ショック(頸静脈)(志水太郎)
連載
2016.06.27
おだん子×エリザベスの
急変フィジカル
患者さんの身体から発せられるサインを読み取れれば,日々の看護も充実していくはず……。本連載では,2年目看護師の「おだん子ちゃん」,熟練看護師の「エリザベス先輩」と共に,“急変を防ぐ”“急変にも動じない”フィジカルアセスメントを学びます。
■第6夜 ショック(頸静脈)
志水 太郎(獨協医科大学総合診療科)
(前回からつづく)
J病院7階の混合病棟。 2年目ナースのおだん子ちゃんは今日も夜勤です。今日は,日勤帯に入院予定の患者さんが夜勤帯引き継ぎの時間にずれこんでしまい,やや忙しめのスタートでした。患者さんは柿山さん(仮名),70歳女性。約半年前から何となく食欲がなく,最近息苦しさも感じるようになったそうです。胸部造影CT検査をしたところ,右肺門部に腫瘤影があり,精査のために入院することになりました。ADLはほぼ自立しており,既往歴はありません。
深夜3時のラウンドで柿山さんの顔色がなんとなく優れなかったことが気になっていたおだん子ちゃん。夜の仕事がひと段落つき,少し時間があったので様子を見に行きました。あれ,柿山さんが苦しそうにしています!
(患者) 「うーん,うーん……」
(おだん子) 「苦しそうに悶えてる! ええと,アイウエオアイウエオ……呼吸数は20回/分くらい? (とりあえず,ベッドに腰掛けて起座位になってもらって,と)柿山さん,どんなかんじの苦しさですか?」
(患者) 「なんだか身の置き所がないような……(ハァハァ)」
息が少し早いことを確認したおだん子ちゃんは,患者さんの手足に触りました。前回(第5夜/第3176号)と異なり点滴はしていませんが,ジトっとした汗をかいています。
(おだん子) 「なんだかショックっぽいかも?! ええと,ぐったりしてるし,真っ青かどうかは部屋が暗くてわからないけれど,冷や汗もかいてる。わりとハアハアしてるし,脈も弱い。100拍/分くらいかな。血圧は……」
ダブルハンド法(第2夜/第3163号)で血圧を測ろうとすると……。
(おだん子) 「上腕動脈を少し押さえただけで脈が消えちゃう! 橈骨動脈も触れるかどうかで,血圧が低いどころじゃない!」
さて,この後はどのような行動をすればよいでしょうか? 読者の皆さんも一緒に考えながら進んでみましょう。
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急変ポイント❻
末梢を触って,ジトッとしたイヤな汗を感じたらショックの前兆かも!?
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血圧計を持ってきて測定すると,血圧は80/60 mmHgでした。SpO2は酸素投与なしの状態で97%です。
(エリザベス) 「あら? どうなさって?」
(おだん子) 「先輩! 柿山さんが身の置き所がないようなかんじで悶えています(先輩いつもヤバい当直のときにいるなあ……心強いけど)」
(エリザベス) 「(さっと患者さんの末梢を触って)やあねぇ,ショックじゃない」
(おだん子) 「そうなんです! “ざっくりショック(ぐったり真っ青冷や汗ハアハア脈なし,第5夜/第3176号)”にもほぼ当てはまってます!」
(エリザベス) 「あなた,ちゃんと復習なさっているのね。素晴らしくてよ。……あら,何ですの,その頸静脈は」
(おだん子) 「へっ?」
エリザベス先輩は頸静脈の異変に気付いたようです。一体何が問題なのでしょうか?!
