標準組織学 総論 第5版

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発行以来、読んで面白く、わかりやすい教科書として絶大な支持を得ている『標準組織学』。必要な知識の丁寧な解説に加え、発見や研究にまつわる歴史やドラマが随所に織り込まれ、細胞や組織の構造を立体的かつ動的に理解できるよう工夫されている。「総論」第5版では、章構成の整理に加え、細胞生物学や分子生物学の新知見を盛り込み、精選された美しい写真とイラストを多数追加。「生きた組織学」を学べる最高峰のテキスト。

『標準医学シリーズ 医学書院eテキスト版』は「基礎セット」「臨床セット」「基礎+臨床セット」のいずれかをお選びいただくセット商品です。
各セットは、該当する領域のタイトルをセットにしたもので、すべての標準シリーズがセットになっているわけではございません。
シリーズ 標準医学
原著 藤田 尚男 / 藤田 恒夫
改訂 岩永 敏彦
発行 2015年03月判型:B5頁:344
ISBN 978-4-260-01531-8
定価 9,020円 (本体8,200円+税)
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第5版 序

 各論第4版が出版されて間もなく,総論第5版の改訂を藤田恒夫先生から依頼された。その後,藤田恒夫先生が2012年2月に,もうひとりの著者である藤田尚男先生が2014年8月に他界された。したがって,この総論第5版の改訂作業は,原著者の意見を聞く機会がないままに,進行せざるを得なかった。2002年に第4版が出版されて10年以上経っていたので改訂を急ぎ,ほぼ3年で出版までこぎつけることができたのは,お二人に背中を押されたせいだったのかもしれない。
 改訂にあたり,新しい知見をとりこみ図の改善をおこなったのは,いうまでもない。とくに,細胞生物学や分子生物学の進歩にはめざましいものがあり,解剖学(組織学)の教科書といえども,その方面の新しい情報は積極的にとりこんだ。一方,この教科書がもつ特徴を維持することにも注意を払った。
 改訂作業を通して改めて気づいたのは,この本には読みやすくするための特別な工夫がなされていたことであった。一例をあげると,文章を読みやすくするために文字の間に狭い空きスペースを設ける「つけはなし」である。また,通常は漢字をつかうところをひらがなで表記して,やわらかい文面にすることにも心くばりがなされており,これは「白くする」とか「漢字をひらく」と表現される手法である。これらの手法は,行末で用語や人名が分断されることを避けることにも利用できるので,継承した。
 したがって,文中に「含む」と「ふくむ」のような異なる表記が混在していることをご理解願いたい。また,「果粒」とか「滲む」などの常用漢字でないものが使われているのは,原著者らが漢字の簡略化を標榜していたからである。
 最近教科書を買う学生が少なくなったという話をよくきくが,われわれ教える側は「読んでおもしろい」「役にたつ」教科書を提供することにつきると思っている。また,日本人の優れた研究を顕彰することで,医学生や若い研究者を勇気づけることも重要である。これは,外国語教科書の訳本には期待できないことである。このような努力が,解剖学,組織学という学問体系を維持し,誠実な臨床医や若い研究者を育てることに少しでもつながれば幸いである。
 記述の改訂や図の改善では,多くの方々からご支援いただき,感謝の言葉がみつからない。とくに多くの時間をかけてご協力いただいた方のお名前を各章ごとにあげさせていただく(敬称略)。
 細胞の化学的性状(畠山鎮次),細胞の構造と機能(山科正平,藤本豊士,広田 亨),上皮組織(山科正平,古瀬幹夫),結合組織(和氣健二郎,沢 禎彦),軟骨・骨組織(網塚憲生),血液(柏村 眞),神経組織(井出千束,遠山稿二郎,渡辺雅彦)。
 そして,全体を通して,石村和敬,岩永ひろみ,牛木辰男の各氏にお世話になった。特記して感謝申し上げる。図の改善では,30枚近くの図を授業の合間をぬって新たに描いてくれた,北海道大学医学生 工藤ありさ君の労を忘れることはできない。
 最後に,改訂作業全体を統括し励ましていただいた医学書院・医学書籍編集部の坂口順一氏,改訂と校正作業を私と二人三脚で実行していただいた制作部の富岡信貴氏には,こころから感謝したい。

