レジデントのための「医療の質」向上委員会
[第8回] 効率性
TIM WOODSをなくそう!
連載 反田篤志
2015.08.10 週刊医学界新聞(レジデント号):第3137号より
事例提示
ローテーションで今日から新たな内科へ。腰椎穿刺を実施しようと病棟の材料室に向かい,穿刺針,滅菌手袋……と必要な物資を探します。しかし,昨日までの病棟とは置き場所が全く異なり,材料を見つけるのにも一苦労。穿刺針はどこを探しても見つかりません。看護師さんに聞くと,「あまり使わないから置いてないのかも」とのこと。結局,他の病棟まで取りに行くことになり,15分かけてなんとか材料をそろえられました。手袋をつけ,滅菌処置をし,さて準備完了と椅子に座ったところ,キシロカインがないことに気付きます……。
こんな経験をしたことはありませんか? 典型的な“ムダ”の例です。ムダは患者さんにとって価値を生み出さないだけでなく,医療者の日々のいら立ちの原因にもなります(正直なところ,私はムダなことをするのが大嫌いです)。今回のテーマである“効率性”では,このようなムダを省くことに主眼を置きます。
この“ムダ”という概念,英語ではWasteと呼びますが,実は“Muda”と言っても通じます。というのも,効率性改善における概念や手法の多くが,トヨタを筆頭とした日本の製造業を発祥としているからです。他にも,“Kanban(看板)”に代表されるプルシステム(後工程が前工程にシグナルを送り,在庫管理を効率化する方式)や“Seiri Seiton(整理整頓)”といった言葉が,英語圏に輸出されています。業務の効率化はある意味日本の十八番なのです。
日本の医療は効率的か?
比較的安い医療費で長い健康寿命を達成している日本は,「システム全体」で見ると,お金という投資を健康という結果に効率的に変換しているように見えます。逆に,世界でも類を見ない高い医療費をかけながら,健康指標が先進国内でも平均かそれ以下に甘んじている米国は,効率が悪いように思えます。実際,米国の医療費のうち,約30%はムダな支出とされています1)(註)。では,「日本の医療」は効率的なのでしょうか? 私はそうは思いません。多くの方も,自らの経験に照らし合わせて「日本の医療はとても非効率的だ」と思うのでは,と推測します。
国民医療費や健康という指標は,必ずしも「現場」の効率性を反映していません。特に日本では,医療現場の効率の低さを,医療従事者の過剰労働で埋め合わせているように思えます。すなわち,ある意味で医療従事者のタダ働きにより,現場の“ムダ”の多さが,システム全体としては見えにくくなっているのではないでしょうか。
例えば,主治医制。医師の多くが毎日オンコール(医師の延べ業務時間が非常に長くなる)ですが,これは効率的な人材の運用でしょうか? 例えば,医師や看護師の業務範囲の広さ。書類作業や患者のクレーム対応など,医療専門職の時間を費やすのに見合う効果はあるのでしょうか? 例えば,管理職の医師が出席する会議の多さ。それぞれの会議が,本当に必要でしょうか?
日常の中に潜む非効率性は,“普段からやっている当たり前のこと”と認識され,問題視されていないことが多々あります。もし「一生懸命やっているのに,なんで毎日こんなに大変なのか」とあなたが思っているとしたら,業務の至る所にムダが隠れていると考えるべきでしょう。
一方,「効率を上げると,安全性など医療の質の他の側面が損なわれる」という反論があります。確かに,安全性を高めるための多重確認や口頭反復などは,一見すると効率性と競合します。しかし,腰椎穿刺用器材の配置に見られるように,多くの非効率性は,医療の質の他の側面に影響を与えずに改善することができま...
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反田篤志 米国メイヨークリニック 予防医学フェロー
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