医学界新聞

寄稿

2016.07.18



【FAQ】

患者や医療者のFAQ(Frequently Asked Questions;頻繁に尋ねられる質問)に,その領域のエキスパートが答えます。

今回のテーマ
心房細動の新治療:冷凍カテーテルアブレーション

【今回の回答者】沖重 薫(横浜市立みなと赤十字病院 心臓病センター長)


 頻脈性不整脈の根治療法として,高周波エネルギーによるカテーテルアブレーション治療(以下,高周波治療)が従来使用されてきましたが,2014年より冷凍カテーテルアブレーション治療(以下,冷凍治療)が日本に導入されました。画期的なテクノロジーであり,高周波エネルギーの欠点を補う治療法として評価されてはいるものの,冷凍エネルギー特有の負の側面もあることから,その特質を理解し適切に運用することが望まれます。本稿では,高周波治療との相違点について概説します。


■FAQ1

 従来の高周波治療と,冷凍治療との違いは何でしょうか。

 高周波エネルギーでは,心筋組織を最低でも47~50℃程度まで上げることで非可逆的な組織変化(具体的にはタンパク質凝固)を起こし,不整脈起源組織を挫滅します。一方,冷凍エネルギーでは心筋組織を-30~-40℃程度まで下げることで,組織を非可逆的に冷凍壊死させ,不整脈起源組織を永久に挫滅します。

 高周波治療では通電すると即座に非可逆的な壊死巣が作成されてしまうのですが,冷凍治療においては組織温度が可逆性を保持する程度の低温であれば,心臓内部を伝播する興奮を一時的に遮断することができます(これを“アイスマッピング”と呼びます)。-80℃程度まで冷凍すると永久冷凍壊死巣が即座に作成されてしまうものの,アイスマッピングでは-30℃にとどめて冷凍することで,1分以内ならば正常心筋組織が再生するため,本当に治療効果のある部位だけを治療することができるというわけです。これは,高周波エネルギーによる従来のアブレーション治療では決してなし得ない特性です。

 また,冷凍治療には“冷凍固着性”と呼ばれる特性もあります。氷をつかむと,その表面が融解するまで氷が手に固着しますが,それと同様のことが冷凍治療に用いるカテーテルでも起こります。この性質は実際にアブレーション治療を行う際,非常に好都合です。高周波治療の場合,拍動する心臓内膜表面の標的部位にカテーテルの先端部位を固定し続けることは困難な場合が多いのですが,冷凍治療の場合はカテーテルの先端部位が-30℃以下に低下すると心内膜組織に固着して動かなくなります。ただし,この“冷凍固着性”が発揮された後にカテーテルを動かしてしまうと組織が剝離される危険性が高いため,操作には注意が必要です。

Answer…不整脈起源組織を挫滅する際の温度に違いがあります(従来の高周波エネルギー:47~50℃/冷凍エネルギー:-30~-40℃)。さらに冷凍治療では,治療効果のある部位に限定した治療が可能である,冷凍固着性という性質によってカテーテルの先端部位を固定して操作を行うことができるといった利点が挙げられます。

■FAQ2

 心房細動治療への応用に際し,冷凍治療は高周波治療と比較してどのような効果が期待できるのでしょうか。

 高周波治療では,コード状のカテーテル(フォーカルカテーテル;focal catheter)の先端部位から高周波を通電し,先端部位が接する部位のみを焼灼して治療していました。この方法はPoint-by-point法と呼ばれ,直径数 mmの焼灼壊死巣を作成します。そのため,隣接する焼灼壊死巣間に“焼き残し”組織がないよう連続性のある壊死巣を作成することが求められます。これがなかなか難しく,経験の少ない術者では作成した壊死巣が非連続となり,結果的に焼き残し部位が残存することがあります(伝導ギャップ残存)。こうなると心房細動の根治には至らず,全く治療効果が望めない場合も多いです。一方,冷凍治療では,バルーンカテーテル表面が接している心房壁部位を全周性に同時に挫滅することが可能です。ギャップ部位が残存することはあるものの,従来の治療と比べて有意に狭いと言えます()。

 従来の高周波治療(上)と冷凍治療(下)1)
高周波治療の場合は,リング状の電極カテーテルを肺静脈内へ挿入し,その手前の肺静脈口周囲をフォーカルカテーテルで点状焼灼し,その焼灼点を連ねていくことで肺静脈口周囲を全周性に伝導ブロックラインを作成する。一方,冷凍治療の場合,バルーン形状のカテーテルを肺静脈口に押し当てることで完全閉塞し,バルーン表面と接している左房(肺静脈組織)を全周性に一気にブロックラインを作成する。

