医学界新聞


Imaging の本文を書いてみよう

連載

2016.07.11



臨床医ならCASE REPORTを書きなさい

臨床医として勤務しながらfirst authorとして年10本以上の論文を執筆する筆者が,Case reportに焦点を当て,論文作成のコツを紹介します。

水野 篤(聖路加国際病院 循環器内科)

■第4回 “定石”は覚えて忘れろ?!――Imagingの本文を書いてみよう


前回よりつづく

カリスマ先生「いよいよ本文を書いてみましょう! まずは定石(お決まりの表現)を覚えるところからですね」

レジデント「がんばります! けど,前回パクリはダメって学んだし,せっかく書くならオリジナリティがあるのにしたいんで。定石とか要らないっスよ!」

カリスマ先生「……」


 今回は,第2回(第3174号)で紹介した「Imaging」を提出するための短い文章を書きましょう。

 しかし,「英文か……」と思うと,ここでまたやる気を失いがちです。そもそも何から書き始めればいいのか……。指導医に相談したら,ほとんどの先生はこのように言うでしょう。

「適当に書いて,
英文校正に出せばええやん」

 そう,おっしゃる通りです。英語が苦手なら,最後にプロフェッショナルに修正してもらえば良いのです。そこに時間をかけるのは無駄でしかありません。

 つまり,問題は校正に出す前の段階です。どのように“適当に”書けばいいのか?

覚えて忘れない定石

 他の論文を読んでみると,気付くことがあると思います。面白いほど皆同じように書く“お決まりの表現”があるということです。

 昔ばなしは「むかしむかしあるところに」で始まり,「幸せに暮らしましたとさ」で終わります。英語で言えば「Once upon a time」と「They lived happily ever after」ですね。論文にも同じように,ある一定の表現や流れ(構成)があります。まずは以下の2点を定石として覚えてしまいましょう。

1)大まかな流れ
 症例の共有方法はご存じの方も多いので今さらの話で申し訳ありませんが,一度振り返ると,
❶症例提示
❷考察
❸結論 です。

 症例検討会でおなじみの流れですよね? Imagingの論文では,❶の症例提示は,一部が画像として全面に出ているので,その理解のための最低限の付属情報を加えるだけで良いという点がポイントです。考察と結論も,画像を中心に記載することとなります。

2)始まりの言葉
 プレゼン同様,Case reportでもまずは症例のIdentification Data & Chief Complaints(IDと主訴)1)を冒頭に示します。
 A/An(年齢)-year-old(国籍)(man/woman) with(既往歴) presented to(疾患の場所) with(原因).

 上記の( )に「年齢」「国籍」「性別」「既往歴」「疾患の場所」「原因」を入れれば出来上がりです! プレゼンとの違いは,個人が特定できないように匿名化するという点です。

Imagingの英文はかなり少ない!分量感覚を養おう!

 Imagingは,NEJMやInternal Medicineでは150 words以内,European Heart Journalでも250 words以内と,分量は極めて少ないです。

 基本的には,1文の平均を20 words以内にすると,冗長にならず,読みやすい英語になります。全体で150~250 wordsの論文の場合,各項目の分量はおおよそ以下の割合です(内容に応じて❶❷にもう少し肉付けされることもあります)。

❶症例提示:3~5文(60~100 words)
❷考察:4~6文(80~120 words)
❸結論:1文(20 words)

 140~240 words程度の英作文であれば,大学受験時に経験している長さなので,なんとか集中力が続くのではないでしょうか。私は留学経験もない純粋日本培養なのでそんな感じです。

 内容にもよりますが,250 wordsは日本語だと大体500文字くらい。これは臨床的な経過を記載すればあっという間に到達してしまう文字数です。

試しに学会発表した症例を文章にしてみると,250 wordsの少なさに気付くと思います。

 最初は分量を削るのも大変かもしれませんが,短い分本当に書かなければいけない内容に集中でき,細かな部分にも気を配れます。文字を削る作業の中で,一つひとつの表現について再度検討してください。

先人に学ぶ英語表現

 さて,「一つひとつの表現について再度検討する」と言っても,そもそもどのような表現が良い表現なのでしょうか。最終的には英文校正に出すとしても,せっかくなので一人でも学べる方法をお教えしましょう。

 方法は,大きく分けて2つ。

●代表的な論文,自分が参考にした引用文献の表現を使用する
●インターネット検索

 論文での言い回しは,執筆者の個性ではなく,定石として決まっている表現が多くあります。抄読会で論文を読むときなど,英語表現に注意して読む癖をつけると今まで見えていなかった点に気付き,楽しい経験を得られると思います。ただ,文章を丸ごとコピペすると剽窃になりかねませんので完全に同じものだけを使用して書くことはないようにしてください(第3回/3178号参照)。

 インターネット検索は,イマドキの方法ですのでぜひご活用ください。まず,文章全体の文法などに関しては,Ginger pageGrammarly®などで簡単なチェックが行えます。機械的な文法チェックなので,医療従事者のような英語にある程度親しんでいる方にはレベルが低すぎるかもしれませんが,冠詞等が少し不安なときなど,たまに使用してみると意外な発見があるかもしれません。

 もう一つは,これまでの論文の言い回しを参考にするということと同じなのですが,インターネット時代ならではの検索方法があります。

①雑誌のホームページで検索
②PubMedやGoogle Scholarを用いた検索

 ①は,Case reportの投稿を受け付けている雑誌のホームページにある検索窓に,気になる表現をそのまま入れて検索する方法です。ヒットした論文を参考にすれば良いので簡単です。特に検査用語などから検索すると良いと思います。

 ②も同様ですが,①よりも多くの論文をざっと見たいときに役立ちます。

 さらに,マニア向けの方法では,The SPECIALIST Lexiconで,PubMedのAbstractをn-gramで解析する方法(検索対象のテキストに含まれる文字列を1word,2wordsなどNwords単位で分解して,後続の文字列の出現頻度を求める)もあります。初学者は使うことはないでしょうが,参考までに。

 ニュアンスの問題は,英文校正に頼るより英語と日本語の違いを自分で少しずつ確かめていく方がより良い理解につながると私は感じています。洗練された文章にしていく作業は,次の論文作成の血肉となります。英語での口演発表や日常会話でも役立つことは間違いありません。

 英語に踊らされるのではなく,英語を学ぶ楽しみを持つことが重要です。一つひとつの表現にアートを感じれば,徐々に自分の言葉になっていくでしょう。自らの血肉となっていく感覚は,臨床医が臨床に感じる魅力に似ているような気がします。

まとめ

●英語論文の表現や構成には「定石」がある
●英文校正の前に,他の論文から表現を学ぼう
●各項目の分量の感覚をつかもう

つづく

[参考URL]
1)齋藤中哉.英語で発信! 臨床症例提示 今こそ世界の潮流に乗ろう――Oral Case Presentation[第1回]Aim high! You can do it.週刊医学界新聞.2004;2568.

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