ショックは温かいショックと冷たいショックに分けられると第4夜(第3172号)で紹介しましたが,心臓系と血管系という分け方もできます(図)。冷たいショックの内,心臓系ショックは2つ,前回紹介した左心系の「心原性ショック」,そして今回紹介する右心系の「閉塞性ショック」です。
図 ショック(典型例)を鑑別する3つのフィジカル |
頸静脈は右心の一歩手前にあるので,頸静脈が怒張していたら,全身から心臓に向かう血管,または心臓内のどこかで血液の“交通渋滞”が起きているということです。それは,実際に(=器質的に)詰まっているのか,機能的に(ポンプとしてうまく働かず,血液を送り出すことができなくなっている)詰まっているのかのどちらかになります。詰まっているということを閉塞という言葉で置き換えると「閉塞性ショック」という言葉になります。
エリザベス先輩のキラキラフィジカル❻
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(エリザベス) 「肺音はクリアー(正常)ですわね」
エリザベス先輩は聴診器を取り出し,肺音は綺麗(CrackleやWheezeがない=右心系ではない)なことを確認しました。次に聴診器を移動させ,心音を聴いているようです。
(エリザベス) 「心臓の音が遠いわね。あなた,この音お聴きになって」
(おだん子) 「本当だ,心臓の音が小さいっていうか,遠くで聞こえるような……」
さらにエリザベス先輩は血圧を測りながら,患者さんに呼吸を促します。すると,吸気時の10 mmHg以上の収縮期血圧低下(奇脈)がありました。
(エリザベス) 「まずいわね。あなた先ほど,身の置き所がない様子だとおっしゃっていたわね」
(おだん子) 「はい」
(エリザベス) 「肺の腫瘤が心臓の近くにある方でしたわね? おそらく,心タンポナーデよ」
心臓の構造を簡単に言うと,心臓の筋肉の外側に二重層の袋(心膜)があり,さらにその外側を線維性心膜という固めの膜が覆っています。線維性心膜は膨らみにくいため,心筋と線維性心膜の間(心膜腔)に何らかの液体が急に溜まると,心臓が外から圧迫されます。心臓の壁は,左心よりも右心のほうが薄いので,右心から先に拡張できなくなります。これが心タンポナーデによる急性右心不全です。心膜の中に液体貯留があり,心臓の音がより胸壁から遠くなるため,また液体による伝導低下で音が小さくなります。
左心系の心不全の場合,肺から心臓に送られてきた血液を全身に送り出すことができないために肺の毛細血管に圧がかかり,肺水腫になります(第4夜/第3172号)。一方,左心にはそこまで影響が出ていない,右心のみの心不全の場合(特に急性期)は“身の置き所のないだるさや倦怠感”という非常にあいまいな症状になります。
(エリザベス) 「すぐにドクターをお呼びになって。私は酸素マスクと心電図計,救急カート,それと念のため気管挿管と穿刺の準備もいたしますわ」
(おだん子) 「はいっ!」
医師が駆け付け,閉塞性ショックの可能性が高いとして治療が始まります。心エコーにより心嚢液貯留が確認されると,緊急の心囊穿刺が行われました。その後カルテには,肺門部肺癌の心膜浸潤による心タンポナーデが考えられると書き残されていました。
★
今回はまず,見た目で直感的にショックを見つける方法を復習しました。さらに,末梢,肺音に続く第3のポイント,頸静脈に着目して,ショックの原因を探りました。頸静脈を見る機会は少ないと思いますが,気を付けてアセスメントすると重要なことを教えてくれます。
ショックの原因にまで当たりをつけることで,その後の動き(何を準備するか,どこに連絡するかなど)が違うことは前回もお伝えしました。それに加えて,疾患によっては相談する科の医師も違ってきます。急変時は主治医に報告するのが通常ですが,心タンポナーデであれば循環器系の医師に相談したほうが,より適切かもしれません。もしこの急変がERで起きたなら,循環器系の医師にドクターコールするという選択肢も十分にあると思います。
さて,これでショックを分類する3つのフィジカル全てを紹介しました。ショックの分類は今回でおしまい。次回は「気道」のアセスメントを紹介します。お楽しみに!
おだん子のメモ6月27日
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(つづく)
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