医学界新聞

連載

2016.08.08



めざせ!病棟リライアンス
できるレジデントになるための㊙マニュアル

ヒトはいいけど要領はイマイチな研修医1年目のへっぽこ先生は,病棟業務がちょっと苦手(汗)。でもいつかは皆に「頼られる人(reliance=リライアンス)」になるため,日々奮闘中!!……なのですが,へっぽこ先生は今日も病棟で頭を抱えています。

[第3話]
モニタ鳴ってますよ!
とっさの一歩が,“できレジ”への近道!?

安藤 大樹(岐阜市民病院総合内科・リウマチ膠原病センター)


前回よりつづく

 時刻は午後9時。病棟は比較的落ち着いているようです。明日のカンファランスに向け,病棟の隅で作業にいそしむへっぽこ先生。「よ~し,あと一人まとめたらおしまい! 帰ったら昨日録画しておいたドラマでも観よっと」なんて考えていると……。「ピコン! ピコン! ピコン!」と,モニタがけたたましい音を立て始めました。どうやら,今ローテートしている科とは違う科の患者さんのようですが……。

(へっぽこ先生) (チラッとモニタを一目し……)ヤバいなぁ~。今,病棟にいる医者,自分だけだよぉ(汗)。でも,他科の患者さんだし,下手なことして失敗しちゃったらマズいし……。

 その後もしばらく鳴り続けるモニタ。すると看護師さんが,「も~,Aさんったらまたモニタ外しちゃったのね。まぁ,認知症だから仕方ないわね」とアラームの解除ボタンを押し,慌ただしく巡回に戻っていきました。

(へっぽこ先生) よかったぁ~,何事もなくって。だいたい,もし何かあったとしても,どう動いていいか正直わからないもんな……。
(セワシ先生) ん~,コホン!
(へっぽこ先生) セワシ先生!? こんな時間にどうしたんですか!?
(セワシ先生) へっぽこ先生,今のはちょっとマズイんじゃないかな~。何もなかったからよかったけどさ。もし何かあったときどうするつもりだった?


 ベッドサイドモニタ(以下,モニタ)は,病棟に欠かせないものです。心拍数や心電図波形はもちろん,呼吸回数や酸素飽和度,機器の性能によっては体温や血圧まで把握できる,われわれにとって素晴らしい“武器”です。ただ,あまりにも当たり前の存在になり,モニタの音が,病棟の“いつものBGM”になってしまっていないでしょうか? 実際,アラームの原因で一番多いのは電極の不具合,電波切れ,電池切れ,プリンタの用紙切れといったテクニカルアラーム,いわゆる“無駄鳴り”だと言われています。でも,当たり前だからこそ,その“武器”の使い方が,皆さんの評価に直接つながるかもしれません。それに,あらためて言うまでもなく,「モニタの先に重症患者(もしくは重症化リスクの高い患者)あり」なんです。

まず最初に……,腕を組む!

 モニタが鳴り出したとき,皆さんがすべきことは,

①席を立つ!
②モニタの前に行く!
③腕組みをして考える!

 ……いや,決してふざけているわけじゃないですよ。まずは,これらを“条件反射”でできるようになることが最も大切なんです。そして,どの患者さんの,どのような異常によって,アラームが鳴っているのかを素早く把握しましょう。もし病棟スタッフが近くにいるのであれば,「何科の,どんな患者さんですか?」と確認することも非常に大切です。その情報から緊急性の高い患者さんだとわかれば,細かいチェックはさておき,とにかく“ベッドサイドへGO”です。

 確かに多くの場合は,モニタが外れたり,吸痰したりして鳴っている“空振り”に終わるケースかもしれません。でも,それでいいんです(むしろ,そのほうがいい)。いち早く異常を察知することはもちろん,「何かあったらすぐに来てくれる」という患者さんの安心感にもつながります。ついでに病棟スタッフからの評価も上がるかもしれませんし,良いことずくめです。とにかく,“いつものBGM”となってしまっているアラームを,本来の役割に戻してあげてください。

 多少の余裕がありそうならベッドサイドに行く前に,モニタから必要な情報を拾い上げましょう。モニタの種類によっても違いますが,何人かを同時にモニタリングできるセントラルモニタの多くは,特定の患者さんの情報を拡大表示する機能があり,より詳しいデータを確認できます。このとき絶対に確認してもらいたいのが,「いつから異常が始まったのか」「以前にも同じイベントがあったか」です(詳細は後述)。ここで活躍するのが,「リコール(もしくはレビュー)」機能と「トレンド」機能。主に前者が過去の心電図波形,後者が過去の脈拍数の推移を表示してくれます。勇気を持って(?)ポチッと押してみてください。

モニタの確認「これだけ」は!

