を訴えた。

 1980年代から始まった内科の臓器別細分化を経て,超高齢社会を迎えた今,内科ジェネラリズムの復興をめざす機運が高まっている。日本臨床疫学会代表理事とACP日本支部副支部長を務める福原俊一氏(京大)は,「新しい医療に,新しい医学が必要」と強調し,その学術基盤となるのが臨床疫学研究であると強調した。医療者がビッグデータにアクセス可能な時代になったことを“臨床疫学の適時”と考察。医療者による質の高い研究を推進する「場」を日本臨床疫学会が提供していきたいと抱負を語った。

 “大切なものは目に見えない――”。サン・テグジュペリ著『星の王子さま』の引用から話を始めたのは,循環器領域のレジストリ研究を牽引する香坂俊氏(慶大)。「目に見えないものを可視化するのがレジストリ研究の意義」と述べ,PCI・心不全・心房細動における最新知見の一端を紹介した。その中には,慶大の若手医師が日常診療の疑問を発端に臨床研究をイチから勉強して論文(Circ Heart Fail. 2015[PMID:25737498])につなげた例もあり,「臨床的洞察を現場のデータベースによって裏打ちするのがレジストリ研究の醍醐味」と述べた。さらに,「現在の研究体制は,レジストリが実臨床から診療ガイドラインへのフィードバックをかける。ある意味,民主的な時代になった」と私見を述べた。

 福間真悟氏(京大大学院)は,慢性腎臓病診療を例に,診療の質とアウトカムをビックデータで解析する事例を紹介した。データベース研究は有用であるとの見解を述べる一方,その解釈には注意を要するとも指摘。エビデンスを創る側も使う側も,「研究デザインの質」に着目することが重要であると強調した。

恒例の研修病院対抗クイズトーナメント「Doctor's Dilemma」には全国から20チームが参加。今回は練馬光が丘病院が優勝,岡山大病院が準優勝。来年のACPニューオリンズ大会への切符を勝ち取った。

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