医学界新聞

2016.01.18



Medical Library 書評・新刊案内


ニューロリハビリテーション

道免 和久 編

《評 者》三上 靖夫(京府医大病院教授・リハビリテーション医学)

大きな可能性を秘めた脳科学分野リハビリテーションの現在がわかる

 脳の可塑性を生かしたリハビリテーションが目覚ましい進歩を遂げ,注目を集めている。基礎から順序立てて勉強したいと思っていたところ,脳科学分野のリハビリテーションを学ぶのに最適の書物が刊行された。編者の兵庫医大リハビリテーション医学教室主任教授である道免和久先生は,昨年,教授就任10周年を迎えられた。道免先生にとって記念すべきこの年に,ご自身がライフワークとして取り組んでこられたニューロリハビリテーションのエッセンスを医学書院から上梓されたのである。

 ニューロリハビリテーションというワードが講演や論文で広く用いられているが,コンセンサスを得た定義はまだない。本書の第1章の概論では「ニューロリハビリテーションとは,ニューロサイエンスとその関連の研究によって明らかになった脳の理論等の知見を,リハビリテーション医療に応用した概念,評価法,治療法,機器など」である「neuroscience based rehabilitation」と明確に定義されている(p.3-4)。本書は,ニューロリハビリテーションの基礎から先端の治療法に至るまで網羅されている。

 脳の可塑性の話から運動学習理論に進む第2章では,最新の知見を含んだ脳科学の基礎が凝縮されている。この章の内容を頭の中で整理した上で次章の臨床の項に進むと理解が深まるので,読み飛ばさずじっくり読んでいただきたい。難解な内容もあるが,豊富でわかりやすい図と読みやすいコラムが理解を助けてくれる。

 第3章は,CI療法を中心とする「ニューロリハビリテーションの実際」である。CI療法は,evidenceに乏しかったリハビリテーション医学をscienceに押し上げたニューロリハビリテーションの代表的治療法である。道免先生は,米国で開発されたCI療法をわが国に導入し,得られた知見をたくさんの著書や論文に記してこられた。CI療法の項は,本法を実践してきた兵庫医大病院リハビリテーション部のスタッフが最新の知見を織り交ぜながら,その神髄をまとめている。本章では,さらにロボット療法,HANDS療法,反復経頭蓋磁気刺激法・経頭蓋直流刺激法,神経筋促通手技,機能的/治療的電気刺激,ボツリヌス療法などについて,脳科学の切り口から解説されている。現在,リハビリテーションの最前線で行われている治療法が,脳の可塑性の上に成り立っていることが強調されている。

 最後の第4章は,「ニューロリハビリテーションの展望」と題され,開発が進むBCI(brain computer interface),リハビリテーションなしでは成し遂げられない再生医療,そして締めくくりとして,道免先生が先端医療としてのニューロリハビリテーションについてまとめられている。

 本書は実践書ではなく,ニューロリハビリテーションを知るための読み物である。一度損傷されると二度と再生されないと言われてきた人間の脳が,実は可塑性を持ち,いかに可能性を秘めた臓器であるかを知らしめてくれる書物である。ニューロリハビリテーションの奥深さと面白さを感じてもらいたい。

B5・頁328 定価:本体4,200円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02009-1


口腔咽頭の臨床 第3版

日本口腔・咽頭科学会 監修

《評 者》住田 孝之(筑波大教授・膠原病内科学)

口腔咽頭領域の内科診断学のマージンを大きく広げてくれる良書

 『口腔咽頭の臨床 第3版』がこのたび出版された。本書はこの領域における揺るぎない良書であり,日本口腔・咽頭科学会が1987年に設立されて以降,1998年に初版が,2009年に第2版が,そして2015年に第3版が上梓されるに至っている。学会が監修している権威ある臨床に役立つテキストが,日本口腔・咽頭科学会理事長の吉原俊雄先生の先導によりさらなる改訂がなされ,パワーアップされている。

 本書の第一の特徴は,耳鼻咽喉科のみならず他科との境界領域となる口腔咽頭という極めて複雑かつ多機能な頭頚部の重要な部位を取り扱っており,全身疾患との関連にも焦点を当てていることである。内科,外科,小児科,整形外科,形成外科,皮膚科,歯科などを専門とする医師にとっても有用な書になっている。

