医学界新聞

対談・座談会

2016.08.22



【座談会】

スイングしなけりゃ始まらない
知識をアップデートして外来へGO!

中西 重清氏(中西内科院長)
松村 真司氏(松村医院院長)=司会
矢吹 拓氏(国立病院機構栃木医療センター 内科医長)


 近年,外来診療の重要性が再認識されている。とりわけ,診療所や病院の外来では,多くの軽症疾患に適切に対応するとともに,一見取るに足らないように見える訴えの背後に潜む重篤な疾患を見逃さないことが求められる。多様な患者と短時間で関係を確立し,必要十分な情報を統合していくには,身体所見や問診といったスキルだけでなく,日々変化していく医療の常識に遅れないよう,知識をアップデートしていくことも必要だ。

 本紙では,診療所や病院で外来を担当しながら熱心に勉強を続ける三氏に生涯学習を続ける秘訣を聞いた。


松村 今回は外来診療に必要な能力の中でも,特に「知識」に焦点を当てて話をしたいと思います。

 私は,松村医院で診療を始めて15年目になります。卒後しばらくの間は,自分の実力がぐんぐん上がっていくのが実感できますが,経験年数が長くなるにつれ,だんだんとプラトーに達し,停滞気味になってきます。特に開業医は一人で診療をしていることが多いので,ガラパゴス化した独自の診療になっているかもしれないという不安も生まれてきます。でも,勉強しないといけないと頭ではわかっていても,1日診療すると疲れますし,土日は休みたくなります。誘惑に負けてゲームを始めちゃったり(笑)。

 そこで,どうすれば知識をアップデートし続けられるのか,勉強の仕方やモチベーションの保ち方を教えていただこうと思って,私が勉強熱心だと尊敬する2人の先生においでいただきました。ぜひ,その秘訣を伝授してください。

人を巻き込んで勉強する

中西 今日は,全国の開業医の代表のつもりで参加しました。勤務医を15年,開業医を25年経験していますが,今でも外来診療は難しいと思っています。特に最近は高齢化がますます進んでさまざまな疾患を抱える患者さんが増えていますし,エビデンスやガイドラインなどの知識も日々アップデートしないといけません。

 その一方で, もう66歳ですから,強烈に「勉強したい!」という時期はどうしても過ぎてしまっています。

松村 49歳の私でも,もうその時期は過ぎてますよ(笑)。この中で一番若い矢吹先生はいかがですか。

矢吹 大先輩のお二人と比べるのもおこがましいですが,私はまだ勉強したい時期にいるのかもしれません(笑)。

 でも確かに,医学生や研修医のころは「できない」ことがあまりにも多いので勉強せざるを得ませんでしたが,卒後10年以上経つと診療がある程度は「できてしまう」んですよね。ただ,医療は日進月歩ですから実は我流になっていることも多く,何らかの方法で知識をアップデートする必要を感じています。

松村 勉強しようと思っても,研修医のときのように指導医がいるわけではないので,自分で目標を決めないといけないですからね。どうすればいいかわからない,という人もいそうです。

矢吹 臨床に出てからも学び続けるためには,環境作りが重要だと思います。

 私は一緒に勉強する仲間をつくることを意識しています。国立病院機構東京医療センター総合内科で後期研修医をしていたとき,外来診療で診た患者さん一例一例を指導医が一緒に振り返ってくれました。初診だけではなく,再診もです。フィードバックの機会があることが勉強へのモチベーションにつながっていたように思います。

 その経験を踏まえ,当院では,できる限り多くの若手を集めて,実際に診た外来症例の検討会をするようにしました。「自分だったらどうするか」を考えることで,他の人が診た症例について追体験ができます。他の人の考え方を知ることができ,自分が見えていなかった点にも気付けるので,お互いに勉強になります。

中西 勉強したことは忘れてしまうもの。でも,目の前の患者さんに生かした知識は忘れません。その点が鍵だと思います。

 私は今年4月から,「21世紀適々斎塾」と「合水塾」という勉強会を主宰しています。そこでは誰もが毎日出会うような外来症例をベースに,「ごくありふれた訴えへの対処の中でも達人は何を考えているか」というテーマで学びを深めています。医師向けの勉強会はたくさんありますが,開業医にとってはあまり役に立たなかったり,講義形式が続いて眠くなったりしてしまいます。開業医が楽しめる勉強会を模索した結果,臨床実践に直結する形式になったのです。