 2015年1月
 岩永 敏彦

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序章 細胞と組織の概念
 虫めがねから 電子顕微鏡に至るまで
 電子顕微鏡の登場
 細胞の概念
 組織の概念
1章 細胞の化学的性状
2章 細胞の構造と機能
 細胞の概要
 細胞膜
 細胞小器官
 鞭毛と線毛,微絨毛
 基底陥入
 封入体
 細胞核
 細胞の分裂
 増殖と分化
 細胞の運動
 細胞のとりこみ
3章 上皮組織
 上皮組織の分類
 上皮細胞間の特殊分化
 腺
4章 結合組織
 支持組織の概要
 結合組織の線維成分
 結合組織の細胞間基質
 結合組織の細胞成分
 さまざまな結合組織
5章 軟骨組織
 ガラス軟骨
 線維軟骨
 弾性軟骨
 軟骨の形成から老化まで
6章 骨組織
 器官としての 骨の構造
 骨の細胞性要素
 細胞間質
 骨の発生
 骨の成長
 骨の血管と神経
 関節腔と その周辺
7章 血液,リンパおよび 組織液
 血液
 リンパ
 組織液
 血球の発生
8章 筋組織
 平滑筋
 骨格筋
 心筋
9章 神経組織
 神経細胞
 神経膠細胞
 血液脳関門
 神経組織の発生
 神経組織の再生
付録 組織学の研究法
 組織切片標本の作製
 染色法
 特殊な観察法
 組織化学
 物質と細胞の追跡法
 電顕用試料の作製
 新しい顕微鏡
 組織培養

和文索引
欧文索引
人名索引

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よりわかりやすく再構成され,現代の医学生にふさわしい趣向を凝らした一冊
書評者: 年森 清隆 (千葉大未来医療教育研究センター特任教授)
 『標準組織学総論第5版』が,2002年第4版から13年を経て改訂された。少し長くかかった感もあるがその間,残念なことに原著者の藤田恒夫先生と藤田尚男先生が相次いで他界された。そのため,第5版の改訂は岩永敏彦先生に託された。両先生の意向を十分に聞く時間を持てない中での改訂であり,そのご苦労は察して余りある。しかし,うれしいことに,改訂版では原著者らのご意向が受け継がれており,さらにこの間に蓄積された情報が随所に取り入れられ,現代の医学生にふさわしい趣向を凝らした本になっている。

 まず気付くことは,扉にFUJITA, FUJITA'S Textbook of Histology Part 1の英語表記があること,ソフトカバーに変更されたこと,そして総ページ数はほとんど同じでありながら約890gになり,約370gも軽くなっていることである。凄い。全体もよりわかりやすく再構成されている。例えば,これまで最初にあった組織学研究法が,最後に付録としてまとめられている。研究法は学習する上で必要不可欠であるが,実際に講義をしていると十分な時間を費やすことができない部分であり,また進歩が急であり,多彩な部分でもある。自習の項目として最後にまとめることは有効である。

 注目すべき点は,まず,組織学の基本である“細胞”が最初に解説され,次に4大組織(上皮組織,結合組織,筋組織そして神経組織)の随所に,進展した知見が加えられている点である。その一方,維持されているのは,基本となる真の組織細胞像に迫る美しい電顕像と光顕像である。これは原著者らの初版からの基本姿勢であり,本書の特徴である。

 さらに,北海道大学に在学中の医学生によって作成された,わかりやすい解説図画が随所に挿入されている。これらの図画から,次世代を担う若い学生さんが組織学を理解していく過程を想像できる。私自身の経験からも,理解力のある素晴らしい実習スケッチを描く多数の学生がいた。この本を手にする学生諸君は組織学を学ぶ自らの成長する姿を予測し,親しみも覚えるであろう。学習意欲も高まるのではないだろうか。改訂された第5版が,これまで以上にヒト/生物を理解するために親しまれていくことであろう。

