診療科の枠組みを越えた免疫難病治療を(森雅亮)
寄稿
2016.09.05
【寄稿】
診療科の枠組みを越えた免疫難病治療を
小児から成人までのシームレスな膠原病・リウマチ診療を目指して
森 雅亮(東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科生涯免疫難病学講座 教授)
生涯免疫難病学講座(以下,本講座)は,「子どもから,成人,高齢者まで一生涯にわたり,膠原病・リウマチ性疾患などの『免疫難病』の研究・教育・診療体制の統合を目指す,世界に類をみない大学講座」1)として,本年4月にスタートを切った。本学の膠原病・リウマチ内科と小児科がタイアップして,従来の講座のみでは達成できなかった,難病が抱える諸問題を手掛けていくことが本講座の大きな使命である。
既存の枠組みを脱し,「混成チーム」の診療体制へ
近年,免疫難病に対する社会的な関心が急速に高まっていることを受け,移行期医療整備を含む患者の一生涯を視野に入れた医療の重要性が見直されるようになった。2015年からは国の施策として,厚労省による難病政策の充実も図られている。
一方,本邦の大学講座は,これまで内科と小児科の枠組みから脱することができず,別個に発展してきた経緯がある。特に免疫難病においては,原因がまだ十分に解明されていないために,子ども,成人,高齢者の間での共通点と相違点が全く整理されておらず,年齢ごとに分別化されたままほとんど融合されることなく,独自に進化の道を歩んできた。したがって,生涯にわたる全人的,画一的な診断法や治療法はいまだ存在していないのが現状なのである。
そこで今求められるのは,膠原病・リウマチ性疾患などの免疫難病を,小児から成人までシームレスに研究・診療する体制を確立することである。かかる状況の下,本学では免疫難病の専門家が重職を担う講座(膠原病・リウマチ内科:上阪等教授,小児科:森尾友宏教授)と協同する寄附講座が2016年に設置され,それまで横市大で小児リウマチ診療を行っていた私に声が掛かり,メンバーとして参画することになった。小児科スタッフと膠原病・リウマチ内科のスタッフが相部屋となる,まさに「混成チーム」として始まった。
小児から成人移行期ならではの難病治療の課題とは
小児期医療の進歩により,難治であった患者を救命もしくは寛解・治癒に導くことが可能になった。それに伴い原疾患もしくはその合併症,後遺症を抱えたまま成長し,思春期,成人期を迎える患者も増加している。Young Adults with Special Health Care Needs(以下,YASHCN)2)と呼ばれるこうした患者は,年齢を重ねるごとに成人の病態の比重が増していくことになるが,現状ではYASHCNに対し,小児期医療および成人期医療が適切な医療を提供できているとは言い難い。
小児膠原病・リウマチ性疾患の代表的な疾患である,若年性特発性関節炎(Juvenile Idiopathic Arthritis;JIA)においても同様の状況がある。生物学的製剤をはじめとする治療の進歩により,小児期の関節破壊進行を抑え,思春期,成人期へと移行できる症例が増加している。しかしながら,成人診療科への移行に際しては小児科医師と成人診療科医師の連携が十分とは言えず,どの時点でどのような引き継ぎを行うのが妥当かなどの議論も乏しい。
背景には,小児リウマチ医の絶対的不足,成人リウマチ診療科医のJIAに対する経験不足と教育体制の未構築が挙げられる。そして何より,JIAの移行期診療の実態と問題点についての情報が欠如していることが根底にあるのだ。JIAのYASHCN症例の一部はその後,経過中に治療を中止しても寛解が維持されることがしばしば経験されるが,JIAのYASHCN症例における長期予後の実態や予後予測などに関する情報はまだ少ない。
JIAの移行期医療の現状および長期予後を検討するには,JIA患者を長期にわたって観察し,評価できる仕組み作りが必要になる。ただしJIAの有病率は約10人/10万人,発症率は年間1人/10万人とされ,非常に低頻度な疾患であるため,現状では小児から成人に至るまでの本疾患の全容をつかんでいるとは言...
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