医学界新聞

寄稿

2017.03.27



【寄稿特集】

勤務表に愛を込めて
師長に聞く“永遠のベストセラー”の考え方・作り方


 「休みの希望は通っているか?」「夜勤は誰と一緒か?」「連続勤務はどのくらいか?」……などなど,スタッフからの関心が非常に高い勤務表。発表すると皆が飛びつくように見ることから“永遠のベストセラー”とも言われる勤務表の作成は,看護師長の重要な仕事の一つです。しかしながら,看護の質を担保しつつ,スタッフ一人ひとりの希望に応え,全員が納得できるような勤務表を作成することは至難の業です。「看護師長になったばかりのころは,勤務表を作るだけで精一杯だった」という話も耳にします。

 そこで本紙では,現任の看護師長の皆さんに,自らの経験をもとに,勤務表作成におけるTipsをご紹介いただきました。

辻井 しず
上山 香代子
上村 美穂
吉田 仁美
加藤 千景
宮子 あずさ


辻井 しず(藤田保健衛生大学病院 腎内科病棟看護師長)


Tips 1 勤務表は,組織(病院)の発展とスタッフの自己実現を握る鍵

 勤務表は,労務管理表と言い換えることができます。つまり,勤務表作成は労務管理の基本である「病院と従業員の相互信頼」や「雇用の安定」の鍵を握る,「組織(病院)の発展」と「スタッフの自己実現」を叶える重要な仕事と言っても過言ではありません。過去から現在に至るまで,勤務表は“永遠のベストセラー”。それだけ働くスタッフにとっては関心の高いものです。それもそのはず,それが彼らの幸せを左右するのですから。

Tips 2 勤務表そのものが医療の質

 私たちがぶれてはいけない部分は,患者の安全だと断言できます。安全の確保が私たち看護師の使命であることは,同じ資格を持った看護師であれば理解に難くないでしょう。スタッフとその思いを共有した上で,勤務希望を優先します。
 一般に勤務表は縦軸にスタッフ,横軸に日付で組まれると思います。縦軸はセクションの看護力を示すもの,横軸はスタッフ個々のものと心得て,患者の安全を考えた縦軸と,スタッフの幸せを考えた横軸のバランスを取るように心掛けましょう。

①患者の安全を考えた縦軸
 スタッフの能力は,おのずと患者の安全に影響します。各自の能力を考えれば,早出や遅出などの勤務をつけることによって,人数で総看護力を高めることができます。例えば,病棟で早朝採血が多い日には早出勤務で増員すると,看護師からはもちろん患者さんからも喜ばれ,愛される勤務表になります。

②スタッフの勤務希望を叶える横軸
 当院では必ず4連休を取ることを推奨しています。ワークライフバランスを実現するためにも,まとまった休暇は効果的です。

③人間関係を考えた組み合わせ
 日頃からの目配りで,スタッフの人間関係を把握することが必要です。良好な人間関係の構築は日常の管理業務であり,楽に勤務表を作成するための礎ではないでしょうか。

Tips 3 「みんな平等」は自己満足

 「みんな平等に……」とつい考えがちですが,スタッフ各自の年齢,ライフスタイルによって,勤務に求めることも違ってきます。ライフステージによって優先すべきものが変わるのですから,それは当然のことです。ですから,「みんな平等」はスタッフの満足ではなく,作る側の自己満足にすぎません。

 例えば,長期連休取得か短期休日の頻回取得か,長時間シフトが体力的にこたえる,土日よりも平日に休みが欲しいなど,それぞれのニーズを把握します。時には希望の休日に何をしたいのかを聞いてみます。遠方への旅行なら+αの休日をつけたり,近所で人と会う程度の用事なら午前中の半日シフトも可能だったりするかもしれません。また,抜き差しならない事情で勤務変更が生じることもあるでしょう。その場合にもきちんと事情を説明し,変更に応じてくれたスタッフの翌月の休みを増やすといった配慮をし,それを他のスタッフにも理解してもらうことが大切です。そして,勤務表作成時にはスタッフ一人ひとりの顔を思い浮かべてください。スタッフ各自のニーズの把握とコミュニケーション,説明と同意(IC)。患者看護と同じですね。

