医学界新聞

連載

2014.08.25


看護のアジェンダ
 看護・医療界の"いま"を見つめ直し,読み解き,
 未来に向けたアジェンダ(検討課題)を提示します。
〈第116回〉
管理者のコンピテンシーを磨く

井部俊子
聖路加国際大学学長


前回よりつづく

エクセレント・リーダーに変身させるために必要な能力

 「あらゆるタイプとレベルにおいて,すぐれた管理者はコンピテンシーの一般的プロフィールを共有している。仕事のタイプによって従事する人々のコンピテンシー要件はさまざまに異なるが,彼らを管理する管理者のコンピテンシーになるとかなり共通性がみられる」(参考文献253頁)という。

 訳者らは,まえがきで,「コンピテンス」と「コンピテンシー」について簡単な解説を記している。それによると,これら二つの用語はともに「卓越した業績を唆別する人材の能力」を指すとし,コンピテンスは総称名詞であり,コンピテンシーは分析的思考やイニシアティブといった個別のコンピテンスを表す場合に使われ,「コンピテンシーズ」というように複数形での表現が可能となる。看護管理者に当てはめると,「看護管理者として,仕事をそれなりにきちんとこなせる勤勉かつ有能なリーダーたちを,際立った長所を備えたエクセレント・リーダーに変身させるために必要な能力」ということになるだろう。スペンサーらは,管理者の一般的コンピテンシー・モデルを示している()。

 管理者の一般的コンピテンシー・モデル(参考文献255頁より)

8つのモジュールから成るコンピテンシー研修

 日本看護管理学会教育委員会(委員長=井部俊子)では,「コンピテンシーを基盤とした看護管理者研修プログラム」(略して「コンピテンシー研修」とする)を開発し,本年6月から7月の毎週末,33人の受講者を対象に試行事業を行った(正確にいうと,来年1月に実践報告のセッションを残している)。

 「コンピテンシー研修」は,8つのモジュールから構成される。教育委員会の委員8人が分担して各モジュールの運営計画を立て,吟味して臨んだ。60時間のコンピテンシー研修は,一方で,プログラム評価を行う評価研究として位置付け,受講生によるプログラム評価を定量的,定性的に実施する。

 モジュール1(1日間)は「導入」である。ここでは各コンピテンシーの定義を理解し自己診断が行われる。コンピテンシーとは,ある職務または状況に対し,基準に照らして効果的あるいは卓越した業績を生む原因としてかかわっている個人の根源的特性とされ,個人の性格のかなり深い永続的な部分を占め,広い範囲の状況や職務タスクにおける行動の予見を意味すると説明される。つまり,ある職務や状況において,高い成果・業績を生み出すための特徴的な行動特性である。コンピテンシーの定義が明らかになった1991年以降,24か国で100人以上の研究者によって20年間活用された結果,「コンピテンシー・ディクショナリー」が生まれた。

 20のコンピテンシーは6つのクラスター(群)に分類される。クラスター〈達成とアクション〉は,業務改善や達成すべき課題について目標を明確に立て,その目標に向かって行動することである。そのクラスターには,「達成重視」「秩序・クオリティ・正確性への関心」「イニシアティブ」「情報探究」の4つのコンピテンシーが含まれる。

 クラスター〈支援と人的サービス〉は,他者のニーズに応える努力とされ,他者の感性や懸念,興味やニーズを聞き取り理解することやそのニーズを充足させることに努める能力を指す。このクラスターには,「対人関係理解」と「顧客サービス重視」が含まれる。

 クラスター〈インパクトと影響力〉は,周囲の人や組織の特徴をよく理解し,その長所を踏まえた上で,自分の職位や権限を利用し,効果的に自分の考えを伝える能力である。このクラスターには,「インパクトと影響力」「組織の理解」「関係の構築」が含まれる。

 クラスター〈マネジメント能力〉は,管理的な行動力・実行力であり,他の人を教育する,指示する,チームを築き上げるという意図を持った行動力が求められる。このクラスターには,「ほかの人たちの開発」「指揮命令――自己表現力と地位に伴うパワーの活用」「チームワークと協調」「チーム・リーダーシップ」が含まれる。

 クラスター〈認知力〉は,混沌とした状況や重大な問題を理解するときに表面的な情報や他人の見方・解釈をそのまま受け入れるのではなく,それらも情報のひとつとし,自分自身の考察も加え,もっと深い理解に到達するための能力である。このクラスターには,「分析的思考」と「概念化思考」が含まれる。「技術的・専門的・経営的能力」はモジュールに含まないことにした。

 クラスター〈個人の効果性〉は,目的に向かって特にそうしようとするというよりは,個人が持っている優れた能力や性質を指す。成熟度を反映し,プレッシャーや困難に立ち向かうときに発揮される。このクラスターには,「セルフコントロール」「自己確信」「柔軟性」「組織へのコミットメント」が含まれる。

 モジュール2(2日間)「達成とアクション」は,課題設定と解決のための戦略立案。モジュール3(2日間)「支援と人的サービス」は,コーチングの理解。モジュール4(1日間)「対人影響力」では,自部署の組織図をもとにパワーバランスの分析を行った。モジュール5(2日間)「マネジメント能力」では,病棟会議とスタッフとの面接といった日常的な場面でのマネジメントとプレゼンテーション。モジュール6(2日間)「認知力」では,データの分析と概念化を行った。モジュール7(2日間)は「統合」として,受講生各自が抱える課題を分析しアクションプランを作成しプレゼンテーションを行った。モジュール8(2日間)「実践評価」は半年後の来年1月に行われる。

 各モジュールの大半は,チームを基盤とした学習(TBL)によって進められた。ここまでの出来栄えを受講生に三段階(松竹梅)で問うたところ,竹が5人でその他は松であった。工夫したプログラム運営も含めて,研究結果は学会で報告する。

つづく

参考文献
 ライル・M・スペンサー他著,梅津祐良他訳.コンピテンシー・マネジメントの展開〔完訳版〕,生産性出版;2011年.

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