レジデントのための「医療の質」向上委員会
[第6回] 患者中心(2)
「患者参加」を再考する
連載 一原直昭
2015.06.08 週刊医学界新聞(レジデント号):第3128号より
今回は,「患者中心」と切っても切れない関係にある「患者参加」という概念について見ていきます。
健康づくりは医療者だけでは実現しない
医療を改善していくためには,患者やその家族に積極的な役割を果たしてもらう必要があるという「患者参加」の考え方は,決して新しいものではありません。医療は公共のインフラであり,健康は医療だけの問題ではないとの考えから,病院にいる「患者」だけでなく「市民」が参加することの意義を強調する「市民参加」という言葉も使われます。広く受け入れられている「患者参加(市民参加)」の定義の一つは,「患者や市民,その家族等が,健康と医療について積極的に考え,行動するよう勧め,後押しし,個々の診療および病院や医療の仕組みに,患者や市民の声が反映されるよう,共に行動していくこと」といったものです1)。
特に慢性疾患では,規則的な服薬,食事,運動,増悪因子の回避と薬剤の調整,適時の受診といった,患者や家族が知り,実践しなければならないことが多くあります。高齢や障害のために日常生活の支援が必要になったときにも,患者や家族がよく話し合って支え合い,介護保険などを上手に使って,環境を整えていかなければなりません。健診や予防接種を確実に受け,医療者と情報共有するには,患者や家族の知識と行動が欠かせません。
患者にフルネームを名乗ってもらう患者確認は,取り違えを防ぐ上で非常に有効です。「お薬手帳」を持参し,薬剤の重複や併用による副作用を防いだり,処方薬を持参して服薬状況を示したりするのも,立派な「患者参加」です。一歩進んで,自分の病気や検査結果,治療,副作用の履歴をノートに書いている方は,「患者参加」のお手本を示しているといえます。このように「患者参加」は決して目新しいものではなく,皆さんや,皆さんの患者も,日々実践していることです。
一方で,医療者にとって,面倒で手間がかかると思ってしまうこともあります。例えば,処置を受ける患者が,自分に触れようとする医療者に「手は洗っていただきました?」と聞いたら,どう思いますか? これは,手洗いを徹底し院内感染を防ぐ上で,非常に有効です。もし,そういった声を掛けてくれる患者がいたら,丁寧にお礼を言って,ぜひ続けるようにお願いしたいものです。
また,薬の副作用,検査の予定など,あれこれ質問してくる患者はどうでしょうか。実はこれも,とても効果的な「患者参加」といえます。医療者が「何か質問はございますか?」と聞いたときに,いつも「いえ,別に」と答える患者は,まだコツをつかんでくれていない,と思うくらいの感覚が必要です。
ぜひ,こういった当たり前の「患者参加」を上手に実践できるようになってください。
幅広い「患者参加」の効用
「患者参加」の効用は,何でしょうか。すでに述べた例の多くは,医療の安全性や有効性を高め,健康アウトカムの改善をもたらすといえそうです。しかし実はもっと多面的な効用があります(表)。

自分の健康維持や医療に積極的に取り組んでいる患者は,健診や予防接種といった予防的なケアを受けることが多く,医療の場面でも,上手に無駄なく(表-③),自分に合った治療を選択し,より安全で有効な診療を受け(表-①),より良い健康状態を維持している上(表-②),医療に対する満足度も高いこと(表-⑤)が報告されています2)。さらに,患者が積極的にかかわることで,医療者は本来の仕事に集中しやすくなり,やりがいも高まります(表-⑥)。これらについてさまざまなエ...
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一原直昭 米国ブリガム・アンド・ウィメンズ病院研究員
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