 第二に,構成が簡潔明瞭で,図表・写真の占める割合が大きいことである。基本的に左ページにテキスト,右ページに図表・写真というコンパクトな構成をとっている。項目も疾患の定義,症状と所見,診断,鑑別診断,治療,予後とコンパクトで明解である。第三に,新たな概念・知見・手術手技などが追加提示されていることである。診断推論や臨床推論の力強い助けになる有用な情報が潤沢に盛り込まれており,日々の診療現場での活躍が期待できよう。

 また本書は,われわれ内科医にとって口腔咽頭領域の内科診断学のマージンを大きく広げてくれそうである。視診,触診は行わなければ得るものがなく,行っても情報処理が稚拙であると,やはり益が少ないことになる。この書にのっとって診断学のベースアップを図り,治療につなげられることを期待したい。内科のみならず,頭頚部の領域を専門としない他科においても同様なことが言えると思う。

 膠原病内科の立場からは,扁桃疾患,唾液腺疾患に関しての貴重な情報が得られる。古典的な疾患の特徴的局所所見は強く印象に残るものである。

 新しい疾患概念から抽出されたIgG4関連疾患は,高IgG4血症,IgG4陽性形質細胞浸潤・線維化によるものであるが,耳鼻咽喉科的側面からの検査は特に重要であり,涙腺,唾液腺に特徴的な所見が存在する。本書にはIgG4関連疾患包括診断基準の提示があるが,あくまで最低条件を確認する基準であることから,臨床像に加え局所の病理学的所見が重要であることが強調されている。IgG4陽性形質細胞浸潤の存在と著明なリンパ球,形質細胞の浸潤は見逃せないものであるが,さらに花筵様線維化,閉塞性静脈炎の合わせて三つの形態学的特徴を呈してくることなど,本書では丁寧に説明がなされている。このあたりは,生検臓器,部位の適切かつ経験的な卓越した標本採取にかかわる専門の書として貴重な表現が多々見受けられ,感慨深く,見事に重責を果たしている書と感服させられる。

A4・頁220 定価:本体15,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02163-0


末梢病変を捉える
気管支鏡“枝読み”術
[DVD-ROM(Windows版)付]

栗本 典昭,森田 克彦 著

《評 者》荒井 他嘉司(結核予防会複十字病院顧問)

CT画像から立体的位置関係を理解する技を伝授

 気管支鏡,特に末梢肺のEBUSに長年取り組んでおられた著者が,自身の努力と経験を基に気管支を末梢枝までCT画像で読影・同定する術を大成させて一冊の本として著しました。

 本書は,第1章ではスライス間隔0.4 mmのCT画像を用いての気管支の枝読みの方法とEBUSの基本的な知識,第2章では症例に基づいた枝読みの実際,第3章では肺末梢病変に対するEBUS-GS法についての基本的技術の解説とうまく入らなかったときの解決法,第4章ではEBUS画像と切除標本の対比,以上4部に分けてわかりやすく解説されています。

 本書の主題である枝読みの内容について紹介します。気管支鏡の初心者がCT画像から気管支分岐を立体的に構築する上で,まずまごつくのは胸部CTの水平断面像が,尾側から見る像であるのに対して,気管支鏡医は被検者の頭側に立って患者を頭から見るため,観点が正反対である点ではないでしょうか。本書の特徴は,CTの水平断面像を左右反転し,さらに上葉では時計方向(右)または反時計方向(左)に回転した上で,それと内視鏡所見とを対比させながら読影法を解説してあることです。それにより,内視鏡とCTの所見との立体的位置関係が初心者にも理解しやすくなりました。末梢気管支分岐の分析においては,5次・6次気管支に及ぶCT画像分析とそれに対応する気管支鏡所見とを対比して解説しています。このような詳細な分析は他に類を見ません。

 DVDに収められた症例のCTに対応する内視鏡所見は,鉗子が挿入されると視野が邪魔されてどの枝に入ったかがわかりにくくなる傾向にあるのは残念ですが,やむを得ないことと思います。またDVDがWindowsにのみ対応ということで不便を感じる読者も少なくないのではと思われます。

 近年CTの3DCGによるバーチャル気管支鏡を用いたガイドが進むにつれて,検者が末梢の生検部位への経路,すなわち気管支分岐の立体的位置関係をあまり考えないで検査する傾向にあるのではないかと懸念されます。しかし,気管支分岐をCT画像の読影から頭の中で立体的に構築する能力を磨くことは呼吸器学を極める者の基本と考えます。本書の完成は気管支分岐を立体的に構築しながらCT画像を読むという呼吸器学の基本的な姿勢を再認識させてくれる良い機会となり,その技を磨くための道筋を本書が示してくれていると思います。