●ひと言メッセージ

 上記は自論も含みますが,多くは先輩看護師長や上司,研修先の講師に教わったことです。自分一人の力には限界があります。いろいろな人にヒントをもらい,また経験してみて初めて,自分なりの“愛される勤務表”が作れるようになると思います。頑張ってください。


上村 美穂(川崎市立多摩病院 脳神経外科・内科病棟 看護師長)


Tips 1 偏りのない勤務でスタッフの士気を上げる

 どんなに一生懸命作った勤務表であっても,作成時のうっかりミスはスタッフの士気に大きな影響を与えます。時々聞くのが,「リーダーを取れる人がおらず,急きょ勤務を変更しなければならない」「日勤者が新人ばかり」「夜勤者が一人足りない日がある」ということに後から気が付いたり,時にはそれをスタッフに指摘されたりするケースなどです。急な勤務変更はもちろん,勤務者の偏りもスタッフの士気を下げる原因になります。

 私は1日の勤務帯ごとに書き出しを行い,最終確認をしています。少し手間は掛かりますが,そうすることで,各チームにリーダーを取れる人がいるか,勤務者の偏りや人数の間違いがないか,委員会参加者や時短勤務者ばかりで夕方にほとんど人がいないということがないかなどが一目瞭然になります。また,「なぜか今日はメンバーが多い」といった無駄も絶対に起きません。信頼できる安定した勤務表はスタッフの士気を上げることにもつながっていきます。

Tips 2 休み希望はスタッフにとって楽しみの一つ! 制限ばかりを設けず柔軟に

 休み希望が通っているかどうかは,スタッフにとって最重要ポイントです。休みを希望する際の制限が多過ぎると,これまたスタッフのやる気は損なわれてしまいます。

 私は,スタッフ自身が考えながら休みの希望を入れることができるよう,制限は極力少なくしています。勤務表作成に当たって一日何人まで休みが取れるのかを伝えた上で,「チーム内で休みが重なり過ぎないように」「リーダーを取れる方の重なり過ぎに注意」などの条件を提示する程度にとどめています。ルールさえ守れば希望が必ず通るということがスタッフに伝われば,自分たちで調整をしたり,仲間を思いやったりすることができるようになってくるものです。「希望は通せなかったけれど,その代わりに三連休をつけてあげた」といった独り善がりは,禁物です。

Tips 3 大切な休暇に出勤させることはご法度!

 病棟会などのように基本的に全員参加の会議もあり,休みに出勤せざるを得ないことはあります。ただ,個人が担当している委員会などの会議がある日は必ず勤務にし,休みや夜勤明けに出勤させることがないようにしています。受け持ちをしていると負担も多くなるため,遅出勤務など会議に出席しやすい工夫を可能な限り心掛けています。勤務表作成時に,予定表を確認することはもちろんですが,スタッフ各自がしっかりと管理をしていけるようにすることも重要です。

●ひと言メッセージ

 勤務表作りで大切なことは,当然患者さんの安全確保です。しかし,正論ばかり伝えてもスタッフのモチベーションは上がりません。スタッフから「神のような勤務表で驚いた」とのメッセージをもらったときには,私自身のモチベーションも上がったものです。うまく作れるようになると,勤務表作りは意外と楽しいものです。スタッフ一人ひとりを大切にしていることが伝わるような勤務表を作っていきたいですね。


加藤 千景(刈谷豊田総合病院 整形外科病棟師長)


作成する上で気を付けているポイント
Tips 1 患者の安全・安心を守れるか

 病棟師長にとって大切なのは,何と言っても患者の安全を守ることです。医療安全の観点から,スタッフが身体的にも精神的にも健康な状態で,看護実践ができる調整を心掛けています。また,力量に偏りがないように留意し,想定外の事態にも対応できる準備をしています。

Tips 2 スタッフの生活を守れるか

 仕事だけでなく,プライベートの充実も図れるよう,休日出...

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