巨人の肩の上に立つ(水野篤)
先人の発見に基づいて論文を書こう
連載
2016.06.13
臨床医ならCASE REPORTを書きなさい
臨床医として勤務しながらfirst authorとして年10本以上の論文を執筆する筆者が,Case reportに焦点を当て,論文作成のコツを紹介します。
水野 篤(聖路加国際病院 循環器内科)
■第3回 巨人の肩の上に立つ――先人の発見に基づいて論文を書こう
(前回よりつづく)
カリスマ先生「さて,画像もできたし,本文を書こうか!」
レジデント「ちゅいーっす。文字数が少ないなら,コピペ(コピー&ペースト)で余裕っすね!」
カリスマ先生何のコピペをするつもりですか? 引用するなら,ちゃんと引用元を示そうね」
レジデント「引用ってなんすか?」
カリスマ先生「本文よりこっちの指導が先だな……」
今回のテーマは「引用・参考文献(References)」です。これはかな~~り重要です。前回作成したImagingではReferencesなしで提出する雑誌もありますが,論文を書く心構えにもかかわるので,参考にしてください。
臨床現場におけるReferences論文でのReferences
引用とは,「○○が~と報告していた」と,他の人の文章や事例を紹介することを言います。そして論文では,引用した場合には引用元を「References」として明示します。
なぜReferencesが必要なのか。例えば臨床現場で,「ST上昇型急性心筋梗塞で入院した61歳の患者に,β遮断薬を使用する」という状況を想像してください。β遮断薬を使用するという治療は,あなたが天才的に思いついた方法ではありませんね?
β遮断薬を開発した人がいて,
心筋梗塞に使った人がいて,
死亡率などが低下して……。
という歴史の上で,ガイドラインができ,Up to date®に載り,耳学問になり,当たり前のように使用しているという状況になっています(しかしこれすら数十年前には常識ではありませんでした)。日常臨床では,「常識」というある種の特殊表現でごまかされていますが,論文ではこのあたりは厳しめです。「私はこういう根拠を基に考えているよ!」と宣言することが必要です。
その表現や考え方などの根拠なしに記載することですら問題なのです。さらに今回のレジデントのようにコピペなどしたらどうなるか????
剽窃・盗用
(Plagiarism プレイジャリズム)
と批判され,信用を失います。
ただし,自分が考えたこと以外のこと全てを引用していても,引用だらけで何を伝えたいのかわからなくなってしまいます。その論文で伝えたい内容を説明するために必須の文献を厳選して引用するようにしてください。
プレゼンテーションや診断等の際にも,得られた所見全てを述べていては何が重要かわかりにくくなりますよね。「Pertinent positive/negative(関連性の高い陽性所見/陰性所見)」を選ぶように指導医から指摘されたことのある方もいるのではないでしょうか。論文でも同じように,意味のある文献を厳選してください。
「必要最低限」,ではなく「必要十分」です。くれぐれもPlagiarismにならないように気を付けて……。
文献管理ソフトの楽さと言ったら
しかしながら,前回取り上げたImagingを除いて,1論文あたりのReferencesは20本以上,Reviewなどでは100本以上になることもあります。ということは論文を書いている本人でさえ,どれを引用したか正確に覚えていられない可能性があります。
文章を書いてReferencesを明記して,文章を変えたら引用元を間違えないようにReferencesも変更して……。
面倒くさすぎます。
ではどうしましょうか? 前回の3つ目のポイントは覚えていますか?
ソフトを使え!
画像作成時には画像処理ソフトを使用したのと同様に,今回は文献管理ソフトの使用をお勧めします。
文献管理ソフトは,EndNote®,Mendeley®(無料!!!),Papers®,Zotero®など数多くあります。どれでもよいですが,EndNote®やMendeley®が一般的です。文献管理ソフトを使用するメリットは2つ。
●引用文献の順序変更の自動化
●スタイル調整の簡略化
ほとんどの医師がWordやその他のType writerソフトで論文を書くと思います。文献管理ソフトを使用すれば,文章の順番を変更した場合,引用番号も自動で変更してくれます!!(感動します)
文献管理ソフトのメリットにある「スタイル」とは,引用の示し方のことです。主なスタイルは,バンクーバー方式とハーバード方式の2種類(表)。ややこしいことに, スタイルは雑誌ごとに決められており,指定に合わせて変更しなければなりません。
表 文献表記スタイル(バンクーバー方式)の基本構造 | |
|
|
バンクーバー方式では,本文の中に小さい文献番号(通常,上付きのアラビア数字ですが,[ローマ数字]のときもあります)を登場順に付け,論文の最後に「参考文献」として番号順に論文を示します。なお,ハーバード方式の場合,本文の中にカッコでくくって著者名と発行年を入れ,「参考文献」では著者名のアルファベット順,発行年順に論文を示します。 |
ここでまた,文献ソフトが活躍します! ソフトに応じてスタイルをダウンロードし,Wordなどのドロップダウンからスタイルを選択すれば一瞬(0.5秒程度)で変わります。
ある雑誌でRejectされ,別の雑誌に投稿しようとした際にスタイル変更で時間を取られていてはやる気をなくします。ボタン一操作で変更できれば,内容をより充実させることに時間を費やせます。
引用文献TIPS&TRICK
私が主に使用しているEndNote®でのチョッ早引用法を紹介します。引用する文献の本文はPDFで保存している方が多いでしょう。EndNote®などの文献管理ソフトは,PDFから文献のデータを自動で取得(便利!!)してくれますが,一部のPDFは文献のデータとして取り込まれないことがあります(これは不便……)。そのような場合には,引用したい文献名をGoogle Scholarで検索し,以下の手順で取り込みます(図)。
図 Google ScholarからEndNote®に論文を取り込む手順 |
❶「引用」をクリック
❷「EndNote」をクリック
❸ダウンロードしたファイルをクリック
以前はMEDLINEでPMIDを検索してEndNote®に打ち込むという面倒なことをしていました。ソフトと自分のやり方に合った方法を考えると作業がより早くなりますので,論文を書くのも楽しくなるかもしれません。
学ぶべきことはたくさんあります。時間を節約し,より深いDiscussionができるようにしていきたいものです。
「巨人の肩の上に立つ」
というコンセプトのもとに。
まとめ●常に“引用”の意識を持つべし!!
|
(つづく)
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