伝えてあるかないかで大違い!(安藤大樹)
連載
2016.09.12
めざせ!病棟リライアンス
できるレジデントになるための㊙マニュアル
ヒトはいいけど要領はイマイチな研修医1年目のへっぽこ先生は,病棟業務がちょっと苦手(汗)。でもいつかは皆に「頼られる人(reliance=リライアンス)」になるため,日々奮闘中!!……なのですが,へっぽこ先生は今日も病棟で頭を抱えています。
[第4話]
伝えてあるかないかで大違い!
急変・せん妄・認知症進行・転倒・廃用症候群
安藤 大樹(岐阜市民病院総合内科・リウマチ膠原病センター)
(前回よりつづく)
へっぽこ先生,眠そうな顔で朝の病棟業務中です。昨日肺炎で入院した80代の男性患者さんが,夜間にせん妄を起こして大騒ぎ! ファーストコールを受けたへっぽこ先生が,研修医本を片手に何とか対応しました。抑制帯を巻かれた患者さんは,使用した鎮静薬が効いているのか,呼び掛けへの反応はイマイチです。そこに患者さんのご家族が来院されました。「父はどうなったんだ! こんな話,聞いてないぞ!」
(へっぽこ先生) え,あ,その……,これはせん妄と言って……(あたふた)。
(セワシ先生) (そこに,偶然通りかかったセワシ先生が看護師から事情を聞き)説明不足で大変申し訳ありません。状況が変わっていて驚かれましたよね。後ほど担当者から説明がありますので,しばらくお待ちください。
(へっぽこ先生) (怒り気味に部屋に戻っていくご家族を見送りながら……)セワシ先生,ありがとうございました。焦って,何を話せばいいかわからなくなってしまって。こんな話,研修医の自分がするわけにもいきませんし……。
(セワシ先生) 確かに,最初に説明していない主治医の先生に問題があるかもしれないね。でも,へっぽこ先生も主治医グループの1人だよ。全く問題がないわけじゃないんじゃないかな?
われわれにとっては“日常茶飯事”である入院ですが,患者さんやそのご家族にとっては,“人生の一大イベント”です。自分,あるいは身内がどうなってしまうのか,どんなことをされるのか,不安な気持ちでいっぱいだと思います。病院にいる安心感から,良くなることだけを信じている方も多いかもしれません。そんな中で悪いことが起こってしまったら……?
入院中に起き得ることを全て伝えることはできませんが,「起こる可能性が高いこと」と「可能性は高くないものの,起こってしまった場合に重大な結果につながること」は,必ず伝えなければなりません(救急外来と一緒です)。これらを伝える癖をぜひ研修中につけてください。あなたの医師人生のどこかで,大きな助けになるハズです。
伝えるべきは“5D”
何を伝えるかはケースバイケースですが,入院するからには,多くの場合“状態の悪くなるリスク”を抱えています。話すかどうかを症例ごとに決めていると,どうしても漏れが出てしまうので,話す内容もある程度ルーチン化しておくとよいと思います。まず今回は,入院患者の多くを占めるであろう「高齢者」を対象に考えてみましょう。次の“5D”なんてどうですか?
①急変:sudden change
“D”と言っておきながらいきなり違う頭文字で恐縮ですが,Dが2つ入っていますのでお許しを(汗)。急性期病院を対象とした調査1)では,入院患者の予期せぬ心肺停止の確率は0.4~0.7%だったとのこと。つまり,約150~250人に1人の割合です。検査入院の方や若年者も含まれていることを考えると,高齢者や担癌患者,心疾患の既往がある方,易感染性患者などでは急変の可能性はさらに高いかもしれません。軽症での入院であったとしても,伝えておくべきでしょう。終末期医療の重要性が叫ばれている昨今,急変の可能性を伝えることで,ご本人やご家族が今後のことを考える機会になるといった利点もあります。
②せん妄:delirium/③認知症:dementia
意識がぼーっとした状態で運ばれ,目を覚ますと知らない場所で点滴につながれていたり,いろいろなものが身体に貼られていたり,尿道には得体のしれない管がつながれていたりしたら……,パニックになって当然ですよね。実際,入院患者におけるせん妄の有病率は10~30%(高齢者では10~40%)とされており,入院時に伝えないほうが不自然なほど,出合う確率の高い疾患です2)。原因は多岐にわたりますが,少なくとも重症疾患・低Na血症・敗血症・心不全・低血糖患者,認知症の既往のある方,薬剤(特に睡眠薬,抗不安薬,抗うつ薬,抗てんかん薬,抗パーキンソン病薬,抗コリン薬,H2受容体拮抗薬,強心薬,副腎皮質ステロイド,抗悪性腫瘍薬など),アルコール多飲者には,最初の段階できちんと説明しておくことが必要です。当然,せん妄に伴う抑制の必要性についても伝えておきましょう。もしあなたの親御さんが夜間入院して,何も伝えられずに翌朝縛られていたら,多分怒りますよね。抑
この記事はログインすると全文を読むことができます。
医学書院IDをお持ちでない方は医学書院IDを取得(無料)ください。
いま話題の記事
-
医学界新聞プラス
[第1回]心エコーレポートの見方をざっくり教えてください
『循環器病棟の業務が全然わからないので、うし先生に聞いてみた。』より連載 2024.04.26
-
ピットフォールにハマらないER診療の勘どころ
[第22回] 高カリウム血症を制するための4つのMission連載 2024.03.11
-
対談・座談会 2025.02.04
-
医学界新聞プラス
[第3回]冠動脈造影でLADとLCX の区別がつきません……
『医学界新聞プラス 循環器病棟の業務が全然わからないので、うし先生に聞いてみた。』より連載 2024.05.10
-
医学界新聞プラス
[第1回]ビタミンB1は救急外来でいつ,誰に,どれだけ投与するのか?
『救急外来,ここだけの話』より連載 2021.06.25
最新の記事
-
2025.01.14
-
新年号特集 医薬品開発の未来を展望する カラー解説
創薬における日本の現状と国際動向寄稿 2025.01.14
-
新年号特集 医薬品開発の未来を展望する
国民に最新の医薬品を届けるために対談・座談会 2025.01.14
-
新年号特集 医薬品開発の未来を展望する
医薬品開発の未来を担うスタートアップ・エコシステム/米国バイオテク市場の近況寄稿 2025.01.14
-
新年号特集 医薬品開発の未来を展望する
患者当事者に聞く,薬のことインタビュー 2025.01.14
開く
医学書院IDの登録設定により、
更新通知をメールで受け取れます。