これが私の進む道!! 2016(君付優子,大月幸子,大熊ひでみ,庄島蘇音,菅原誠太郎,多田和裕,的場光太郎,髙橋卓人,吉田晶南)
寄稿
2016.05.16
【寄稿特集】これが私の進む道!! 20169人の先輩から後輩へ“贈る言葉” |
「自分自身を信じてみるだけでいい。きっと,生きる道が見えてくる」。これはドイツの詩人,ゲーテ(1749~1832)の言葉です。医学生や,初期研修医の皆さんは,さまざまな診療科に魅力を感じながらも,いざ進路を決めるとなると迷うこともあるのではないでしょうか。“本当にやりたいことを”とは言われるものの,自分の“道”を決めるのはたやすいことではありません。そこで今回は,さまざまな分野で活躍する9人の先輩に,現在の“道”を選んだ理由や研修生活などについて聞いてみました。進路に悩む後輩への“贈る言葉”が,自分なりの医師像を見つけるきっかけになれば幸いです。
こんなことを聞いてみました
❶経歴 ❷診療科の紹介 ❸ここが聞きたい! a.この科をめざしたわけ b.現在の研修生活は? ❹同じ道を志す後輩への“アドバイス” |
君付 優子 庄島 蘇音 的場 光太郎 | 大月 幸子 菅原 誠太郎 髙橋 卓人 | 大熊 ひでみ 多田 和裕 吉田 晶南 |
◆外科
患者さんのモチベーションの高さが入局の決め手
君付 優子(福岡県済生会大牟田病院 外科)
❶2010年久留米大卒。公立八女総合病院での初期研修後に久留米大病院外科学講座へ入局。同大病院での外科ローテート後に関連病院での勤務を経て,16年より現職。
❷外科は,手術をメインとする科です。初めは胆石症やヘルニアなどの良性疾患を執刀して手術の経験を積み,徐々に悪性疾患の手術の執刀をするようになります。現在は開腹手術だけでなく,腹腔鏡下の手術を執刀する機会も増えてきました。また,検診や化学療法などに携わることもあります。手術に興味がある人はもちろん,検診や化学療法に興味がある人など,さまざまな人にお勧めできる科です。
❸もともと医師を志したときから外科に興味を持っていました。しかし手先が特に器用なわけでもなく,初期研修での外科ローテートはかなりハードだったこともあり,卒後3年目になるときの進路選択はとても悩んだことを今でも覚えています。また,外科医として生活を送る中で「外科は大変だよね」「なんで外科を選んだの」などと言われることがしばしばあります。外科に進んだ方はおのおのの思いを持っていると思いますが,私が最終的に外科への入局を決めた理由の一つは“患者さんのモチベーション”でした。
外科手術には悪性疾患と良性疾患の両方があり,手術所要時間もさまざまです。いずれにしても手術を受けることは,患者さんやご家族の人生においてとても大きなイベントです。そのため,私たち外科医がその患者さんに手術が必要だと判断しても,患者さんやご家族の同意がなければ手術を実施することはできません。つまり,手術は患者さんの“決意”があって,初めて行われるのです。
手術を受け,術後のつらい状況を乗り越えるのは患者さん本人であり,私たち外科医はそれに力添えすることしかできません。しかし“決意”を固めた患者さんの多くは積極的にリハビリに臨んだり,離床に努めたりとモチベーション高く治療に参加してくれます。私はそんな患者さんたちの治療ができるところに外科の魅力を感じています。
❹大変なことはもちろんたくさんあります。外科の同期11人のうち,女性医師は私を含め4人いますが,男性との体力差を感じることもあり,正直「辞めたい」と思ったこともあります。しかし,私は外科をやりがいのある科だと心から感じていますし,外科に進んだことを誇りに思っています。昨今,外科へ進む人が減少していると言われますが,同じ志を持った仲間はたくさんいます。進路に悩んでいる研修医の皆さん! 外科医として活躍してみませんか。
◆麻酔科
ダイレクトに全身管理ができる
大月 幸子(広島大学病院麻酔科 医科診療医)
❶2009年広島大卒。同大病院で初期研修後,JA広島総合病院勤務を経て,13年より現職。14年より広島大大学院へ進学。
❷麻酔科は何をしているか外からはなかなかわかりにくい科だと思いますが,主に手術のときの麻酔の管理をしています。手術麻酔には,全身麻酔以外にも硬膜外麻酔,脊髄くも膜下麻酔,神経ブロックなどさまざまな方法があり,私たちは行われる手術に適した方法を選択しています。手術内容も体表の小さな腫瘤を切除するものから,心臓を止めて行う心臓血管外科の手術までさまざまな侵襲度のものがあり,麻酔科医にはそれらに対応できるスキルと知識が求められます。また手術麻酔以外に,癌性疼痛や慢性疼痛を扱うペインクリニック,集中治療なども行っており,病院によっては救急科と同様にホットラインの対応も行っています。
