医学界新聞

寄稿

2017.04.24



『死にゆく患者(ひと)と,どう話すか』

と突き付けられたあの日から


 國頭英夫氏(日本赤十字社医療センター化学療法科)が,日本赤十字看護大学の1年次の後期ゼミにおいて,当時の1年生13人と繰り広げた対話をまとめた『死にゆく患者(ひと)と,どう話すか』(医学書院)。「死にゆく患者といかに向き合えばよいか」という“答”のない難解な問いに,皆さんはどのように答えるでしょうか。本紙では,当時ゼミを受講していた看護学生(名前は本書中に出る仮名のまま)の皆さんに,4年生になって本書をあらためて読み返して感じたこと,今思うことを寄稿していただきました。

死にゆく患者(ひと)と,どう話すか
監修=明智 龍男
著=國頭 英夫
A5・頁306 定価:2,100円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02857-8


■今後の自分の看護に役立つもの

 この本は死を前にする患者を対象に,また患者だけでなく家族のこと,もし自分だったら,と例えを考えることで授業が展開されている。

 まず,私自身が1年生ながらに出した考えを見て,当時こんなことを思いながら授業を聞いていたんだ,この質問にはこう答えたんだ,と驚いた反面,あらためて難しいテーマに取り組んだんだな,と感想を持った。さらに,今はどう考えるか,照らし合わせていくと面白く読み進めることができた。この本の中には,私たちの意見に対するコメントや,臨床での実際が添えられ,國頭先生の経験談も具体的に描かれており,これからの私自身の看護・医療に役立っていくものだ,と確信した。

 國頭先生のゼミは頭を使うことで人の気持ちの理解や自分の意見につながるため,大学の後輩たちにも今後のコミュニケーションに役立つものとして一生懸命ゼミに取り組んでほしい,と感じた。

(成田さん)


■人の死は複雑で,答えなどない

 授業で話し合ったままの内容で,読んでいてまず懐かしく思いました。この話聞いたなぁ,こんな場面あったなぁ,と頂いた本を読んでいて思い出し,この講義の楽しさや先生から学んだことの多さをあらためて感じました。 それとともに,1年生であるが故の自分の考えの甘さについて考えさせられました。先生から出された課題に対する2年半前の私の答えは,実現できるのかなというようなものが多かったなと思います。

 記憶のあるうちに身近で亡くなった人がいないからなのか,人の死に直面することの想像がついていないからなのか,何とか良い方向に話を進めて,患者を前向きにできるのではないかという楽観的な考えが私にはありました。先生からよく,「本当にそんなこと,できる?」とご指摘いただいたことを覚えています(笑)。当時は「確かにできないけど,でもこんな難しい話,他にどうすれば良いのかわからない……」と戸惑っていました。

 1年次よりも知識をつけた今,自分の考えがいかに非現実的であったかがよくわかります。本に載っていた自分のレポートなどを振り返ると,先生のコメントと一緒に,「いや,本当にできると思ってる?」と思わず突っ込んでしまいます(笑)。しかし,そう突っ込むものの,どうすれば良いのだろうとますます悩むばかりです。それほどまでに,人の死という問題は複雑で,答えなどないものなのだと思います。

 答えがないとは言いましたが,しかし,本の中で先生が仰る通り,医療のプロになるからには,不完全だろうが一時的だろうが,とにかく目の前のことに対して“答”を出して行動しなければならず,ただ手をこまねいて見ているだけ,は許されないのだと思います。難しい問題に対して自分の考えを“わからない”で片付け,いざというときに行動できない医療者にはなりたくないなと感じます。

 1年次の私が出した答えは,不完全でまだまだ危ういものだったのだとわかりました。しかしあの機会に,たくさん悩み考えたことは,確かに私の考える力を育て,多くの理解を促すものであったのだとも思います。これからも何か問題にぶつかったとしても“わからない”に逃げず,考えを追求していけるようになりたいです。

(村野さん)


■考えること自体に意味がある

 私は,1年次後期のゼミを決定するとき,ゼミのテーマはスケールの大きなものだけれども,単純に,「話を聞いてみたい。将来コミュニケーションを図る場において役に立つことがあるのではないか」と思い,このゼミを受講しました。ゼミでは,映像を用いたり,学生同士の意見を出し合ったりと,先生の考え方を含め,毎回さまざまな視点から学びを得ることができました。“死にゆく患者と話す機会”を得るということは,今の段階では難しいことですが,“死にゆく患者とどう話すか”を考えておくこと自体に意味があり,患者の生き方や権利を尊重することは何より大切なことだと感じます。

 私の知り合いに,ALSのご主人を在宅で世話している方がいますが,その方もこの本を読んでみたいと仰っていました。医療者と患者のやりとりのみではなく,患者家族もコミュニケーションの場において困ることは多くあると感じます。そのようなときに,看護する側が行えるサポートは何なのか考えなくてはならないと感じました。

