医学界新聞

連載

2015.08.24



クロストーク 日英地域医療

■第9回 ピア・レビューや外部監査の機能を持つ英国の医療

川越正平(あおぞら診療所院長/理事長)
澤 憲明(英国・スチュアートロード診療所General Practitioner)
企画協力:国際医療福祉大学大学院 堀田聰子


前回からつづく

日本在宅医と英国家庭医──異なる国,異なるかたちで地域の医療に身を投じる2人。現場視点で互いの国の医療を見つめ直し,“地域に根差す医療の在り方”を,対話[クロストーク]で浮き彫りにしていきます。


川越 これまでの議論からも明らかなように,英国は「登録医制度」であることを活かし,日常診療はもちろん,そこからさらに一歩踏み込んだ形で医療へ取り組めているようです。今回はその実践について伺っていきます。

登録制と電子カルテの両輪で,予防的アプローチを実践

川越 GPにとって「予防や健康増進を通し,地域全体の健康を支えること」も重要な役割であると,澤先生はよく指摘されています。前提として,英国の各診療所のGPたちは,登録住民の健康の度合いをどのようにして把握するのかを教えていただけますか。

 冒頭にご指摘いただいたように,患者の医療情報を一元化できる「登録制」が土台として機能しています。その上で,英国では,ほぼ全ての診療所に共通の機能を持つ電子カルテがありますから(第4回,第3113号),蓄積してきた登録住民の医療情報・記録をいつでも可視化できるわけです。

川越 日本での状況を照らして考えると,「他の医療機関で検診を行っているかどうか」という点も,患者さんに確認することがなければわかりません。英国では,登録医制度や前提となる診療情報の電子化・統合を進めてきたことにより,かかりつけ患者の健康管理までスムーズに行うことができているわけですね。

 それが予防的なアプローチを実践する上でも役立っていて,例えば,電子カルテでハイリスク集団に予防を呼び掛けるということも可能です。登録住民の「65歳以上の住民,または65歳未満であっても糖尿病・喘息を抱える患者,妊婦などから,インフルエンザワクチンの未接種者」を割り出し,当該者一人ひとりに手紙を出すことで予防接種を促すなど,実際に日常的に登録住民へ予防的な働き掛けを行っています。

川越 まさに登録医制度であることが活かされているんですね。

 おっしゃる通りです。予防から日常的な健康問題,さらには看取りまで,地域住民をトータルに支えるGPの仕事をこうしたシステムが助けてくれているんです。

動機付けには成果払いの仕組みも

川越 そうした健康増進に医療機関が取り組もうという動機付けの部分にもポイントがあるように思いました。何かインセンティブになるものが存在しているのですか。

 はい。基本的に診療所に登録している住民が健康になればなるほど,診療所が得をする仕組みになっています。

川越 診療所にとっては「報酬を増やす」目的を果たすことにもなる,と。

 そうです。そこで機能するのが,「成果払い(Quality and Outcomes Framework;QOF)」の仕組みだと思います。診療所が提供するサービスによって登録住民の電子カルテ上の健康データが改善すると,診療所の実績として評価され,QOFによる収入として報酬が入るようになっているんです。とはいえ,診療所の収入の大部分は,登録住民数や地域の健康ニーズの程度を加味して決められる「人頭払い」が占めてはいるのですが(註1)。

川越 どのような項目が成果払いの評価対象になるのでしょうか。

 例えば,「高血圧患者のうち,血圧が150/90 mmHg以下にコントロールされている人の割合」「糖尿病患者でHbA1cが7.5%以下にコントロールされている人の割合」といった項目が基準になります。また,数値上の改善が見られなくても,適切な検査や助言,治療を提供しているか否かも評価されており,報酬に反映されます。こちらは「認知症の診断前後に適切な血液検査を受けた患者数の割合」「禁煙指導を受けた喫煙患者数の割合」といった項目が挙げられます。

川越 どの国であっても,“取り分”が増えれば...

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