住民本位の地域医療を促進する取り組み(川越正平,澤憲明)
連載
2015.07.20
クロストーク 日英地域医療
■第8回 住民本位の地域医療を促進する取り組み
川越正平(あおぞら診療所院長/理事長)
澤 憲明(英国・スチュアートロード診療所General Practitioner)
企画協力:国際医療福祉大学大学院 堀田聰子
(前回からつづく)
日本在宅医と英国家庭医──異なる国,異なるかたちで地域の医療に身を投じる2人。現場視点で互いの国の医療を見つめ直し,“地域に根差す医療の在り方”を,対話[クロストーク]で浮き彫りにしていきます。
川越 前回(3129号)では,GPと地域の多職種との連携について話を伺いました。医療の質向上に向けた取り組みを考えたとき,英国では地域住民の役割も大きな意味を持つようです。今回はこの点について伺います。
診療所の医療サービスを住民と議論する
澤 近年の英国では,住民参加型の医療サービスが重視されています。それを実現させる1つの手段としてNHSが定めたのが,診療所スタッフと登録住民とで議論を行う「Patient Participation Group Meeting(PPGM)」の実施です。各診療所は,PPGMを通して地域住民のニーズを把握し,提供するサービスに反映させていく。いわば,住民から診療所へと“ボトムアップ”でよりよい医療を構築することが目指されているわけです。
川越 地域の診療所と住民とが膝を突き合わせて話し合う場があるのですか。そうした機会はどのぐらいの頻度で設けられ,どのようなテーマについて話し合われているのでしょう。
澤 3か月に1回のペースで,平日午後の外来を終えた夕方に約1時間開催しています。テーマは毎回変わりますが,基本的に「診療所の登録住民からの要望」によって決められたものです。
私の診療所の例を出すと,過去,外来診療時間の延長を登録住民の方々と話し合ったことがあります。以前は平日午前8時-午後6時半のみが外来の受付時間だったのですが,住民からの「Extended hours(追加の診療時間)」を求める声が上がったのですね。ちょうどそのとき,「診療時間を延ばすと診療所に追加報酬が入る」という政策上のサポートもあって,住民との話し合いの末,土曜日の午前中にも外来を受け付けるように変更しました。
川越 診療所の提供するサービスのスタイルが登録住民のニーズによって変わるとなれば,同地域でも診療所ごとに違いが生まれそうです。
澤 そうなんです。実はExtended hoursの議論が行われた際,同地域の他の診療所が採用していた「平日の外来診療時間を午後8時までに変更する」という案も考えられました。しかし,私たちの診療所に通う住民の間ではそのニーズが低く,結果的に週末に新たな時間を設けたという経緯があります。こうした例はいくつもあり,同じ地域の診療所であっても,提供するサービスのありようは登録住民のニーズによって変わっていく仕組みです。
川越 その話し合いの場にはGPが立ち会うこともあるのですか。
澤 はい。診療所開業の責任者の立場であるGP(「GP Partner」と呼ばれる)は必ず参加し,医学的な質問はもちろん,責任者として診療所マネジメント全般に関する質問などに応じます。GP以外に参加するのは,「Practice Manager」という立場のスタッフと事務スタッフです。Practice Managerは診療所の経営や運営に詳しいアドバイザーで,その種の質問や議論においてGPをサポートします。一方の事務スタッフは,受付などの事務作業にかかわるような住民の声に応えたり,議事録を作成したりしています。
川越 澤先生の診療所の登録住民は約8500人というお話を第1回(第3100号)で伺いましたが,実際に話し合いに出席する住民数はどのぐらいですか。
澤 参加する住民は10-20人ほどですね。地域のニーズがきちんと反映されるよう,参加者のバランスには注意しているところです。また,こうした場以外にも,「GP Patient Survey」という登録住民アンケートを年に1回行い,患者・家族からの要望やフィードバックも常時受け入れるなどの取り組みも行っています。
川越 なるほど。「地域住民との対話を通し,地域の医療の在り方を考えていく」。この部分だけを取り出して考えると,岩手県一関市にある一関市国保藤沢病院の実践が思い起こされます。同院では,公民館などの地域の現場に出て住民との議......
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