A4・頁184 定価:本体12,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02072-5


乳幼児健診マニュアル 第5版

福岡地区小児科医会 乳幼児保健委員会 編

《評 者》横田 俊一郎(横田小児科医院院長)

さらに細やかな見直しがなされた乳幼児健診必携のマニュアル

 小児診療に携わる者であれば誰もが知る『乳幼児健診マニュアル』の第5版が出版された。本書は1992年に医学書院から初版が出版されたが,その前身となる『乳児健診マニュアル』は1985年6月に発刊されており,昨年で30年という節目の年を迎えたことになるという。当時新たに始まった10か月児健診に,他科の医師も参加することを視野に入れて作られたと最初のマニュアルには記されている。

 本書はほぼ完成された乳幼児健診のマニュアルである。携帯しやすく手元に置きやすいサイズで,しかも小児科専門医以外の医師が診察することも考え,乳幼児健診に必要な事項が過不足なく網羅されている。さまざまなマニュアル本が出版されているが,実際に健診を行う際にこの本ほど手頃なものはない。

 内容も第4版で既に完璧と思われたが,第5版ではさらに細かいところの改訂がなされている。まずは表紙をめくった見開きに,各月齢の発達の目安・ポイントが本文より抜粋されて掲載されている。これから健診を行う児の月齢を頭に入れ,このページを確認してから健診に臨むことができる。「月齢別の健診のしかた」は8項目中6項目の執筆者が交代した。内容に大きな変更はないが各月齢の「発達の目安・ポイント一覧」が最初に示され,さらに利用しやすくなるよう細やかな見直しがなされている。

 「すべての子どもが健やかに育つ社会」をめざして昨年から始まった健やか親子21(第2次)の新たな計画を踏まえ,重点課題である「育てにくさを感じる親に寄り添う支援」「妊娠期からの児童虐待防止対策」に主眼を置いた改訂も行われている。「育児相談・育児支援」のパートでは,「母親のメンタルヘルスと育児支援」の項目が独立してより詳細な内容となっており,「子どもの虐待への気づきと支援」では,健診の場での虐待防止へのかかわりが述べられている。

 米国と同様に,わが国の小児のプライマリ・ケアを担う医師の仕事が感染症診療から,子どもの健康を守り,増進させることに重心を移してきていることは明らかである。小児のプライマリ・ケアを担う医師,小児科専門医だけでなく,脚光を浴びている総合診療専門医をはじめ地域のプライマリ・ケアを担っている医師の誰もが,乳幼児健診に取り組まねばならない時代になった。日本小児科学会も「小児科医は子どもの総合医である」と宣言し,乳幼児健診を中心とする研修会を定期的に開催するようになった。本書の果たす役割は,ますます大きくなっているように見える。

 本書を親しみやすいものにしている大きな要因の一つに,可愛い赤ちゃんのイラストがある。30年間使われ続けているこのイラストが,乳幼児健診マニュアルの生みの親の一人である松本壽通先生がお描きになったものであることを巻頭言で知り,この本への愛着がますます強くなった。乳幼児健診にかかわる全ての人に利用していただくことを切に願うものである。

B5・頁160 定価:本体3,200円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02158-6


肝癌診療マニュアル 第3版

日本肝臓学会 編

《評 者》坪内 博仁(鹿児島市立病院長)

ガイドラインとともに肝癌診療に携わる臨床医必携の書

 このたび,日本肝臓学会編集の『肝癌診療マニュアル』が改訂され,第3版として上梓された。『肝癌診療マニュアル』初版(2007年)は,もともと『科学的根拠に基づく肝癌診療ガイドライン』(2005年)に準拠して発刊されたものであり,2009年のガイドラインの改訂に合わせ,本マニュアルも2010年に第2版が出版された。今回の第3版は,2013年のガイドラインの改訂を受けて改訂されたものである。

 『肝癌診療ガイドライン』と同様,本マニュアルも日本肝臓学会の事業として改訂作業が行われ,その方面のエキスパートが執筆し,日本肝臓学会企画広報委員会委員や理事の方々の査読により,マニュアルとしてのレベルが保証されている。

