ポリファーマシーという問題と,ジェネシャリスト(岩田健太郎)
連載
2015.12.21
The Genecialist Manifesto
ジェネシャリスト宣言
「ジェネラリストか,スペシャリストか」。二元論を乗り越え,“ジェネシャリスト”という新概念を提唱する。
【第30回】
ポリファーマシーという問題と,ジェネシャリスト
岩田 健太郎(神戸大学大学院教授・感染症治療学/神戸大学医学部附属病院感染症内科)
(前回からつづく)
大学病院を受診するとき。まあ,全ての大学病院を網羅的に調べたわけではないのであくまでも雑ぱくな感想だけど,受付ではいろいろな主訴を持つ患者をフラグメンタルに複数科受診させることが多いように思う。
総合診療科が機能していない大きな病院も同じだ。頭痛があり,鼻水が出て,目が充血していて,身体の節々が痛くて熱があれば,脳神経外科と耳鼻科と眼科と整形外科と膠原病科をたらい回し……というのはさすがに極端だけど,このように複数科受診をさせる大病院の受付は割と多いと思う。
複数の問題を抱える患者であれば,総合的に診療できるジェネラリスト一人が見ればよいわけで,上記の風邪の患者さんも上手にマネジメントできるはずだ。というか,そもそもこの患者は大病院・大学病院に行かず,いつものかかりつけ医にかかるのが筋だと思うけれど,本稿の主題を外れるのでここでは深入りしない。
大病院の専門家はルーチンで特定の検査をしたがることも多い。件の患者には,おそらく何ひとつ特別な検査を必要としないが,頭部CTや内視鏡検査やあちこちのX線撮影や各種抗原抗体検査がなされかねない(まじで)。そして,たくさんの薬剤処方も――。「ポリファーマシー」はこのようにして起きる。
*
ポリファーマシーは,医療者の怠慢から起きているのではない。逆である。各医師が自らの専門性に照らし合わせて良心的に,真摯に診療したが故に,ポリファーマシーなのだ。
本連載でも過去に述べてきたように,各科専門家はまれな病気や珍しい合併症,非典型的なケースを熟知している。そういうピットフォールに陥らないように,どうしても検査過剰,治療過剰になる。しかし見ているのが自分の領域だけなので,他科の医師がどのような検査をオーダーし,どのような薬剤を処方しているのかについての配慮が足りないこともある。そして,似たような薬剤がカブってしまう。時にそれらが,患者にとって有害なものになる。
こういうときのスペシャリストの目は,「虫眼鏡の目」「ミクロの目」であり,細かいところ,小さいところを見る眼差しとなっている。しかし,複数の主訴を持つ患者のケアで大事なのは,「全体」を見ること。木を見つつ,森を見ることである。木を見つつ森を見るということは,問題の全体を相対的に見る,ということでもある。全体のパースペクティブから見る,ということでもある。自らの専門領域を相対化する(絶対化しない!)ということでもあるのだ。
*
そのとき,諸問題にはプライオリティーの高低が生じるだろう。緊急性の高低もある。諸臓器の症状が同じ病因から生じており,重なった検査や治療を省略できることもある。進行がん患者の尿酸値を薬剤治療で下げる必要はあるだろうか。そりゃ,腫瘍崩壊症候群のハイリスク患者とかは別だけど。あるいは,血糖値は? コレステロール値は?――。
前回(第29回/第3150号),ファイナンシャル・プランナー(FP)との相違点を交えながら述べたが,全ての健康問題を最大限に治療する必要はない。少なくとも,「治療しない」という選択肢はあるはずだ。患者の中には,「Aという病気は治療したいけど,Bについては今は放っておきたい」と思う人もいるかもしれない。金銭的コストは下がるかもしれないし,薬剤の数が増えず面倒くさくないし,相互作用といった別のリスクをヘッジできるかもしれなくてもだ。
しかしそうした中で,スペシャリストのほとんどは自領域のプライオリティーを「低い」と判断したくはないだろう。オレの担当する病気“だけ”は治療したい,という欲望はどうしてもあるものだからだ。それはぼくにもある。でもそこをぐっと抑え,「オレ様の専門領域」というオレ様目線をやめ,もっと総...
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