❸学生時代,当時はやっていた『医龍』という漫画に登場する風変わりな麻酔科医を見て,「職人っぽくてかっこいいな」と思ったのが,麻酔科に関心を持ったきっかけでした(単純です)。その後,初期研修で麻酔科をローテートした際,とにかく手技の多さが楽しかったこと,またそれ以上に術中管理がとても面白く感じたことから,さらに興味を持つようになりました。術中管理は自分の操作に対してダイレクトに反応が返ってくるため,そこも気の短い私にはぴったりでした。もともとモチベーションがすごく高い医学生というわけではありませんでしたが,医師たるもの全身管理ができなくてはだめだと常々思っていたので,その点でも麻酔科は合っていると思いました。
一方で,医師になったのに主治医にならないのはどうなのかと悩んだ時期もありました。内科のように自分で診断して,治療方針を決め,その治療が効いて晴れて退院,というのもとても魅力的でしたが,具体的に内科のどの分野に進むのが良いか決定的な理由がなかったことと,主治医になれなくても自分次第で主治医以上に患者さんのことを考えることはできると思ったことから,最終的に麻酔科に決めました。
❹麻酔科はいろいろな働き方ができる科です。努力すれば心臓血管麻酔や移植の麻酔もできますし,自分のライフステージに合わせて少しセーブしながら働くことも可能です。働き方はそれぞれでも,病態生理や呼吸・循環などの知識の習得は麻酔科の大前提となります。ですから,研修期間はいろいろな科を回り,その科の考え方や知識をどんどん増やしていってほしいと思います。そうすれば麻酔科に限らず,どんな科でもつぶしが利くでしょう。頑張ってください。
◆放射線科
難解なクイズに挑戦する毎日
大熊 ひでみ(東京大学医学部附属病院 放射線科)
❶2003年京大大学院医科学研究科修士課程修了。岡山大医学部へ編入学し,09年卒。愛知県がんセンター中央病院で初期研修後,虎の門病院を経て,13年に東大大学院医学系研究科博士課程に入学し,15年より現職。
❷放射線科は大きく分けると診断部門と治療部門があります。診断部門では主にCTやMRIなどの画像診断と,経カテーテル的治療を中心としたIVR(interventional radiology;血管内治療)を行います。もう一方の治療部門では,主に悪性腫瘍に対し放射線を用いて“切らずに治す”治療を担当します。放射線科の一番の特徴はカバーする領域が広いことで,全身の臓器・疾患を対象とし,アプローチの仕方もさまざまです。
❸a.医学部入学前に大学院で画像を用いた脳機能研究に携わっていたので,いずれは神経内科か放射線科に進もうと決めていましたが,入学後に学生実習でお世話になった放射線科の先生に大きな影響を受けました。当時の私には何が異常かすらよくわからなかった画像でも,先生はバシッと診断を言い当てていました。人柄も魅力的で,他科の先生方から頼られている姿を見て,「私も将来はこうなりたい」と憧れ,放射線科(特に診断部門)に心が傾くようになったのです。しかし,初期研修医として実際にローテートを始めてみると,治療計画を立てるのが楽しかったこと,放射線治療医自体が全国的にまだ少なくアットホームな雰囲気だったことから,治療部門に進むのもいいなと思い始めました。そのため研修医2年目の後半まで悩みましたが,難解なクイズに日々挑戦し続ける診断医の仕事に面白さを感じて,最終的に診断部門を選びました。もっとも,本を読んで勉強することが大好きで,難解なクイズを解くのが楽しいと錯覚していただけだったことに後で気付くことになるのですが……(苦笑)。
各分野が細分化され,より高度に専門化されていく流れの中で,放射線科は全身を診ることのできる数少ない専門分野です。診断部門は患者さんに直接触れる機会の少ない部門ではありますが,IVRでは積極的に治療を行うことも可能です。治療部門では外来を担当しますし,施設によっては病棟を持ち主治医としても活躍できます。
b.現在は大学院生として研究をしながら,大学病院で主にCTやMRIなどの画像診断と,肝細胞癌に対するIVRを担当しています。また,二児の母であることも主たる仕事(?)の一つです。三足のわらじを履けるほどスーパーウーマンではありませんが,周囲の理解と協力のおかげで楽しく充実した毎日を送っています。
