ショック(肺音)(志水太郎)
連載
2016.05.30
おだん子×エリザベスの
急変フィジカル
患者さんの身体から発せられるサインを読み取れれば,日々の看護も充実していくはず……。本連載では,2年目看護師の「おだん子ちゃん」,熟練看護師の「エリザベス先輩」と共に,“急変を防ぐ”“急変にも動じない”フィジカルアセスメントを学びます。
■第5夜 ショック(肺音)
志水 太郎(獨協医科大学総合診療科)
(前回からつづく)
J病院7階の混合病棟,時刻は深夜2時。2年目ナースのおだん子ちゃんは今日も夜勤です。今日は夜勤引継ぎの時間帯に入院した患者さんがいて,少し忙しいスタートでした。
患者は岡本さん(仮名),79歳。大動脈弁狭窄症と肺気腫の既往がある方です。入院の原因は脱水。入院7日前から風邪気味で調子が悪く,喉の痛みで水分もなかなか取れなかったそうです。患者は1年前妻に先立たれて一人暮らし。ADLはほぼ自立していましたが,身の回りの世話を妻に頼っていたため,体調が悪化しても何もできず,横になっていたそうです。電話に出ないことを心配した妹が家を訪れたところ,衰弱した患者を見つけ,救急搬送となりました。入院後は,点滴による補液が行われていました。
しかし,ラウンドで岡本さんの部屋に行ってみると……!?
(おだん子) 「あれ? 岡本さん,酸素飽和度が低い……!」
(患者) 「……(ハアハア)」
(おだん子) 「どうしたんですか? (苦しそう! ええと,アイウエオアイウエオ……)呼吸数は30回/分くらい?」
パルスオキシメーターのモニターが点滅しているのを見つけたおだん子ちゃん。以前ならオロオロしていましたが,今夜はただ「苦しそう」という観察で終わらせるのではなく,素早く呼吸数を数えました(第1夜/第3159号)。成長しています。
さて,この後はどのように行動したら良いでしょうか? 読者の皆さんも一緒に考えながら進んでみましょう。
★
おだん子ちゃんは,患者さんの手足にさっと手を当てました。ジトっと冷たくて嫌な感じです。次に総頸動脈に親指を当てて,瞬間脈拍(第3夜/第3168号)で脈を取ります。およそ120拍/分。さらにダブルハンド法(第2夜/第3163号)で血圧を測ると,100/70 mmHg程度でした。
(エリザベス) 「それで? どうなさって?」
(おだん子) 「先輩! ええと……手足が冷たくって,酸素飽和度が低……」
(エリザベス) 「(さっと患者さんの末梢を触って)あらやあねぇ,ショックじゃない」
(おだん子) 「えっ,バイタルも見てないのにわかるんですか!?」
(エリザベス)「バイタルを測る前に,見て判断なさって。経験に基づく直観的思考(System 1)1)ですわ! これだけ冷や汗をかいていらして苦しそうなら,それだけでショックとわかりましてよ」
エリザベス先輩,重要なコメントを言っています。
ショックの5徴候は5 p,「虚脱(prostration)」「蒼白(pallor)」「冷汗(perspiration)」「呼吸不全(pulmonary insufficiency)」「脈拍触知不能(pulselessness)」と言われます。
英語で覚えにくい方は,リズムで読んで覚えちゃいましょう! 「ぐったり真っ青冷や汗ハアハア脈なし」。これを続けて10回読んでみてください。
急変ポイント❺
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(おだん子) 「ぐったり真っ青冷や汗ハアハア脈なし……ほとんど当てはまる!」
(エリザベス) 「さ,お急ぎになって」
そう言うとエリザベス先輩は患者さんを一瞥し,聴診器で両側の背中の音を聞き始めました。
(エリザベス) 「心不全よ。この音をお聴きになられて?」
エリザベス先輩は聴診器を患者さんに当てたまま,イヤーピースをおだん子ちゃんの耳に付け替えました。
(おだん子) 「肺雑(肺性副雑音)ありです!」
(エリザベス)「肺雑……まあそうですわね。随分ざっくりですけれど。この状況で聞くべきなのは,『断続性副雑音(水泡音・捻髪音)』と『高調性連続性副雑音(笛音)』ですってよ」
(おだん子) 「へ?」
肺性副雑音には大きく分けて,断続的な音(ブツブツ,パリパリ)と連続的な音(ヒュー,クゥー)があります。それぞれさまざまな呼び方がありますが,今回は音のイメージでお伝えします。
エリザベス先輩のキラキラフィジカル❺
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荒く速い息をしている患者さんの肺音を聞くと,両方の肺から,吸気時・呼気時共に大きなブツブツという水っぽい断続音,連続的なヒューという高い音が聞こえました。 これは肺胞が水浸し(ブツブツ音)で,気管支も水でむくんで通り道が狭くなっている(ヒュー音)状態だと言えます。
肺が水浸しなのは肺胞の毛細血管から水が染み出す状態(肺水腫)が起きているからです。その原因は,左心室から全身に血液を送り出す力が低下したこと。血液の流れに交通渋滞が起こり,左心室手前の肺動脈の圧が上がった結果,肺の毛細血管の圧も上がり,肺胞に水が染み出します。
平たく言うと,呼吸が速く,両側の肺でヒュー音,ブツブツ音が聞こえるときは左心不全だということです。この状態のショックであれば,急性左心不全による心原性ショックだと言えそうです。末梢が冷たいという点も心原性ショックの症状にマッチします。
(エリザベス) 「今すぐドクターをお呼びになって。私は酸素マスク,人工呼吸器と救急カート,それと心電図計を持って来ますわ」
(おだん子) 「はいっ!」
(エリザベス) 「(きっと大動脈弁狭窄症が原因ね。輸液の量が多すぎたんだわ……)」
ドクターが呼ばれ,左心不全によるショックとして原因を調べながら治療が始まりました。
★
いかがでしたでしょうか。まず今回は,見た目で直観的にショックを見つける方法を学びました。さらにその原因を探る上で,前回の末梢に続く第二のポイント,肺音について学びました。聴診器では,肺性副雑音の有無だけではなく,少し踏み込んでその種類を特定してみてください。慣れれば心原性ショックを見つけられますよ。
ショックの患者さんということがわかった後,その原因に当たりをつけておければ,その後の動き(何を準備するか,どこに連絡するかなど)が違います。フィジカルだけで迅速にアセスメントできれば,今よりワンランクアップです!
次回はショックの締めくくりとして,さらに一歩進んだアセスメントをご紹介します。お楽しみに。
おだん子のメモ5月30日
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(つづく)
◆参考文献
1)志水太郎.診断戦略――診断力向上のためのアートとサイエンス.医学書院;2014.
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