 本書では,国内の優れた形態学者により蓄積された優れた画像や参考文献が採用されている。この基本姿勢は標準組織学総論と各論に一貫した理念である。このような本が日本から出版されることは誇れることであり,いつまでもこのように知識が世界中に継承されていって欲しい。
組織と細胞を題材にした“ノンフィクション小説”
書評者: 佐藤 洋一 (岩手医大教授・解剖学)
 藤田尚男・藤田恒夫の両先生が1975年に世に送り出した『標準組織学』は,生命形態の機能美を示す多くの写真,組織・細胞の構造と機能および構成物質を有機的に結び付けた構成,さらには,研究者の息吹を感じられるエピソードと平易な文で多くの読者を惹き付けた。以降,数度にわたり改訂を繰り返したが,その特徴はいささかも損なわれることがなかった。2003年に総論第4版が出され,各論第4版が2010年に出版されたが,両藤田は相次いでこの世を去られてしまった。幸いなことに,藤田恒夫先生は愛弟子の岩永敏彦教授に総論の改訂を依頼されていた。そして今年,『標準組織学総論 第5版』が出版されたのである。

 さて,その改訂内容であるが『標準組織学』の正常進化と言ってよい。最近の教科書は,事実を羅列するだけの記述で終始し,添えられた図も概念的に組織・細胞を描いた模式図が多く,読んでながめて面白いものは少なくなってきている。本書は1800年代から現代に至るまでの文献をもとに,学問のすすみ方や構造・機能・物質の相互関係がわかるように書かれている。誤解を恐れずに書けば,「ノンフィクション小説のような趣」がある。また,味わい深いスケッチはあるものの,概念的な模式図は最小限に抑えられており,旧版同様に本物の写真(とりわけ電子顕微鏡写真)を多数載せている。入れ替えられた顕微鏡写真は,若手の日本人研究者が撮影したもので,さらに美しさを感じるものとなっている。改訂のたびに新知見や概念の見直しを付け加えていくとページ数が増えるのが常であるが,ドイツ語を削除し,文を書き換えることで本書は肥大化を防いでいる。第2章の「細胞の構造と機能」は内容が大幅に書き換えられたが,細胞生物学の入門としても過不足ない記述になっている。組織学の方法論は別の章にして,最後尾に持っていったことから,技術的側面に興味のない人はもちろん,組織学を本格的に極めようとする人にとっても,わかりやすい構成となった。また,従来は組織の基本形態を四つに分類していたが,それは便宜的なものに過ぎないということから,支持組織を結合組織,軟骨組織,骨組織に分けて独立した章にしている。初学者は,このほうがわかりやすいであろう。

 不満が皆無というわけではない。技法の章を独立させたのだから,思い切った書き換えも可能だったろうが,超高解像度のニューマイクロスコープやライブイメージング,GFPなどの機能性蛍光タンパク質を使った最近の研究手法について記述が乏しい。また,こうした新手法で得られた画像を第2章に載せることもできたと思われる。なお,文中には,コアカリキュラムで一般的に使われているものと異なる用語が使われており(例:リソソームではなく水解小体,顆粒ではなく果粒,副甲状腺ではなく上皮小体,等),言葉でつまずく初学者にとって読み始めはハードルが高いかもしれない。CBTや国家試験に何が出るかしか興味のない学生にとっては,語源や研究者のエピソードなどは,不要なものであろう。さて,易きに流れる学生気質とは必ずしも相いれない本書を,医学生に推薦するかどうかであるが,実は彼らに購入と読了を勧めたい(あるいは強いたい)気持ちになっている。

 改訂版ではハードカバーからソフトカバーへ変更され,紙質もグロス系から光沢を抑えたものへ変わっている。学生がラインマーカーで線を引いたりペンで書き込みをすることを考えると,教科書として使い込むにはこのほうがよい。新たにつけ加えられた写真も含め,オリジナルの写真の質が高いためか,グロス系でなくても十分に美しく印刷されている。模式図や概念図はわかりやすいかも知れないが,“Beauty is truth, truth beauty”の感動は味わえない。形態学が好きで顕微鏡写真の見方をよくわかった教師が,本書を使って学生を指導すれば教育効果は極めて高いものとなるであろう。最近の学生は本を読まなくなった,と言われて久しいが,私見ではあるが「本を読もうとする学生」はむしろ漸増しているように感じている。そうした学生にとって,読み応えのある本書は歓迎されるに違いない。また,わかりやすさと実利しか追求めない学生に対しては,首根っこをつかんででも,平易な言葉ではあるが含蓄のある内容が満載している教科書を読ませたい。真の知を感じてもらいたいからである。

 人間の欲望は限りない。総論を通読した後に私が望んでいるのは,換骨奪胎した各論の改訂版が遠からず出版されることである。

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