MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内
2014.08.11
Medical Library 書評・新刊案内
《眼科臨床エキスパート》
All About原発閉塞隅角緑内障
吉村 長久,後藤 浩,谷原 秀信,天野 史郎 シリーズ編集
澤口 昭一,谷原 秀信 編
《評 者》近藤 武久(兵庫県予防医学協会)
キーポイントとなる所見が的確にとらえられた教科書
ここ十年余りの歳月の間に,原発閉塞隅角緑内障ほど大きな変革がもたらされたものは少ない。疾病の分類,名称に始まり,検査法,治療方針に至るまで大幅な変化がもたらされたのである。このような状況の下,新しい教科書,解説書が求められるのはけだし当然のことであり,本書の出版は誠に時宜を得た企画であるといえよう。
Fosterらにより提唱された新分類では,緑内障という名称は緑内障性視神経症(GON)の存在の有無をもってのみ定められるという考え方に基づいている。そしてGONを伴わない狭隅角眼は閉塞隅角症(PAC)とし,緑内障という名称が取り除かれた一群として取り扱われることになったのである。この分類法の詳細や問題点について,いろいろな角度から明快な解説がなされていている。加えて日本緑内障学会による「緑内障診療ガイドライン」の初版から第3版までの変遷も対比されていて,理解を助けてくれる。しかしながら,久米島での疫学調査の成績のみならず,緑内障の名称が除かれたとはいえ,原発性のPACは原発閉塞隅角緑内障(PACG)と同様,急性発作によって失明につながる恐れのある様態であることに変わりはなく,その継続的な管理が大切であることが強調されている。
本書を通覧して言えることは,掲載されている隅角鏡写真や映像が実に美しく,かつキーポイントとなる所見が的確にとらえられていることである。過去に,わが国でも清水弘一氏や,山本哲也教授らによる立派な隅角写真集が存在しているが,本書の画像や写真は理解しやすく,過去の好著に十分匹敵し得るものであろう。加えてUBM,前眼部OCTといった新しい機器による画像が数多くのセクションにおいて採用,活用されており,説得力に富む内容であると言える。評者が眼科医になりたてのころ,教室の先輩からプラトー虹彩はわが国ではほとんど見られず,欧米の患者の疾患であると教えられた記憶が残っているが,UBM,OCTの登場により瞳孔ブロック,プラトー虹彩,水晶体因子,毛様体因子のマルチメカニズムの存在の有無が容易に確認され,わが国においてもプラトー虹彩の合併例が数多く存在することが判明した。
いくつかの新しい知見の中で注目に値する点は,毛様体,脈絡膜に関する記述量が大幅に増加したことであろう。過去の緑内障の教科書において毛様体,脈絡膜に関する記載は皆無に等しい状況であったことを考えれば,実に大きな変化であり,Quigleyらの脈絡膜膨張に関する説については今後も衆目が集まるところである。向後さらに,可変性周波数のUBMが普及すれば,眼表面から5 mm以上離れた深部組織(毛様体扁平部,毛様小帯,水晶体赤道部,脈絡膜など)についても容易に鮮明な映像が把握されるようになり,一段と毛様体,毛様小体,脈絡膜などに関する研究が進むものと推察される。
治療に関して特筆すべきことは,白内障手術が治療法の中で大きなスペースを占めるようになったことであろう。水晶体再建術はPACGが備えている解剖学的なリスクや問題点を大幅に改善する。それのみならず,術後の眼圧調整にもかなりの成果があり,かつ視力予後も満足すべきものである。透明な水晶体の除去となるケースもあるが,将来,眼内レンズの進歩がこの欠点を補ってくれるものと期待している。東アジアからの報告では欧米の成績と比べ,術後に隅角が開放されても相変わらず眼圧が高い症例が多い傾向にある。このような線維柱帯の不可逆性変化に関しては,病理学的な面からの詳しい解説がなされていて,残余緑内障や混合型緑内障などを解釈する上で参考となろう。
B5・頁320 定価:本体15,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-01959-0


循環器 レビュー&トピックス
臨床医が知っておくべき27の最新知見
赤石 誠,北風 政史 編
《評 者》永井 良三(自治医大学長)
循環器病学の最新知識を学べる出色の書籍
循環器臨床のカバーする範囲は広い。高齢社会では循環器診療の重要性が増しているが,循環器の患者は,小児から学童,成人,高齢者にわたる。また急性期疾患から慢性疾患のステージに対応しなければならず,内科と外科の診断・治療法に通じていなければならない。このように診療は極めて多彩である。
循環器病学は,EBMの推進に大きな役割を果たしてきた。それは,単に検査値の改善ではなく,死亡率や重大な心血管イベントで評価しなければ,治療法の真の評価ができないからである。このため,いまや循環器医は,分子病態から診断・治療法の進歩,さらに疫学や臨床試験まで視野に入れていなければならなくなった。しかし,循環器病学は,毎年,急速な進歩を遂げており,専門医といえどもこれを俯瞰することは極めて困難である。
こうした状況の中で,赤石誠および北風政史の両博士が編集された『循環器 レビュー&トピックス』は,循環器病学の最新の知識を学ぶ上で,出色の小冊子である。序文によると,この冊子の企画は10年前にさかのぼる。当時,医学書院の総合医学誌『呼吸と循環』の企画に,赤石,北風の両博士の参加をいただいたことに始まる。両博士の発案で,「Current...
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