医学界新聞

連載

2015.07.27


看護のアジェンダ
 看護・医療界の"いま"を見つめ直し,読み解き,
 未来に向けたアジェンダ(検討課題)を提示します。
〈第127回〉
政策の窓

井部俊子
聖路加国際大学学長


前回よりつづく

 平成27(2015)年度日本看護協会通常総会が,6月9日-10日に神戸国際展示場で開催された。2011年に公益社団法人となった日本看護協会の定款では,総会は750人の代議員によって構成されると規定している。ただし,総会には正会員も出席することができる。今回の総会は代議員も含めおよそ3000人が出席したと聞いている。

 私は4年前まで日本看護協会の役員として,5000人くらいのマンモス総会の壇上で議事に参加していた。今年は一般会員として,役員が小さく見える後方席から議事を聞いていた。日本看護協会は69万4000人(2015年3月31日現在)の会員を有する巨大な組織にもかかわらず,社会の認知度は極めて低く,新聞もテレビも無関心であった。残念ながら。

准看護師教育制度をめぐって

 日本看護協会は,地域包括ケアシステムの構築と推進,看護職の労働環境の整備の推進,看護職の役割拡大の推進,少子超高齢社会に対応する人材育成を重点事業としている。

 人材育成では准看護師教育制度の課題が取り上げられ,①養成の一本化に向けた中長期的活動方針の明確化,②准看護師の資質向上に向けた活動,③准看護師養成の停止および看護師養成への転換,が事業計画に盛り込まれ,その他の項目も含めた「看護制度の改善事業」予算に1億円が計上されている。通常総会要綱によると,日本看護協会は2014年度に准看護師教育制度に関する特別委員会を立ち上げ,県協会とも連携してロビー活動を行った結果,2015年度の准看護師養成所の新設はなかったということである。

 准看護師制度については,1996年度の「准看護婦問題調査検討会報告書」において,「21世紀の初頭の早い段階をめどに看護婦養成制度の統合に努める」ということになったが,21世紀ももはや15年がたった。「21世紀初頭の早い段階」のリミットはいつごろなのであろうか。

政策過程における3つの流れ,看護体制における3つの代替案

 准看護師制度の政策過程について,アクターの影響力関係と政策段階を分析した興味深い研究が出版された(野村陽子著『看護制度と政策』法政大学出版局,2015年)。

 政策過程の分析にはキングダンの「政策の窓」モデルが用いられ,①政策課題の設定,②政策代替案の形成,③政治,の3つの流れが合流したときに制度決定に至る,すなわち「政策の窓が開く」と説明している。

 准看護師制度の事例は,厚労省,日本看護協会,日本医師会が主要なアクターであり,野村は報告書等を丹念に吟味しながら政策過程の検証を行っている。そして,「アクターの多様化,政策企画体制の規模,そして社会への影響を考慮するという観点から,看護制度に限定した政策とするのではなく,大きな枠組みの中で看護政策を進めていくことがポイント」であること,「政策案を熟成させるためには,政策形成過程のステップを丁寧に踏んで,多角的議論によって実現可能性が高い政策案を創ること」,そして「政策案をつくる過程では,モデル事業など現場を巻き込んで政策案を創ること」が重要であると述べている。

 准看護師制度は,資格制度の二重構造という矛盾があり,その解消を図るべきだということは,1963年の医療制度調査会で指摘されており,制度の矛盾を解消するという意味で政策目標は明確である。これまで選択肢として考えられてきた案は,准看護師制度を廃止する案,異なる制度に変更する案(資格の二層化)の2案の他,現在実施されている准看護師からの移行促進案があるとした上で,野村はそれぞれの案について論点整理をしている。

 第一の廃止案は,制度の存続を主張する医師会と対立し,議論は廃止か否かの「二者択一」となり硬直している。また,制度が創られるきっかけとなった看護職不足は解消されておらず,現在も確保策を強化する動きがあること,准看護師制度を廃止した場合,これまで准看護師が行っていた業務を誰が担うのかについて医療関係者の納得できる新たな看護体制を提案する必要があると述べている。

 第二の制度変更案は,看護業務を区分して資格制度を二層化するという案であるが,これまであまり議論されていない。この方法は諸外国で採られていることから,准看護師の比率が下がってきているわが国でも検討の余地があるが,看護職を二層化することや業務を分化することを容認するかという議論は残されていると述べている。

 第三の移行促進案は,これまで進めてきた現実的な政策である。実際に通信制の導入などにより,准看護師から看護師になる者が増加し成果は挙がっているが,制度の根本的な矛盾である二重構造は解消されていない。したがって,移行促進案は看護教育の在り方や体系まで議論を深める必要があると述べている。

 また,政策課題をどのような時期に設定すべきかについても言及している。関係者の合意が得られる政策案が見えてきた段階で公的な議論のスケジュールに乗せていくこと,看護職の充足状況をみて量的確保に不安がなくなった時期に准看護師制度の検討を開始するなど,政策課題設定時期の判断が重要であると述べている。

 いずれにしても,「政策の窓を開く」ための作戦が必要である。

つづく

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