松村 勉強がつらい原因の一つは,やりたくないことをやっているからなのですよね。つまらない勉強会に出たり,必要性をあまり感じられない本を読んだりするからつらい。でも,何かにつながる知識であれば,自分の役に立つ実感があるので,つらさは軽減されますね。

中西 「塾」の特徴はもう一つあります。開業医だけでなく,研修医や医学生とも一緒に勉強するという点です。地域の研修医,医学生のレベルを上げることにつながるので,地域への貢献という面でやりがいを感じますし,彼らは非常に勉強熱心なので場に活気が生まれます。彼らの熱心さには圧倒されることもありますが,いつの間にか引き込まれたりもする。それが良い刺激になるんです。

松村 一人だとどうしても勉強に行き詰まったり,やる気がなくなったりしますが,熱意のある人の近くに行けば刺激にもなりますし,一緒に勉強するのも楽しいですよね。

 しかし,まず勉強会に参加するというアクションを起こすためには,モチベーションが必要です。

中西 私の場合,自分一人では勉強するモチベーションがわかないので,勉強会を立ち上げたというのも本音です。自分が立ち上げた勉強会だと,皆が寝ていないかチェックしているうちに気付くと勉強できている。

松村 なるほど(笑)。

中西 そもそも,なぜ私が勉強を続けているかというと,やらざるを得ないからなんですよ。講師として呼ばれたり,勉強会に行ったり,仕方なくいろいろな会合に出たりしていると,何となくやってしまう(笑)。さらに,当院には毎年,地域の総合病院から研修医や医学生が研修や実習に来ます。そうなるとそれなりに学べる環境を用意したい。来てくれた人たちに「勉強になった」と言われたら,やっぱりうれしいですよね。

矢吹 いろんな人と接することは大切ですね。勉強のきっかけって「今のままじゃ駄目かもしれない」という気付きがスタートになることが多いじゃないですか。後期研修先の見学に行ったとき,病院で聞いた略語の半分くらいがわからなくて,焦って猛勉強したことを覚えています。最近では,論文をたくさん読む後輩が身近にいるので,触発されて定期的に論文を読むようになりました。

 いつまでも学び続けられるようにするには,自分の職場環境に新しい風が入ってくるようにするのも鍵だと思います。診療所でも病院でも,研修医や医学生が来て,素朴な疑問を発してくれると,勉強したり考えたりするきっかけになる。当然だと思っていたことも,「その根拠は?」と見直す中で気付きが生まれます。

松村 転校生は必要だということですかね。

矢吹 そうです。ドキッとする転校生が来ると,ちゃんとおしゃれしなきゃ,という意識になるかんじです(笑)。

人,本,SNS,メーリングリストさまざまな媒体を活用して学ぶ

松村 野球であれば,新人のときには速球で攻めていた投手も,ベテランになるにつれて徐々に駆け引きを覚えていく,というような変化があります。研修医時代と今とで,勉強の仕方に違いはありますか?

矢吹 外来診療をしていると,目の前の患者さんに必要な知識を即座に得ることが優先になります。そのようなときに,時間があればUpToDate®,DynaMed,ある程度信頼できそうなブログなどのWebベースの情報源にアクセスしています。

 また,きちんとしたエビデンスを示し,成書に則ったコメントができるように,普段から本や論文を読んで知識をアップデートしています。これは地道な作業ですが結構大事です。後期研修医時代は周囲にたくさんの総合診療医や総合内科医がいましたが,今の病院は専門医が主で,総合内科的な相談をできる医師が少ない環境です。私が“最後の砦”になってしまうようなことも時々あるので,適当なことは言えないなと感じています。

中西 私は学会やネットショップで良さそうな本を見かけたらどんどん買っています。熟読する時間はなかなかないので,とりあえず斜め読みしておいて,他の人からこの本が良いという情報をもらったら,ちゃんと読む(笑)。

 本の他には,FacebookなどのSNSやメーリングリストからも情報を得ています。SNSなどの良いところは,他の人が発信している情報を見ることで,自分のやっていることが正しいか否かを確認できることです。新しいエビデンスやガイドラインを知っても,それを患者さんに適用するのって勇気が要りますよね。発熱に抗菌薬は不要と言われても,今までは問題がなかったし,処方しなかったことで何かあったら怖い...

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