医学界新聞

インタビュー

2017.04.24



【interview】

AI時代の看護教育
「意志ある学び」を実現するために

鈴木 敏恵氏(シンクタンク未来教育ビジョン 代表)に聞く


 「AIに奪われる仕事」が話題になる中,教育の分野は「知識を与えるだけの教育」から「知識を与えない教育」へと転換している。看護教育もアクティブラーニングをはじめ,能動的な学習方法が積極的に取り入れられつつある。その学びを実践でさらに生かすために,教員は学習者をどのように教え導けばよいのだろうか。本紙では,オリジナリティあふれる教育手法を長年発信し続ける鈴木敏恵氏に,自ら学ぶ力を身につけるための教育と,これからの看護教育がめざすべきビジョンについて聞いた。


――先生はこれまで,看護教育へのアクティブラーニング導入など,従来の教育手法からの転換を訴えてきました。どのような背景があるのでしょう。

鈴木 AI(人工知能)時代が到来しようとしている今,正解が決まっているもの,意味がわからなくてもできてしまう仕事はAIに取って代わられてしまいます。AIが持ち得ない能力を高めるため,学習者に一方的に知識を教えるだけの教育から,学習者主体の学びへと転換する必要があります。

――高度な認知能力によって状況判断できるAIの登場で,看護の現場はどのような変化が起こると予想しますか。

鈴木 例えば,病棟のさまざまなモノがIoT化され,看護師が獲得する情報がAIネットワークと結ばれれば,患者がベッドに寝ている間のバイタルサインなど,あらゆる情報をアセスメントできるようになります。安定していた昨日までとは違う何らかの兆候や危険因子も,画像認識でとらえアラーム機能で知らせてくれるでしょう。

 将来的には,AIが測定データと電子カルテ情報を複合して基本的な看護計画や治療方針の策定,さらには退院後,地域の社会資源活用のプランを提示するなど,仕事内容が劇的に変わることは間違いありません。

重視すべきは「センシング力」と「課題解決力」

――では,AI時代に身につけるべき能力はどのようなものですか?

鈴木 次世代教育に求められる修得知として私が提言してきたA~Dの4つ領域です(図1)。Aの「知識やスキル」が大切であることは間違いありませんが,これはAIが得意とするところで,社会の進化であっという間に陳腐化する可能性があります。一方で,何が起こるかわからない現実世界の不確実性には,AIは弱いんです。

図1 未来教育――4つの修得知モデル(『アクティブラーニングをこえた看護教育を実現する』より)

 そこで,Cの「コンピテンシー」,Bの「知性・精神」,Dの「ビジョン力」を身につけることが大切です。特にこれからの未来を描く力であるDが重要です。ありたい像(ビジョン)があることで現実とのギャップに気付き,課題解決力が身につきます。

――指導者が教えるに当たり,意識すべき点はありますか。

鈴木 「人間にしかできないことは何か」,「教育で何を提供すればよいか」の二つを考えることです。前者はDの「ビジョン力」です。AIは,人間のように自ら未来を描くことはしません。看護師は,患者さんへの励ましや優しさを,言葉やタッチングの手のひらで伝え,退院後の患者さんが「こうあったらいいな」とQOLを尊重しながらビジョンとゴールを描けます。

 後者は,「課題発見,解決力」に必須の「センシング力」です。総務省は2016年,日米の就労者が考える「AIの活用が一般化する時代における重要な能力」を調査しました(図2)。米国の就労者は「情報収集能力」「課題解決能力」を特に意識しています。業務の完遂を第一に求められる米国ならではの事情が反映されていますが,看護師の「資質」とも重なります。

図2 人工知能(AI)の活用が一般化する時代における重要な能力1)

――AIが活用される中,人間にさらに求められる能力と言えそうです。

鈴木 はい。センシング力で目の前の状況を把握することができなければ,どんな能力やスキルも発揮することはできません。学生や新人看護師に知識があっても,現場で力を発揮できないとの声をしばしば聞きます。教育現場にセンシング力を教える場面が少なく,学習者も身につけていないからです。机上のペーパーペイシェントや学内演習ではなく,現実の場でしか修得できない力なのです。

意志ある学びをかなえるビジョンの力

――先生は「アクティブラーニングをこえた教育」を提言しています。具体的な内容を教えてください。

鈴木 アクティブラーニングは手段であって目的ではありません。めざすのは...

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