医学界新聞

2014.09.08



Medical Library 書評・新刊案内


正しい膜構造の理解からとらえなおす
ヘルニア手術のエッセンス

加納 宣康 監修
三毛 牧夫 著

《評 者》執行 友成(医療法人社団涼友会東京ヘルニアセンター・執行クリニック院長)

明解な臨床解剖が印象的な,熟練外科医もハッとする書

 副題として「正しい膜構造の理解からとらえなおす」とあり,流行の腹腔鏡下ヘルニア修復術の著書かな? と思い読ませていただきました。まず基礎編では,言葉の定義から始まり,胎生期の腸回転による膜構造の図解など,正しい臨床解剖について解説されており,日常臨床として鼠径へルニアを専門として外科治療を行っている私にとって基本に返ることのできる流れには感嘆の一言です。腹腔鏡手術が主流になりつつある昨今は,どこから切開をすれば正確な手術が可能であるかの判断をできない中堅・若手が横行する可能性があり,切開線の重要性と皮膚縫合の重要性をご教示いただける内容となっています。

 応用編の「A. 鼠径ヘルニア」のセッションでは,引き込まれるように一気に読破できる明解な臨床解剖がひときわ印象的であり,すぐに役に立つ,そして熟練の外科医がハッとする著書と感じました。

 私とはアプローチの手法は少し異なりますが,「A-IX-11. 精索内からのヘルニア嚢の剥離分離」の段はぜひとも読者にはもう一度理解をしていただきたいところだと思います。p. 46に「内精筋膜(横筋筋膜の続き)とヘルニア嚢(腹膜の続き)との間には,腹膜下筋膜浅葉と深葉が存在するはずである。この浅葉と深葉の間に精管・精巣動静脈が存在する。したがって,精索内にヘルニア嚢が存在するときはその分だけ精索が分厚くなっている」とあります。私のアプローチは著者とは違い,一気に精索をヘルニア嚢と一緒に挙上はしませんが,前方から挙睾筋を走行に沿って分離をすると,その下方には必ず内精筋膜,浅葉が存在します。そこで精巣動静脈は深葉を残しつつヘルニア嚢を分離すれば,おのずから残った物がヘルニア嚢であり,その剥離層を内鼠径輪へ向かっていけば簡単に前腔へ到達でき,直下に下腹壁動静脈が露出されます。本書の明解な腹膜前筋膜の解説は,無駄な操作と過剰な剥離をせずに深葉をヘルニア嚢(腹膜の続き)につけたまま,前腔に到達できることを示されており,これまでになかったより臨床的なヘルニア嚢の剥離・分離の素晴らしい解説書であると思います。私の弟子たちにうまく伝えることができなかった解剖を一気にご説明いただけたことに感動しました。このような解剖の知識は腹腔鏡下手術でも全く同様の基本的事項であり,万人が共有すべきことです。

 「C. 腹壁ヘルニア」の解説で特筆すべきはp. 106の図98です。「腹壁ヘルニア修復術におけるメッシュ位置の定義と表現」についてあらためて整理整頓されており,外科医としての基本的事項を再確認させていただきました。

 鼠径へルニアをはじめとしたヘルニアの解説書は多く出ておりますが,本書は臨床を重視した著書として,一読ではなく必読すべきものと感じました。

A4・頁212 定価:本体9,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-01927-9


服部リハビリテーション技術全書 第3版

蜂須賀 研二 編
大丸 幸,大峯 三郎,佐伯 覚,橋元 隆,松嶋 康之 編集協力

《評 者》網本 和(首都大学東京教授・理学療法学)

極めて実用的な辞書,基本的技術の原点

名著の復活
 35年前,裏庭に枇杷の樹がゆれる清瀬のリハビリテーション学院(2008年閉校)のまだ紅顔の学生であった評者(今では厚顔といわれる)は,臨床実習に向けて理学療法について,一生で一番と思えるぐらいに勉強していた。当時の唯一無二のテキストといえば服部一郎先生,細川忠義先生,和才嘉昭先生の名著『リハビリテーション技術全書』であり,学生の間では「技術全書」あるいはその広範な領域にちなんで「なんでも全書」と呼ばれ,それこそボロボロになるまで熟読(あるいは熟見)したのである。当時からわかりやすい「線画」のイラストの助けを借りて,来るべき実習と国家試験に立ち向かおうとしていたことが昨日のことのようである。

最新の知識とエッセンスの継承
 評者が読んでいたのは1974年発刊の初版であるが,その10年後に第2版が上梓され,今回30年ぶりに第3版が蜂須賀研二先生(産業医科大名誉教授)編集により,その書名を『服部リハビリテーション技術全書』として発刊されたのである。その帯には「30年の時を越え,あの名著が新たによみがえる」とあり,このキャッチコピーを読むだけでも期待が高まってくるのは評者だけではないだろう。そしてページを繰り読み進めば,内容の充実ぶりだけではなく,初版・第2版に使われていたイラストがそのエッセンスをそのまま継承していることに驚嘆することになる。第2版と比べると,第7部「言語聴覚療法の実際」,第9部「地域リハビリテーション」が追加され,第10部「疾患別リハビリテーション」では,第22章「糖尿病」,第23章「がん」,第27章「褥瘡」,第28章「高齢者と認知症」,第29章「障害者スポーツ」などが新たに記述されている。さらに今回の第3版では,最新の医療技術の進歩を背景とした理論的解説が加えられていることも,特筆すべき点であることを強調したい。

座右の書
 服部先生自身が初版の「序」に記されているように,本書は「図書室の棚の上に並べて置かれるものではなく,診察机や治療台の上に手垢にまみれて置かれるべき性質」のものであり,極めて実用的な「辞書」として活用されるに違いない。臨床の場で何気なく使われている基本的技術の原点は本書にあるといってもよい。限られた紙幅の中では,30年間に培われた臨床マインドがどのように実を結んだかを伝えることは困難であり,ぜひ手に取りその果実を味わっていただきたい。風雪に耐えたリハビリテーション技術の骨格を礎として,現在の発展をちりばめた本書はまさに座右の書となるだろう。

B5・頁1024 定価:本体18,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-01757-2


はじめての心電図 第2版増補版

兼本 成斌 著

《評 者》大内 尉義(虎の門病院院長)

これから心電図を学ぶ方々に自信を持ってお薦めする入門書

 このたび,兼本成斌先生の著された『はじめての心電図』(第2版増補版)が上梓された。第2版の出版が2002年であるから12年ぶりの改訂となる。ちなみに初版が発行されたのが1991年であり,本書は実に四半世紀にわたる歴史を有する心電図の入門書である。

 評者は,兼本先生のこの『はじめての心電図』には大変長いお付き合いをさせていただいている。というのは,評者が東大在任中に,老年病科の講師として,医学科3年生(5年生)のBedside learningの担当となったのが1987年のことであるが,その中で「心電図の読み方」というショートレクチャーを行ったところ,これが大変好評で,学生諸君からの要望に応える格好で,1990年から課外講義として週1回,15-25人の有志学生を対象に,1年かけて心電図の読み方を教える「心電図セミナー」を始めた。前半はテキストを用いた解説,後半は実際の心電図を読んできてもらいそれを皆...

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