MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内
2016.02.29
Medical Library 書評・新刊案内
吉村 長久,後藤 浩,谷原 秀信 シリーズ編集
大島 浩一,後藤 浩 編
《評 者》三村 治(兵庫医大主任教授・眼科学)
眼腫瘍を網羅した圧巻の解説書
この《眼科臨床エキスパート》シリーズは眼科実地臨床のエキスパートたちが自らの知識と豊富な臨床経験に基づいてさまざまな疾患の解説を行うものであり,臨床眼科医必携のシリーズである。本書のように,テーマによっては項目の最後に「一般眼科医へのアドバイス」という実際の症例に遭遇したときの診療の注意やコツまで記載されているタイトルもあり,専門外の読者にとってはありがたい。
しかし,シリーズ新刊『知っておきたい眼腫瘍診療』でまず衝撃を受けた(読者の先生方はこれから受けるであろう)ことは,その圧倒的なボリュームの多さである。総ページ数476ページというまさに圧巻の解説書である。しかも内容も素晴らしい。総論に200ページ近くを費やして,大きな分類ごとに「疫学的事項」から始まり,「初診時の外来診療――どう診てどう考えるか」「診断・治療に必要な検査」「治療」を非常にわかりやすく解説しておられる。これは眼腫瘍専門家ではないものの,時々眼腫瘍を診療する機会のある私たちにとって非常にありがたい。
最近の他のシリーズものでは編者らによる総論が全体の1割から2割程度で,あとのほとんどは分担執筆者による各論の疾患の解説というものが多い。しかし,このシリーズでは総論に重点が置かれているタイトルが多いようである。本書も前半は編者の大島浩一(岡山医療センター眼科医長),後藤浩(東京医大教授・眼科)両氏の識見に基づいた,眼腫瘍全体の診療の仕方が勉強できる,まさにそれだけで一冊の教科書である。また,総論には最後に「Topics」が6項目挙げられており,抗がん剤や放射線治療に伴うさまざまな眼合併症から悪性黒色腫に対する分子標的治療薬まで,最新の治療の動向が理解できる。
各論では,これまでの成書では軽く触れられているだけであった眼瞼腫瘍,角結膜腫瘍にも多くのページが割かれている。特に,良性の尋常性疣贅,伝染性軟属腫,乳頭腫やリンパ管腫などは,日常臨床では非常にありふれたものでありながら多くの成書や雑誌の特集にはほとんど記載されておらず,手術やOCTなどの検査ばかりしている大学のレジデントや後期研修医にとって,診療が苦手な疾患である。これら眼科のいわばcommon diseaseについても丁寧に記載されている。
一方で,本書の後半は眼腫瘍の専門解説書としても一流の内容であり,臨床現場でそれぞれの疾患に遭遇した際に知識を補うためにひもとく本でもある。臨床所見の特徴,鑑別診断,治療方法について非常に具体的な記載があり,さらに治療に伴う合併症や予後と経過観察(どのような治療をいつまで行い,どのような間隔で経過観察を行えばよいのか等)についても数字を挙げて解説している。
確かに眼腫瘍自体の頻度は緑内障や加齢黄斑変性などに比べると圧倒的に少ない。しかし,少ないとはいえ一定の数で必ず眼腫瘍患者は存在し,明日にもあなたの外来を受診するかもしれない。眼腫瘍の手術はしていなくても,適切な検査を行い,正しい診断を行うためには眼腫瘍診療の仕方を修得する必要がある。本書は眼科のレジデントから専門医まで,皆に薦めたいまさに必読の書である。
B5・頁476 定価:本体18,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02394-8


日本診療情報管理学会 編
《評 者》岩﨑 榮(NPO法人卒後臨床研修評価機構専務理事)
診療情報管理士が日常的に使える“座右の書”
5年前に初版が発刊され,このたび5年目にして全面改訂とまでは至らないにしても,今回の改訂が編集委員会の代表者であり日本診療情報管理学会の前理事長大井利夫氏の言う新しい概念,新しい知識・技術を取り入れ,時代に合った学術書としてのクオリティを保持し得たものと確信していると語らしめているほどに素晴らしい意欲的編纂の第2版出版である。
随所に新しい記述が加筆され目を引く。例えば第I編第6章「D.診療情報とがん登録」の項に,2016年1月から施行されたがん登録推進法「がん登録等の推進に関する法律」(平成25年法律第111号)の記載が新しく追加されていて,さらにこのことは,第II編第2章「6.がん登録」の「D.臓器がん登録」の中でも触れられている。また同じ章の中に,「A.WHO国際統計分類(WHO-FIC)」が全く新しく加えられている。これはWHOが作成した医療・保健に関する国際統計分類の集まり(ICD,ICF,その他開発中のICHIを中心分類とし,派生分類と関連分類を加えたもので構成される)である。ことにICFはICDとの相互補完的利用により,患者個人の付加情報を豊かにするものであり,医療,介護のスタッフと患者,家族との共通言語としての活用への期待が大きいと強調されている。また,それらの関係性がわかる図が示されていて読者の理解を容易にしていることも,この項だけに限らないが親切さが目を引く。