 本書の章立てや項目立てなどは基本的に第2版と同じで,第2章「肝癌診療に必要な病理学」,第4章「肝癌早期発見のためのスクリーニング法」などはその性質上ほぼ改訂されていない。しかし,肝癌の診断や治療アルゴリズムは,ガイドライン2013年版を反映して,“コンセンサスに基づく肝細胞癌サーベイランス・診断アルゴリズム2015”および“コンセンサスに基づく肝細胞癌治療アルゴリズム2015”に改訂された(第5章「肝癌の診断」および第6章「肝癌の治療」)。また,乏血性肝細胞性結節の記述は,アルゴリズムの中に組み入れられ,すっきりした記載になっている。診断における血管造影検査の役割がほとんどなくなったことから,血管造影の項目も削除されている。さらに,ソラフェニブに続く多くの分子標的治療薬の開発に期待が込められていたものの,本書では期待通り進まなかった開発結果が記載される形になっている。その他,第2版の経皮的肝灌流化学療法は,本書ではその記述がなくなっている。また,「NAFLD/NASHからの発癌機序」(第1章C)については,最近の進歩が取り入れられ詳しくなっている。第2版に続いて,病診・病病連携や抗がん薬開発についての項目も,とても有用である。

 B型肝炎に対する核酸アナログの完成度が高くなり,C型肝炎はdirect acting antivirals(DAAs)の開発によりほぼ100%ウイルス陰性化が得られるようになり,B型肝炎およびC型肝炎はほぼ制圧できる時代になった。しかし,B型肝炎による肝細胞癌は,まだ減少の気配は見られず,C型肝炎についても患者の高齢化が進んでいることから,ウイルス陰性化後に発癌する患者の増加が見込まれている。さらに,非B非C型の肝癌は確実に増加していることから,今後も肝癌の診断および治療は肝臓病の大きな課題である。本書は『科学的根拠に基づく肝癌診療ガイドライン』と共に,肝癌診療に携わる多くの臨床医にとって必携の書である。

B5・頁216 定価:本体2,800円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02167-8


心因性非てんかん性発作へのアプローチ

Lorna Myers 原著
兼本 浩祐 監訳
谷口 豪 訳

《評 者》中里 信和(東北大大学院教授・てんかん学)

翻訳部はオーケストラ,コラムはピアノ独奏

 心因性非てんかん性発作(Psychogenic Non-Epileptic Seizure;PNES)とは,感情的問題が引き金で生じる発作であり,脳の電気的興奮が原因のてんかん発作とは病態が異なる。てんかん発作と酷似するためベテラン医師でも鑑別が難しく,患者によっては真のてんかん発作と合併する場合もあり,臨床現場では診療に苦慮する場合が少なくない。本書は米国の臨床心理士が執筆した書籍を,てんかんを専門とする精神科医の谷口豪先生が訳したものである。谷口先生は,てんかんとその周辺疾患の心の問題について造詣が深いだけでなく,患者の生活全般にわたる広い視野を持ちつつ社会全体に対しての啓発活動にも積極的に取り組んでいる。

 原著者は執筆の「第1の目的はPNESの患者の教育」であるとして,「教育を受けた患者は(中略)ドクターショッピングをするのをやめ(中略),患者自身が治療を強力に主導できるようになるのです」と書き出している(「原書の序」より)。さらに「第2の目的は,患者の家族や愛する人たち,医療従事者,そして一般の多くの人にこの病気を知ってもらうこと」と述べられている。

 ただし本書の前半部分は医学書的スタイルのため,患者にはやや敷居が高い印象を受ける。本書が述べているように,患者は自分に関係する本書の部分をセラピストと共有するのが理想型であろう。医師や心理士が最初に読んで本書の構成を理解しておいて,次に患者や家族に本書を薦めてみる手順が,疾患教育には現実的ではなかろうか。

 章が進むにつれて,てんかん学(神経学)的内容から,精神医学的・臨床心理学的な内容に変わる。心的外傷の役割,誘発因子,不安のコントロール,ポジティブ心理学などの章になるにつれ,読みやすさがどんどん増す。読者が患者である場合は,前半部の難しさにめげずに後半を楽しんでもらいたい。後半では具体的な生活指導まで細かく記載されている。最後のソローの引用「あなたが想い描いた人生を生きなさい」で,本書はクライマックスを迎える。

