医学界新聞

寄稿

2014.11.03



【寄稿】

主治医意見書の記載時のポイント(後編)
書き方を「よくある失敗」から考える

井藤 英之(飯塚病院総合診療科)


前回よりつづく

 本稿では,前回(第3095号)の基礎知識編からステップアップし,実践的な主治医意見書の書き方について述べる。記載時に重要なのは,内の(1)-(7)であると考える。何も知らないで書き始めるとやりがちな失敗を挙げつつ,記載時のポイントを紹介したい。

 主治医意見書における記載の必要項目
   ※下線,丸数字は本稿で取り上げている項目

1.傷病に関する意見
1)診断名……(1)
2)症状としての安定性……(2)
3)生活機能低下の直接の原因となっている傷病または特定疾患の経過及び投薬内容を含む治療内容……(3)

2.特別な医療
※処置内容,特別な対応,失禁への対応

3.心身の状態に関する意見
1)日常生活の自立度について
2)認知症の中核症状
3)認知症の周辺症状……(4)
4)その他の精神・神経症状……(5)
5)身体の状態

4.生活機能とサービスに関する意見
1)移動
2)栄養・食生活
3)現在あるかまたは今後発生の可能性の高い状態と対処方針
4)サービス利用による生活機能の維持・改善の見通し
5)医学的管理の必要性……(6)
6)サービス提供時における医学的観点からの留意事項
7)感染症の有無

5.特記すべき事項……(7)
※主治医による医学的な意見など自由記述欄

介護の負担になる症状を優先的に挙げる

(1)でよくある失敗
⇒重症度の高い疾患名,医学的に見て印象の強い疾患名を優先してしまう

 医師であれば,重症度の高い疾患名を挙げてしまうのは,ある意味では当然かもしれない。しかし,主治医意見書においては,「重症度」ではなく,「介護負担にかかる度合い」を重視したい。

 例を挙げよう。医学的側面から見た重症度の順では「1.急性腎盂腎炎,2.糖尿病,3.神経因性膀胱」である患者さんがいたとする。しかし,もしその方に認知症もみられているのであれば,主治医意見書の記載順は認知症を一番に記載するほうがよい。さらに言うと,神経因性膀胱も家族による導尿が必要になり得る点を踏まえ,上位に書き直す必要がある。つまり,介護負担の大きさを考慮すると,「1.認知症,2.神経因性膀胱,3.糖尿病」と記すことになる。

 主治医意見書を書き慣れた者にとって,認定を受けるという観点から最も影響力のある疾患は「認知症」なのはよく知られたことであろう。介護負担の大きい認知症であればそれだけで,要介護1以上と認定されることも多いのだ。

(1)記載時のポイント
⇒介護を行う上で負担になる疾患名を優先する(例:認知症・廃用症候群etc.)

「進行性」を見る

(2)(3)でよくある失敗
⇒現状の評価を記載してしまう

 「安定性/不安定性って何を書けばいいのかがわからない」とよく聞く。(2)は「症状やそれによるADLの低下が,長期間一定程度を保てるのか,あるいは進行性に悪くなるのか」を,(3)は「近い将来にどのようなサポートが必要になり得るか」を記載する欄と理解するといい。例えば,漸進する歩行困難が見られ,ポータブルトイレの設置を要するケース,栄養状態の悪化が進みつつあり,除圧マットや医療介護ベッドを要するといったケースが考えられるだろうか。

 また,前回解説したとおり,介護保険の認定を受けるまでの期間中,病状からその期間を待つことが難しいと考えられるケースでは,暫定の評価で認定を受けることができる。この際の暫定認定の可否こそ,「安定性/不安定性」の記載の有無・内容が考慮に入れられているのだ。

 特に患者さんに悪性腫瘍があったとして,それが「末期」の状態であれば,その点まできちんと明記することを勧めたい。「末期悪...

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