医学界新聞

寄稿

2014.10.20



【寄稿】

ソーシャルメディア時代の情報リテラシー

中山 和弘(聖路加国際大学教授/保健医療社会学・看護情報学)


 2010年,英国の看護師が,友人のFacebookに投稿された2歳半の娘の写真を見て,眼のがん(網膜芽細胞腫)を発見し,転移を防げたというニュースが流れた。日常をシェアするソーシャルメディア(Facebook,Twitter,LINE,YouTubeなど)が,そのつながりの力を見せたもので,翌年の東日本大震災でもその活用が報じられた。

日常をシェアする習慣がトラブルに発展

 一方で2011年には,米国の看護学生が,胎盤から出たへその緒をつまみあげて満面の笑顔で撮った写真をFacebookに投稿し退学になったというニュースが話題になった。それでも,学生は,「写真の投稿は教員に許可を得ていた。匿名のドナーから提供された胎盤を用いた授業でのことで,匿名性を侵害してはいない。復学させてほしい」と裁判所に訴状を出した。「胎盤を観察したあの日は,看護師として重要な瞬間だと思ったのです。なぜなら,この驚くべき臓器は子どもに,必要な全ての栄養を9か月間も提供してきたからです」と彼女は述べた。退学処分は無効となり,学生は戻れることになったが,賛否を巻き起こした。

 日本でも,昨年似たようなことがあった。講義中に教員が見せた,透明な袋に入れられたがんの臓器の標本写真を撮り,「グロ注意」(グロテスクな画像などに対して注意を喚起する言葉)としてTwitterにアップしたことがマスコミに広がり,投稿した学生が退学になったと報道された。大手全国紙のなかには「看護学生,患者の臓器さらす」といったタイトルで報じたところもあった。これに対し,匿名性がある標本のため退学になる理由がわからないという意見もネット上ではあった。

 「看護のために大切なことを学んだから友達や知人にシェアしたい」という気持ちにあふれていると見られるか,何の配慮もなしに単なる興味本位や習慣でアップしていると見られるのか。見る人のこれまでの経験や考え,立場によっても違って見えるだろう。そして,それがもたらした結果に対して,本人や周囲,学校や社会はどう対応していくべきなのだろうか。

英国ガイダンスのポイント

 このような状況を反映して,医療者のためのインターネットやソーシャルメディアのガイダンス/ガイドラインが多く作成されてきている。英国のNurses and Midwives Council(NMC)は,次のことをすれば資格停止(学生なら資格が取れなくなる)と警告している。

●機密性の高い情報をオンラインでシェアすること
●仲間や患者について不適切なコメントを投稿すること
●SNSで仲間をいじめたり脅したりすること
●患者やサービスの利用者と個人的な関係になること
●性的に露骨なものを配布すること
●SNSを違法に使うこと

 そして,より具体的なSNSでの実践ガイダンスも作成している。

●匿名であったとしても,患者や仲間への不満などを投稿しないこと
●患者やサービス利用者,その家族などの写真を投稿しないこと
●内部告発に利用しないこと
●自分のプライバシーを守るため,初期設定のままにせず,公開レベルを細かく設定すること
●投稿した全てのものは,プライバシー設定をしたとしても,コピーができる限り一般に公開される可能性があると考えること
●自分が攻撃のターゲットになっているとわかったら行動を起こすこと。相手をリムーブ(フォローをやめること)したりブロックしたりできるし,迷惑行為を報告する機能があると知ること

 これらのなかで,忘れられがちなのは,看護師や看護学生を名乗っていても,匿名ならよいわけではないということである。看護職への信頼を低下させるものは投稿してはならないとしている。また,非公開にしていても,一般に公開される可能性を持つことも忘れてはならない。これはネットに限った話ではなく,学校や職場,居酒屋やレストランで,看護関係者とわかる人が,「ここだけの話」と言いつつ,人に聞かせられない話をしていれば同じである。

