医学界新聞

寄稿

2017.02.20



【FAQ】

患者や医療者のFAQ(Frequently Asked Questions;頻繁に尋ねられる質問)に,その領域のエキスパートが答えます。

今回のテーマ
副作用を防ぐために知っておきたい腎機能の正しい把握法

【今回の回答者】平田 純生(熊本大学薬学部附属育薬フロンティア センター長・臨床薬理学分野教授)


 腎機能が低下すると腎排泄型薬物の血中濃度が上昇し,中毒症状が起こりやすくなります。そのため,尿中排泄率の高い薬物ほど,あるいは腎機能が低下している症例ほど,腎排泄型薬物の減量または投与間隔の延長を必要とします。患者の腎機能をうまく把握できていないと,例えば腎排泄型の抗がん薬であるパラプラチン®やティーエスワン®などによる骨髄抑制,抗凝固薬のダビガトランなどによる出血といった致死性副作用を起こしてしまう可能性があります。患者の腎機能を正しく評価することは,薬物適正使用において非常に重要です。


■FAQ1

 推算糸球体濾過量(eGFR)では腎機能が正常と推算されるのに,推算クレアチニンクリアランス(Ccr)では高度腎機能障害となります。どちらが正しいでしょうか?

 当センターに実際に来た,腎機能に関する問い合わせから考えてみましょう。

 85歳女性,身長147 cm,体重26 kg,血清クレアチニン(Cr)値0.57 mg/dLの患者さんに,腎排泄型のニューキノロン系抗菌薬のクラビット®が常用量(500 mg/日)処方されました。低体重で高齢でもあることから,調剤に当たった薬剤師が減量の必要性を感じ,処方医に連絡を取り半量にしてもらいました。

 この方の場合,標準化eGFRでは74.09 mL/min/1.73 m2で,高齢ではあるものの腎機能には問題がなく,慢性腎臓病(CKD)患者ではないことになります。ところが,念のため推算Ccrを算出したとろ,29.62 mL/minとなり,高度腎機能障害に該当しました。両者の差は大きく,判断に迷います。添付文書によると20≦Ccr<50(mL/min)の範囲では「初日500 mgを1回,2日目以降250 mgを1日に1回投与する」となっていますが,疑義照会した判断は正しかったのでしょうか?

 まず体表面積補正値である標準化eGFR(mL/min/1.73 m2)は,以下の式で表されます1)

 ただし標準化eGFRはもともとCKDの重症度診断に用いるためのものです。体表面積補正されており,標準の体格(身長170 cm,体重63 kgでは1.73 m2になる)から大きく離れた症例では薬物投与設計には使えません(図の破線)。そのため,薬物投与設計に用いるにはDu Boisの式2)を用いて体表面積を求め,体表面積補正なしの個別eGFRを推算する必要があります。

 体重と推算Ccr,eGFRの関係
85歳女性,血清Cr値0.57 mg/dL,身長147 cmの場合。Ccr<30 mL/minでは,プラザキサ®やティーエスワン®は投与禁忌となる。

 この結果,本症例の体表面積は1.07 m2しかないことがわかります。また,

から,個別eGFRは45.79 mL/minと計算されます。

 このようにeGFR推算式をはじめ,腎機能推算式は複雑なものが多くあります。入力するパラメータがわかっていれば,日本腎臓病薬物療法学会の「eGFR・CCrの計算」3)を利用するとよいでしょう。同様のサイトは他にもありますが,このサイトの優れている点は筋肉量の影響を受けない4)シスタチンCによる標準化eGFR,個別eGFR,さらに推算Ccr,血清Crによる標準化eGFR,個別eGFRも同時に算出されることです。さらに,Cockcroft-Gault(CG)式5)によって肥満者の推算Ccrを計算するときに必要な理想体重やDu Bois式による体表面積も一度に計算できます。ここで,推算Ccr算出式として古くから汎用されている有名なCG式を以下に示します。

 CG式によって導き出される推算Ccrにおける問題点は,肥満者では過大評価されてしまうことで,体重が2倍になれば推算Ccrは2倍になります(図の青い実線)。一方,今回の症例のように極度の低体重の場合,推算Ccrは図の左側にシフトし,腎機能は低く推算されます(図の○に▲)。これは,血清Crが筋肉に含まれるクレアチンの最終代謝物であり,骨格筋量に大きく影響されるためです。つまり痩せた高齢者やサルコペニアの長期臥床患者では正確に腎機能を推算できません。

 特に骨格筋量の減少した高齢者では,従来用いられていた推算Ccrに比してeGFRは腎機能を過大評価してしまいます。この症例は体重が26 kgということはサルコペニアの長期臥床患者ではないで......

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