医学界新聞

2015.05.11



Medical Library 書評・新刊案内


標準組織学 総論 第5版

藤田 尚男,藤田 恒夫 原著
岩永 敏彦 改訂

《評 者》佐藤 洋一(岩手医大教授・解剖学)

組織と細胞を題材にした“ノンフィクション小説”

 藤田尚男・藤田恒夫の両先生が1975年に世に送り出した『標準組織学』は,生命形態の機能美を示す多くの写真,組織・細胞の構造と機能および構成物質を有機的に結び付けた構成,さらには,研究者の息吹を感じられるエピソードと平易な文で多くの読者を惹き付けた。以降,数度にわたり改訂を繰り返したが,その特徴はいささかも損なわれることがなかった。2002年に総論第4版が出され,各論第4版が2010年に出版されたが,両藤田氏は相次いでこの世を去られてしまった。幸いなことに,藤田恒夫先生は愛弟子の岩永敏彦教授に総論の改訂を依頼されていた。そして今年,『標準組織学総論 第5版』が出版されたのである。

 さて,その改訂内容であるが『標準組織学』の正常進化と言ってよい。最近の教科書は,事実を羅列するだけの記述で終始し,添えられた図も概念的に組織・細胞を描いた模式図が多く,読んで眺めて面白いものは少なくなってきている。本書は1800年代から現代に至るまでの文献を基に,学問の進み方や構造・機能・物質の相互関係がわかるように書かれている。誤解を恐れずに書けば,「ノンフィクション小説のような趣」がある。また,味わい深いスケッチはあるものの,概念的な模式図は最小限に抑えられており,旧版同様に本物の写真(とりわけ電子顕微鏡写真)を多数載せている。入れ替えられた顕微鏡写真は,若手の日本人研究者が撮影したもので,さらに美しさを感じるものとなっている。改訂のたびに新知見や概念の見直しを付け加えていくとページ数が増えるのが常であるが,ドイツ語を削除し,文を書き換えることで本書は肥大化を防いでいる。第2章の「細胞の構造と機能」は内容が大幅に書き換えられたが,細胞生物学の入門としても過不足ない記述になっている。組織学の方法論は別の章にして,最後尾に持っていったことから,技術的側面に興味のない人はもちろん,組織学を本格的に極めようとする人にとっても,わかりやすい構成となった。また,従来は組織の基本形態を四つに分類していたが,それは便宜的なものに過ぎないということから,支持組織を結合組織,軟骨組織,骨組織に分けて独立した章にしている。初学者は,このほうがわかりやすいであろう。

 不満が皆無というわけではない。技法の章を独立させたのだから,思い切った書き換えも可能だったろうが,超高解像度のニューマイクロスコープやライブイメージング,GFPなどの機能性蛍光タンパク質を使った最近の研究手法について記述が乏しい。また,こうした新手法で得られた画像を第2章に載せることもできたと思われる。なお,文中には,コアカリキュラムで一般的に使われているものと異なる用語が使われており(例:リソソー...

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