恐らく,本書を教科書的に利用する診療情報管理士にとってはバイブル的なものであり,机の上の飾り物ではなく日常的に座右の書として利用できるものとなっているところからも,管理士諸氏に本書の活用を推奨したい。毎日目を通しても本文407ページ,巻末資料35ページを加えてもそんなに時間はかからない。読破可能である。
話は元に戻るが,特記すべきは,第III編第1章の「S.災害時の診療」において,大災害を経験した日本においてしか提案できない災害時の診療記録の在り方や法的な問題等に触れ,さらには第6章の「C.救急記録(救急救命処置録,トリアージタグ)」で,「4.災害発生時の医療記録と事業継続計画(BCP : Business Continuity Plan)」を取り上げている点である。また,第7章「医療事故調査に求められる診療情報による事後的検証能力」の記述では,「医療事故の医学的な原因究明が事故調査の目的であって,責任を追及し当事者を罰することではない」とし,「この調査は裁判など,法的な判断とは関連せずに行われ,中立・公正性と専門性の担保の下でなされる必要がある」(p. 385)とした上で,あらためて,診療記録の重要性が述べられている。全ての医療関係者必読の項である。
大井氏は序論で,本書刊行の目的についてこう述べている。「診療情報が患者を中心とする多職種参加のチーム医療の下で正しく活用され,医療の質の向上に寄与することを願うためで,それが医療界全体の知識を深め,真の知恵の創生に役立つための一助になることを望みとしている」(p.4)と。全く同感である。
B5・頁488 定価:本体8,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02397-9


前田 哲男,木山 良二,大渡 昭彦 著
《評 者》鶴見 隆正(湘南医療大リハビリテーション学科長)
バイオメカニクスの重い扉を解き放つテキスト
理学療法の臨床現場では,骨・関節系疾患や脳卒中などによって歩行や階段昇降などの基本動作が困難となった方に対する運動療法とADL指導は大きなウエイトを占めている。ヒトが椅子からスムーズに立ち上がったり,不整地な道でも安定して歩いたり,階段昇降ができるのは,抗重力下における動的姿勢制御と生力学的制御が相互に関与し合っているからである。それだけに基本動作に関するバイオメカニクスの知識は重要となる。
このため理学療法士・作業療法士をめざす学生にとって,臨床運動学や運動学実習でのバイオメカニクスの学習は必須となるが,これがなかなか難解な教科となっている。それは一つの基本動作を遂行するには,関節運動がどのように生じ,どの筋群がどのタイミングで活動し,連鎖的な筋収縮がどのように生じているのか,またベクトルはどの方向に作用しているのか,などバイオメカニクスの分析力と演算的な理解力が求められるからであろう。
本書のオレンジ色の帯に記された「バイメカをあきらめない!」「なんだ,バイオメカニクスって,こういうことだったのか」の文言には,バイオメカニクスをひもとく喜びと,同時に長年,大学で運動学の教育に携わってこられた著者の前田哲男先生はじめお三方の教育マインドと教授力が込められている。
本書は全11章から構成され,「椅子からの立ち上がり」「歩行」「起き上がり動作」「車椅子動作」を軸に,これらの動作遂行に必要不可欠なバイオメカ的視点の姿勢制御,重心と支持基底面,筋力測定と力のモーメント,重心動揺と床反力,関節モーメントなどを章立てし,各章ごとに4―15項目の生力学的な設問と解答・解説が,各1ページに統一されて計85問配置されている。全ての設問と解答・解説には,キーポイントとなるイラスト,図表が組み込まれ,また各章の初めには,学習目標と重要語句の解説一覧が提示され,さらに最新の力学的な情報コラムを随所に配置するなど,理解度を高め,やる気を促通するような工夫がなされている。苦手意識のあるバイオメカニクスの重い扉を解き放ち,自学自習に誘うような学習者本位の構成となっており,本書を手にして,設問と解答を見比べながら,「そうなんだ!」と納得する姿が透けてくる。
「バイオメカニクス」を自学自習できる本書を,理学療法士・作業療法士を志す学生はもちろんのこと,臨床現場で日々,身体機能評価や運動指導に携わっている理学療法士,作業療法士,言語聴覚士にも最適なテキストとして推薦する。...
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