 それよりむしろ,看護への信頼を高めることを考えるべきである。NMCによる雇用者と教育者に向けてのガイダンスでは,「全面禁止は推奨せず,“責任ある利用”をサポートすることが大事である」としている。そして,「多くの人が使っているので,使ったほうが個人としても看護界としても利益が大きく,SNSで看護界の存在を示したほうが,“責任ある利用”を進めることができる」と書かれている。

ソーシャルメディアリテラシー

 責任を持ってソーシャルメディアを使いこなす力は,「ソーシャルメディアリテラシー」とも呼ばれる。これまで情報リテラシーとは,自分に合った適切な情報を探して「入手」「理解」「評価」「活用」する力だと言われてきた。しかしこれでは,情報の受け手として情報を「生かす」力に限られる。ソーシャルメディアは,誰もがオープンに参加できることこそが特徴であり,情報の「つくり方」「守り方」「広め方」「つながり方」についてのスキルが必要となる。

 情報の「つくり方」では,誰にとっても「生かす」ことが容易なものをつくる力が必要である。「守り方」では,個人情報や著作物などが,当初の利用目的から外れた形で「入手」されることの問題を知る必要がある。

 そして,「広め方」では,自分の出す情報は,どのような人たちに「入手」「理解」「評価」「活用」され,どのような影響や反響をもたらすと考えられるかを想像できる力が求められる。ソーシャルメディアでも引用は重要で,むしろそれがリンクで簡単にできるのが特質であり,引用のない書き込みや引用先を見もしないでシェア・拡散することは,デマ防止の点からも大きな問題である。

 さらに,情報のシェアによって,「つながり」ができていくが,そこで「つながり方」が問題となる。「友達」になるかならないか,個人としてつながるのか看護者としてつながるのか,つながりを深めるためにプライバシーを共有する範囲とそのメリットとデメリットを判断する力が求められる。

つながりから学び合う「場」

 SNSではいわゆる「炎上」を恐れるよりも,そもそも一般社会でしてはいけないとされることについて学び合うことのほうが重要である。偏見や差別,虐待,ハラスメント,犠牲者非難なども,ネットに限った話ではない。その人個人の責任ではないこと,容易に変えられない属性や特徴をもとにした言動には敏感でなくてはならない。

 ソーシャルメディアでは,良くも悪くも,普段は会えないような多様な価値観を持つ,さまざまな立場にいる人々に出会える。自分と違うから間違っていると責め自分の考えを押し付ける人,人に勝手にラベルを貼って批判する人,一人ひとりの違いを尊重して自分の思い込みに気付けたことに感謝する人などさまざまである。そこは,ソーシャル,すなわちつながりから学ぶことができる「場」(メディア)である。

看護職の責務とヘルスリテラシー

 ソーシャルメディアは,不利な立場にあって沈黙していた人が声を上げられる場でもある。そのような人を発見して声を上げること(アドボカシー:代弁,権利擁護)は,看護職の重要な責務でもある。

 また,健康に関する情報リテラシーは,「ヘルスリテラシー」という。これは「情報に基づいて自分で決められる力」であり,自分に合った健康の在り方を決める力であるため,「健康を決める力」と言える。信頼できる社会,つながりが健康を決めることを知っているのもヘルスリテラシーである。

 世界ではすでに,ヘルスリテラシーの向上のためにソーシャルメディアが活用され始めている。筆者はヘルスリテラシーについてのウェブサイト()を作成しているので,ご覧いただき,「いいね!」などでつながりを広げられれば幸いである。

 「健康を決める力」ウェブサイト

参考文献
1)中山和弘.ソーシャルメディアがつなぐ/変える研究と健康――Twitterを例に考える.看護研究.2011;44 (1),86-93.
2)中山和弘.基礎教育で教えなければならない情報リテラシー.看護教育.2013;54(7),550-9.


中山和弘氏
1985年東大医学部保健学科卒。92年東大大学院医学系研究科博士課程(保健学専攻)修了。東京都立大人文学部社会福祉学科助手,愛知県立看護大講師・助教授などを経て現職。日本保健医療社会学会評議員,日本看護研究学会評議員なども務める。研究テーマは,ヘルスリテラシー,ヘルスコミュニケーション,ヘルスプロモーション,意思決定支援。

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