(下田さん)


■一人の人間としての在り方を考える機会に

 國頭先生の講義を受けていたのは約2年半も前のことですが,昨日のことのように感じます。大学で看護の勉強や実習を重ねた今もう一度この講義を受けたら,私は何を思い考えるのでしょうか。やはり先生と考え方が似ていると苦笑される気がします(笑)。

 “死にゆく患者と話す”ことが大きなテーマでしたし,この講義はもちろん終末期医療の話でしたが,精神看護でありコミュニケーション学であり,時には宗教論でもあり,それらの実践でした。大変貴重な経験をし,多くのことを学ぶことができました。

 また,普段避けがちである死に関する問題と向き合うことで,自分の死生観やその基盤など自分の内面を見つめ直すこともできました。看護学生としてだけでなく一人の人間としての在り方を考えるきっかけになりました。

 今後看護師として活動していく中で,この講義での学びや体験がさらに生きてくるのではないかと思います。國頭先生の基礎ゼミIIは本当に楽しく貴重な時間でした。ありがとうございました。

(中嶋さん)


■原点に戻るための一冊

 実際に自分が講義を受けたのはもう2年以上前のことであるが,本を読み國頭先生の講義が本当にそのまま著されていてもう一度授業を受けているようだった。その当時はまだ1年生で実際に患者とかかわったこともなく,自分の持っている知識や自身の経験,國頭先生の講義を踏まえた上で,國頭先生からの問いについて考えた。実際に読み返すと2年前の自分の発言には突っ込みたくなるような発言もあるが,その当時の私なりに精一杯考えていたのだと思う。逆に言えば1年生なりのフレッシュな考えを持っていたからこそできた発言なのかもしれない。

 現在は4年生になり,実習を通してさまざまな患者とかかわった。退院を見届けることができた患者もいれば,長期入院から今後帰宅することなくホスピスに転院予定の患者も受け持った。今回の本のタイトルは『死にゆく患者(ひと)と,どう話すか』であるが,“死にゆく患者”相手でなくても患者とコミュニケーションを取る上で大切なことが著されている。さらにこの本を読むと,患者とその家族が病気と向き合うことはもちろんつらいことだが,医療職も葛藤しているという素直な気持ちがわかる。

 だからこそ私は医療職だけでなく,病気(特にがん)を告知された本人・家族にも読んでもらいたい一冊だと思った。私自身も自分の看護観に迷ったときは原点に戻るためにもう一度読み返そうと思う。

(福田さん)


■ただ恐ろしく,絶望を感じたけれど

 水曜日の5限目に開講されるこの國頭先生のゼミが,一番好奇心をかき立てられる時間でした。まだ実習で患者さんとコミュニケーションを取ったことがない1年生の私にとって,興味をかき立てられる講義内容でした。患者さんとのコミュニケーションの取り方などは,先生の教えが実習で生かされていると思います。

 一番印象に残ったことは,がん告知を受ける患者役をやったことです。印象に残ってはいますが,何を言われたのか,詳細を思い出すことはできません。ただ,恐ろしく,病名告知を受ける患者“役”であるだけなのに,ひどく絶望を感じたことだけが,今も鮮明に思い出されます。もし,これが,本当のがんの告知や余命宣告だったとしたら,これだけでは済まないだろうと思うとたまりませんでした。

 私は,緩和ケアやがん治療に興味があります。いつの日か看護師として,そのような治療に臨まれている患者さんに向き合い,看護していきたいと思っています。ですが,患者さんの気持ちがわからなくては患者さんに寄り添えません。デモンストレーションではありましたが,患者役をすることで,ひどい絶望感を味わいました。味わったことで,少しですが患者さんの気持ちがわかったように思えました。いつか役に立つのではないかと思っています。

 他にも,DNRや最期の希望などいろいろなテーマを,講義を通して考えました。とても難しいテーマでした。ですが,考えなくてはならないテーマです。國頭先生の教えから,これからも考え続けたいと思います。先生の講義を受けられたことは私の自慢です。

(石上さん)


■「患者様禁止」

 “患者様禁止”。この一言が強く印象に残り,國頭ゼミに入りました。ゼミでは,患者さんとのコミュニケーションの取り方や臨床の裏側について聞くことができ,非常に充実した時間を過ごすことができました。そして,先生からたくさんのことを学びました。その一つに医療従事者としての姿勢があります。「患者さんが今をよりよく生きるために何ができるのか」を常に考え,行動している先生は私にとって憧れでした。

 あのゼミから2年余りが過ぎ,4年生になりました。実習では,患者さんを受け持ち,自身でケアを計画・実施・評価します。そのため,患者さんとの関係性やケアについて悩むときも多々あります。そんなときには先生の言葉を思い出すことで,自分の看護を振り返り,患者さんとかかわることができています。

 最後になりましたが,國頭先生には本当に感謝しています。ありがとうございました。

(吉田さん)

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