FAQ 医療事故調査制度―医療者はどう在るべきか(木村壯介)
寄稿
2016.03.21
【FAQ】
患者や医療者のFAQ(Frequently Asked Questions;頻繁に尋ねられる質問)に,その領域のエキスパートが答えます。
今回のテーマ
医療事故調査制度――医療者はどう在るべきか
【今回の回答者】木村 壯介(日本医療安全調査機構 常務理事)
第6次医療法改正に基づき,2015年10月に「医療事故調査制度」が施行開始となりました。本制度における医療事故は,「当該病院等に勤務する医療従事者が提供した医療に起因し,又は起因すると疑われる死亡又は死産であつて,当該管理者が当該死亡又は死産を予期しなかつたもの」1)と定義されています。医療機関の管理者は事故の判断をし,「医療事故調査・支援センター(日本医療安全調査機構)」へ報告を行った上で,当該医療機関自らが事故の調査を行う「(院内)医療事故調査」が義務付けられたのです。本制度の目的は事故原因の究明と再発防止を図ることによって,医療の質・安全の向上をめざすことにあり,個人の責任を追及するものではありません。今回は,本制度が開始された経緯や今後の課題についてまとめてみました。
■FAQ1
「医療事故調査制度」が,制定されたのはなぜでしょうか。
医療事故の原因究明を医療者自身が行い,そこで学んだことから事故の再発を防止することこそが,医療事故調査の基本であるべきだという機運が高まったためです。1999年の医療事故多発を契機に,マスコミによって“医療不信”が頻繁に報道され,医師法第二十一条に基づく警察への医療事故の届け出が急増した時期がありました。この届け出の急増は,1994年に日本法医学会から出された『異状死ガイドライン』2)も大きく影響していたと言われています(診療行為に関連した予期しない死亡,およびその疑いがあるものは警察へ届け出ること,等)。このころは脳死下での臓器移植が開始され,死の概念の変更,死の判定基準の再検討が要請された時代でもありました。このようにして警察の捜査による事故調査の結果が出るにつれ,事故当事者の責任追及を行っていたのでは,医療の観点から求められる基本的な解決策は得られないという結論に至ったのです。
これに前後して,医学界や医療団体等の医療者側と,行政から多くの提言や試案が出されました。本制度に直接つながるものは,2012-13年にかけて厚労省主体で行われた「医療事故に係る調査の仕組み等のあり方に関する検討部会」3)でまとめられました。医師,看護師,法律家,患者代表,その他有識者からなる10数人の委員によって,制度のあり方が検討されました。その結果,個人の責任追及ではなく事故の原因究明と再発防止を図るために,当該医療機関が院内において事実関係の調査・整理を行うことを基本とした本制度が完成したのです。
Answer…警察捜査による責任の追及は,医療事故の調査として望ましくないとして,新たな調査制度が作られました。本制度では医療者自らが主体的に医療事故の原因究明を行い,再発防止に努めることで,医療の質・安全の向上をめざしています。事故当事者の責任追及は目的としていません。
■FAQ2
新たに設定された「医療事故調査等支援団体(以下,支援団体)」の役割は何でしょうか。
外部の医療の専門家として医療機関を支援する支援団体には,以下の具体的な役割が定められています。支援内容を事故発生以降の流れに沿って示すと,①「医療事故」であるか否かの相談,②解剖・Ai(死亡時画像診断)の施行支援,③調査委員会の設置・運営,④調査手法に関する助言,⑤事故の情報の収集・整理,⑥専門家の派遣,⑦報告書の作成となります。その他にも時系列によらない継続的な支援として,制度全般に関する相談なども受けています。なお,支援団体はこれら全ての支援を提供している必要はなく,団体ごとに支援可能...
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