【Point1】ST変化,読むべからず!?
 誤解を恐れずに言えば,“心電図モニタでST変化を読むべからず!”です。時々,心電図モニタを見て「とりあえず心筋梗塞ではなさそうだなぁ」なんて会話を聞くことがありますが,胸部誘導だけで虚血の評価はできません。「そんなの当たり前でしょ!」というツッコミが聞こえてきそうですが,普段意識していないと意外とハマる落とし穴です。たまたまST上昇を認められればラッキー(?)ですが,“心電図モニタでわかるのは不整脈のみ!”という感覚でいるほうが安全だと思います。

 極端な話,この段階で具体的な不整脈の診断をつける必要はありません。まずはシンプルに,今の状態が「経過観察で問題ない状態」「自分で何とかできる状態」「今すぐ上級医(専門医)を呼ぶべき状態」のどれに該当するのかを絞りましょう。まずは他のバイタルサインも当然チェック。その上で,

●徐脈の場合:P波のチェック!
 P波がなければ,洞機能の問題ですのでとりあえずは大丈夫。P波があれば心室の問題,つまりポンプ機能の問題ですので,緊急性は高いです。

●頻脈の場合:QRS幅のチェック!
 QRS幅が0.12秒(3 mm)未満なら上室性不整脈でポンプ機能は関係ありませんが,0.12秒(3 mm)以上なら心室性不整脈で緊急性はグッと増します。

 ここまで判断をつけ,どのような状態であるかを見極めます。当たり前の知識ではありますが,緊急時に一人で対応する際はどうしても焦ってしまいがちなので,まずはこれぐらいシンプルに考えるようにしましょう。

 ただし,これらはあくまで「不整脈単独で危険かどうか?」を判断するときの話です。突然発症であれば,どのような不整脈であっても何かが背景にある可能性はありますので,少なくとも虚血性心疾患の否定は必要でしょう(緊急で行う必要があるかはケース・バイ・ケースです)。

【Point2】胸部XP,恐れるべからず!?
 SpO2低下も,単にパルスオキシメータが外れただけの“空振り”のことは多いのですが,急激に起こったら要注意! 急性冠症候群,肺塞栓症,気胸,気管支喘息,誤嚥(痰詰まり)の他,ショックバイタルで拍動が拾えなくなっている可能性もあります。SpO2低下時の診察所見は非常に重要ですので,“ベッドサイドへGO”は必須。呼吸音の聴診によるcrackle,wheeze,左右差の確認はもちろん,「視診(呼吸パターン,起坐呼吸,チアノーゼ)」と,「頸静脈怒張(肺塞栓症,緊張性気胸,急性心不全,心タンポナーデ)」の確認も加えてください。

 「肺塞栓症なんて胸部XPじゃわからないよ~」と,ビビる必要はありません。気胸や肺うっ血,肺炎などは,それほど経験がなくても,以前の胸部XPと比較すれば,比較的わかりやすいと思います。動脈血ガス所見も,正確な酸素飽和度が測定でき,なおかつ得られる情報が多いので,施行のハードルを下げておきましょう。

【Point3】モニタ管理,無駄にするべからず!?
 少し話はズレますが,「とりあえずモニタを付けておこう!」は,結構弊害があります(看護師さんの手間が増えたり,本当に必要な患者さんに付けられなかったり)。それに,診療報酬における「呼吸心拍監視(7日以内)」のモニタ管理料は“1日150点”です。1500円分のメリットが本当にあるのかどうか……。もちろん,患者さんの状態が最優先ですが,こういった考え方を持つことも臨床現場では重要ですよ。

セワシ先生の今月のひと言

モニタ対応は,自然に反応するという“条件反射”でできるようになることが第一歩です。リコール機能やトレンド機能を使いながら,対応はシンプル&スピーディに。“いつものBGM”となってしまっているモニタ音を,本来の役割に戻しましょう!

つづく

開く

医学書院IDの登録設定により、
更新通知をメールで受け取れます。

医学界新聞公式SNS

  • Facebook