Answer…冷凍治療では,バルーンカテーテル表面が接している心房壁部位を同時に挫滅できるため,高周波治療と比較してギャップ部位が残存しにくく,治療効果が期待できます。

■FAQ3

 どのような症例が冷凍治療の適用となりますか。

 保険適用上は,一種類の抗不整脈薬治療抵抗性の発作性心房細動が該当します。重度の僧帽弁疾患がなく,左房径が50 mm以下のケースでは比較的治療成功率が高いとされています2)。当科では左房径がそれ以上であっても行うことがありますが,重度の僧帽弁膜症がある場合はその限りではありません。

 また,心房細動に対するアブレーション治療奏効後に心機能が有意に改善したという報告3)もあり,心機能はアブレーション適用の除外基準には当たらないと考えられます。年齢に関してはガイドライン上で明らかな制限は設けられていないものの,当科では85歳未満に設定しています。しかしながら,歴年齢が範囲内であっても身体年齢が高いと判断されることもあり,一概に年齢だけでは判断できません。

Answer…一種類の抗不整脈薬治療抵抗性の発作性心房細動に対して適用となり,重度の僧帽弁疾患がなく,左房径50 mm以下のケースにおいて治療成功率が高いとされています。

■FAQ4

 冷凍治療後,どれくらい経過すれば仕事や学校に復帰できますか。また,その後の抗凝固療法はどのように行っていくのでしょうか。

 当科ではアブレーションを実施する前日午後に入院してもらい,アブレーション実施翌日まで病態を確認します。そこで問題がなければその翌朝に退院となり,入院期間は4日間です。場合によっては,アブレーション翌日(入院3日目)に退院することもあります。

 過度な肉体労働でなければ,退院翌日から仕事に復帰可能です。通常の日常生活には支障がなく,軽いジョギングなども問題ありませんが,過度な運動は1か月間控えるよう勧めています。退院直後に穿刺部位から出血が起こることがあるため,その場合には速やかに病院を受診してもらうことが必要です。退院後の飲酒は差し支えないものの,深酒は禁物です。

 また,術後3か月間は手術の成否にかかわらず,Blanking periodと呼ばれる心房細動が起こることが多いため,抗凝固療法の継続は欠かせません。さらにもう3か月間を加え,術後6か月間は抗凝固療法を継続することが推奨されます。

 ワルファリンを投与している場合は,アブレーション手技中も継続投与とします。同薬はビタミンK製剤や新鮮凍結血漿の使用が認可されており,手技中に出血性合併症が起きた場合にも十分な対処ができるためです。一方,最近導入された抗凝固薬であるDOAC(Direct Oral Anticoagulant)はトロンビンの直接阻害や,凝固因子Xaの阻害によって抗凝固作用を発揮し,手技中に出血性合併症が起きたとしても拮抗薬がない(現在臨床試験中)ことから,手技前には中止としている施設がほとんどです。術後に穿刺部位の止血が確認された場合,できる限り早い段階でDOACを再開すると良いでしょう。

Answer…退院翌日から仕事に復帰可能で,特に問題がなければ入院期間は3~4日です。術後約6か月間は抗凝固療法を継続することが望ましく,その後は患者さんの意向次第で,比較的長期間継続する場合もあります。

■もう一言

 高周波治療の場合,心筋組織を焼灼することに伴う心筋壁穿破の危険性や焼灼部の血栓形成性などの問題がありましたが,冷凍治療ではバルーンの形状や冷凍壊死巣作成上の性質からそうした危険性はかなり改善し,比較的高齢者まで適応年齢が広がりました。今後も適用症例の増加が期待されるテクノロジーと言えるでしょう。

参考文献
1)Neumann T, et al. Circumferential pulmonary vein isolation with the cryoballoon technique results from a prospective 3-center study. J Am Coll Cardiol. 2008;52(4):273-8.[PMID:18634982]
2)Gang Y, et al. Evaluation of the Achieve Mapping Catheter in cryoablation for atrial fibrillation: a prospective randomized trial. J Interv Card Electrophysiol. 2016;45(2):179-87.[PMID:26698158]
3)Su W, et al. Best practice guide for cryoballoon ablation in atrial fibrillation: The compilation experience of more than 3000 procedures. Heart Rhythm. 2015 ;12(7):1658-66.[PMID:25778428]


沖重 薫
1981年東京医大医学部卒後,東女医大麻酔科に入局。東医歯大第一内科,青梅市立総合病院内科などを経て,89年より3年間,米ハーバード大(ブリガム・アンド・ウィメンズ病院)客員研究員。98年横浜赤十字病院循環器科主任部長,2005年より現職。近著に『冷凍カテーテルアブレーション』(医学書院)。

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