 監訳の兼本浩祐先生は,てんかんに詳しい精神科医としての国際的リーダーである。本書には兼本先生がコラムを書き下ろしている。「PNESにおいて薬物療法は常に副次的である(中略)。PNESそのものに関しては,プラセボ効果以上の効能が投薬にあるのかどうかに常に注意を払うべきである」(p.33)は名言だ。さらに,医師が臨床心理士や精神科医の助けを借りずに対処する方法として,患者の継続可能な受け入れ体制をつくる,病名告知が治療にも反治療にもなる,社会環境と本人との距離を調節する,の3点が述べられている部分も迫力がある。オーケストラの翻訳部とピアノ独奏のコラムがマッチしたコンチェルトのようなすてきな本である。

A5・頁208 定価:本体3,400円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02197-5


内視鏡下鼻内副鼻腔手術[DVD付]
副鼻腔疾患から頭蓋底疾患まで

森山 寛,春名 眞一,鴻 信義 編

《評 者》川内 秀之(島根大教授・耳鼻咽喉科学/日本鼻科学会理事長)

今日の内視鏡下鼻内副鼻腔手術の理論体系を見事に確立

 300ページ余りを擁する本書は,鼻・副鼻腔あるいは関連領域の疾患に関する外科的治療について解説した,国内最高の教科書と言える。後世に残る歴史的なstate-of-the-artである。書評を依頼され読んでいくうちに,自分にフルボディのビンテージの赤ワインを味わう資格があるのかと,自問自答する羽目になった。そのため,小職が多忙な仕事の合間を縫い時間をかけて熟読するのに2か月を要した。その理由には,二つの大きな要素がある。第一の理由は,本書が単なる内視鏡を用いた鼻内副鼻腔手術の技術的な解説書ではなく,高橋研三先生に端を発し高橋良先生に受け継がれ,多くの慈恵医大の諸先輩の長年の努力により,熟成され築かれてきた集大成の結実であることをひしひしと感じたからである。第二の理由は,臨床医学としての鼻内副鼻腔手術の技術革新に貢献する手法として,本書には鼻副鼻腔の機能解剖に関する研究の歴史と深い造詣が基盤にあり,慈恵医大方式と謳われる今日の内視鏡下鼻内副鼻腔手術(endoscopic sinus surgery ; ESS)の理論体系が見事に確立されている点である。素晴らしい成書であると賞賛し感嘆するほかない。

 各論に少々触れてみると,編者の森山寛名誉教授が述べておられるように,ESSを志す若手の耳鼻咽喉科医から,症例経験の多い術者まで,幅広く,座右の銘として使える仕様になっている。付録のDVDは,解説書の理解を容易にし,その情報が2次元的に読者の脳に入ってくる。

 また本書には,鼻副鼻腔疾患を有する患者の鑑別診断,局所所見や画像診断からの術前の病変の熟読から,内視鏡手術を施行するに当たっての術前の準備,術中の対応,術後の患者のケアがきめ細かく記載されている。また,それらの実施を完璧にするため,種々の医療材料や手術器具の使い方についても,微に入り細に入り紹介されており,ESSを行う読者のニーズに対応するencyclopedia(百科事典)と言っても過言ではない。慢性副鼻腔炎や鼻茸の手術はもちろんのこと,鼻中隔手術,外傷や腫瘍,各種頭蓋底病変に対する内視鏡手術についても,詳細な臨床解剖に基づいた手術手技が紹介されている。さらに手術の際の副損傷に関しても,その要因や予防について詳細にかつ誠実に解説されており,現場で手術を担当している医師には大変貴重な情報である。慢性副鼻腔炎の内視鏡手術の新たな手術分類や好酸球性副鼻腔炎に関する病態,外科的治療などについても詳細に言及されており,最新の内容をも網羅している。

 熟読した結果,余計なお世話と言われるが,いくつかの小さな変更すべき点も見つけるに至った。しかし,耳鼻咽喉科医になって33年を過ごし,教授職に奉職して21年が過ぎた自分だが,こんなに熟読した素晴らしい手術書は後にも先にも出てこないと確信している。半世紀以上前に慈恵医大を中心として日本で始まった鼻内手術の伝統は,医療用硬性内視鏡と手術機器の技術革新により,そのコンセプトが見事に結実され,今や全世界に百花繚乱のごとく浸透した。

 最後に,この成書が英文に翻訳され,森山,春名,鴻の各氏のご努力と名声が全世界に行きわたることを願ってやまない。

A4・頁336 定価:本体18,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-02094-7

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