❹放射線科は技術の進歩により,近年急速に発展した比較的新しい専門分野です。そのため放射線科医は圧倒的に不足しており,若くても活躍の舞台が多数あります。多様性を受容する気風もあり,きっと皆さんの“天職”や“居場所”を見つけることができるのではないでしょうか。全身のあらゆる疾患が対象となりますので,学生実習やスーパーローテで学んだ全ての経験と知識が役立ちます。これは興味ないな,将来に関係ないなと思うことでも,ぜひ前向きに取り組み,吸収していってください。
◆糖尿病内科
病気を診る以上に,患者さんの“人生”を見る科
庄島 蘇音(岡山済生会総合病院糖尿病センター 後期研修医)
❶2011年岡山大卒。同年より松山市民病院にて初期研修後,岡山済生会総合病院糖尿病センターで後期研修中。糖尿病内科,腎臓内科専攻コース。
❷糖尿病センターでは,外来および病棟で多数の糖尿病患者さんを診療しています。当科では,地域との連携を重視しているため紹介患者も多く,2~3か月先まで教育入院の予約がいっぱいということも珍しくありません。また,各診療科や各医療スタッフと連携したチーム医療や,教育資材をデータベース化してiPadで共有するシステムの構築などにも取り組んでいるため,糖尿病のチーム医療のモデル病院として雑誌や講演会,学会などにもよく取り上げられています。真の意味で,糖尿病患者さんを総合的,包括的に診られる病院であると思います。
❸a.実は私は,医学部に入る前に薬学の修士課程を修了しており,その後製薬会社で新薬の臨床開発に4年近く従事していました。それはくしくも,糖尿病の新薬(現在発売中のSGLT 2阻害薬)の臨床開発でした。大学院でも血糖降下薬の創薬研究をしていましたし,祖父も糖尿病でしたので,いろいろな意味で糖尿病という病気と運命的に深く縁を結んでいたように感じます。そのためか医学部に入ってからも進路について大きな迷いはほとんどありませんでした。
b.初期研修後に岡山済生会総合病院で後期研修を開始し,現在4年目になります。当院では,糖尿病内科に加えて腎臓内科も専攻コースに加えることができたので,週1~2回の透析管理も任されています。また,救急当直や健診の仕事もあり,多忙な日々を過ごしています。特に,済生丸に乗船して島の健診に行くという仕事は,他の病院ではなかなか体験できないものです。
糖尿病外来は週1回で,合計50人前後の患者さんを診ています。臨床成績や治療効果などを日頃からこまめにまとめ,毎年学会や地方会で必ず発表しています。2年前からは欧州糖尿病学会にも参加しており,まさしくEye Openerのような経験をすることで大きな刺激を受け,臨床に対するモチベーションもさらに上がっています。私の治療方針によって,糖尿病外来を受診した患者さんの血糖値が良くなり,肥満やメタボリック状態も改善して,生き生きとしたすてきな笑顔を見せてくれるようになることが一番のやりがいで,充実感と達成感を感じる瞬間でもあります。
また,糖尿病の治療において最も大事なことは,食事療法と運動療法です。人を説得するためにも,医師になってから運動を始めるようになりました。最初はサイクリングだけでしたが,4年前からマラソンを始め,現在は水泳もしています。最近は食事も減塩・カロリー制限に努めており,外食や宴会などとはほとんど無縁の生活です。糖尿病教室や外来のときに,自分のマラソン大会の写真やサイクリングの経路,使っているGPS時計,運動アプリ,運動靴などについて話をして,少しでも興味関心を持ってくれたらと考えています。私と同じ運動靴を買った,同じアプリを使って運動するようになった,という話を後で聞くと非常にうれしくなります。
❹糖尿病は根治が難しく,生涯にわたって患者さんとお付き合いしないといけない病気です。病気を診る以上に,“人”あるいはその患者さんの“人生”を見るという長い目が大切だと思います。そして,食事療法や運動療法を自らも実践することで,運動の喜びと楽しみを患者さんと共有することができ,一体感が得られます。糖尿病は新薬の研究・開発が日進月歩の世界であり,これからも新しい機序の薬剤やより使いやすい剤形,デバイスがどんどん世に出てくるでしょう。常に新しい物を受け入れられる柔軟な心と,日々勉強する向学心が必要です。また,仕事がどんなに忙しくても時間を絞り出して運動習慣をつけ,体力・気力づくりに励んでいけばきっといつか報われます。千里の道も一歩より(「千里之行,始於足下」――老子)ということわざがあるように,どんな大きな目標でも最初の第一歩を踏み出すことが最も大事です。
写真 2015年11月,岡山マラソンにドクターランナーとして参加したときの1枚。 |
◆救急科
多様な疾患に正しく対
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