レジデントのための「医療の質」向上委員会
[第7回] 適時性
プロセスを意識した診療,できていますか?
連載 遠藤英樹
2015.07.13 週刊医学界新聞(レジデント号):第3133号より
新しく医師になられた方は,当直業務や病棟業務に少し慣れてきたころでしょうか。
今回お話しする「適時性」のポイントは,待ち時間や患者さんにとって不利益となるような診療の遅れをなくすことです。その実現には,医療従事者にとってはあまりなじみのない「品質管理」の世界でよく使われるいくつかのツールや考え方が有用ですので,実例を交えながら説明します。
なぜ「適時性」が重要なの?
救急外来でのST上昇型心筋梗塞の再灌流,脳梗塞のt-PA投与,敗血症のEGDTなど,「適時性」を意識する場面は多くあります。忙しい救急外来で働いていると,待たせている患者さんがどんどんたまっていき,トリアージの看護師に急かされながら診療する場面も多く経験するでしょう。診療の遅れにより患者さんの臨床アウトカムが悪くなることは,多数の研究で示されています。また,救急外来の混雑により,米国医学研究所(IOM)の提唱する医療の質改善における目標全てが損なわれることも示されています1)。
それを受けて,イギリス,カナダ,オーストラリアなどでは,救急外来の来院から退室までの時間が4時間を超過しないよう,病院や地域のシステムに対して義務付けています。
適時性改善のための 「プロセスチャート」
「適時性」を改善するにはどうしたらよいのでしょうか? そのために非常に有用なツールとして,品質管理の世界でよく使われる「プロセスチャート(業務工程図)2)」があります。
例えば,あなたが,土曜日の日中,忙しい救急外来でリーダー医師として働いていたとします。60代の男性が救急車で,意識障害,ショックバイタルの状態で運ばれてきて,精査の結果,腹部大動脈瘤の破裂が判明しました。輸液とカテコラミン投与によって何とかバイタルは安定しましたが,自院には心臓血管外科医がおらず,加療のためには転院が必要です。非常に重症な患者さんのため,転院が決定した瞬間,最短で転院させるためのプロセスを頭の中で描く必要があります。
図に,スイムレーン型と呼ばれる,各職種の役割を明確にしたプロセスチャートの例を示しました。このようなフロー図を思い描くことによって,自分が誰に,何の指示を,どのタイミングで出すのかを明確にできます。

実際の医療現場では,各プロセスにどれくらいの時間がかかるかの予測に基づいて,指示の細かい内容や優先順位が変わってきます。例えば,診療放射線技師が,他の患者さんの画像撮影を多数施行しなければいけない状況にあるときには,画像データをCDに移行させるのに最も時間が掛かることが予想されるため,真っ先に診療放射線技師に連絡し,こちらの状況を伝え,CD作製を最優先にしてもらうよう指示する必要があります。研修医がまだ1年目で,診療情報提供書を書くのに不慣れで時間がかかるのであれば,他の患者さんの診療に当たっている2年目の研修医に診療情報提供書を書くようお願いすることも考えなければなりません。急いでいると,会計などの事務処理も忘れがちですが,家族への説明が終わり次第,速やかに事務処理をお願いする必要があります。
このプロセスチャートは,特に急いでいるときに威力を発揮します。慣れてくれば,フロー図を思い出さなくても,自然と体が反...
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遠藤英樹 松戸市立病院救命救急センター医長
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