医学界新聞

2014.07.28

Medical Library 書評・新刊案内


神経内科プラクティカルガイド

栗原 照幸 著

《評 者》髙橋 昭(名大名誉教授・神経内科)

長年にわたる実地診療の経験からまとめ上げられた書

 本書は,1987年以来,名著として改版や増刷を重ねてきた『神経病レジデントマニュアル』を全面的に改訂増補した書である。本書について語るとき,先生のご経歴を素通りすることはできない。

 著者の栗原照幸先生は,1967年に慶應義塾大学医学部を卒業,米国ECFMG(外国人医師卒業教育委員会)試験に合格,ワシントン大学バーンズ病院でインターン,神経内科レジデント。神経生理学リサーチフェロー,宮崎医科大学神経内科学助教授(教授:荒木淑郎先生),東邦大学内科教授を経て,現在東邦大学名誉教授,神経内科津田沼で神経内科の実地診療に従事しておられる,日本を代表するベテラン神経内科医のお一人である。米国の医学教育システムを日本に紹介,日本神経学会では卒後教育委員として医学教育,特に卒後の研修に情熱をもって当たられ,現在の専門医制度の導入に大きな力を発揮された。

 このようなご経歴の持ち主の栗原先生が,長年にわたる神経内科の実地診療のご経験を基にまとめ上げられたのが本書であり,上記の前身の書から25年以上の歴史が光る。神経内科学を学ぶに当たっての栗原先生の信条は,本書の第1章に詳述されているので,まずはこの章を熟読してほしい。

 本書は症候学や診断手法の詳細を記した一般の神経内科診断学書ではない。「神経学的診察」の章では,むしろ簡潔に診察の要点が述べられ,これに対して「問診」の比重が大きく,神経疾患の診断にはベッドサイドの診察とともに問診が重要であることが強調され,その具体的な指針が述べられている。

 「神経学的診察」の章では,多くのオリジナルの写真と図を用いられており,初心者や学生にとっても理解しやすいあたたかい配慮が随所に見られる。

 神経疾患患者の診察への第一歩は神経症候の理解と分析である。このことから,日常多く経験される主要な神経内科領域のcommon symptomや徴候として,意識障害・昏睡,頭痛,てんかん,めまい,認知症,不随意運動,便秘・排尿障害などの自律神経障害がそれぞれ独立の章として記述され,実際の診療に大変有用である。さらに,本書の大きな特徴は,これらの症候の治療の要点が的確かつ簡潔にまとめられていることである。例えば「不随意運動」の章では,まず概要の項で診察の仕方と発症機序などがまとめられ,それに続く項では,主要な不随意運動の治療の要点が述べられている。この著述方針は本書の基本をなすものであり,これら以外の神経疾患についても治療に主眼が置かれている。このため,読者は実際の治療に際し,本書をひもとけば,診断や治療の指針が得られる。また各薬剤の,有害事象,薬価,保険点数の問題点にまでも言及されており,患者の経済的負担を考慮して診療に当たるように警鐘が鳴らされている。これらは類書に見ることができない本書の特徴である。

 日常診療で最も多く直面する「脳血管障害」「認知症」「パーキンソン病」の章では,最近の治療法の利点欠点をご自身の長年にわたる豊富な経験や考え方に立脚して記されており,参考になる点が多い。

 「神経・筋疾患」の項は,栗原先生のご専門が発揮された圧巻ともいえる内容である。重症筋無力症,多発性筋炎,周期性四肢麻痺などは,特にその感が強い。

 付録として,ベッドサイドの診察に加えて,電気生理学的検査,画像診断の解説があり,これらへのアプローチと診断的有用性が述べられている。

 座右の書として診察室に常備されることをお薦めしたい。

A5・頁408 定価:本体4,300円+税 医学書院
ISBN978-4-260-01893-7


臨床が変わる!
PT・OTのための認知行動療法入門

マリー・ダナヒー,マギー・ニコル,ケイト・デヴィッドソン 編
菊池 安希子 監訳
網本 和,大嶋 伸雄 訳者代表

《評 者》二木 淑子(京大大学院教授・生活機能適応学)

複雑な問題を抱える患者の心理療法にチームで取り組む

 本書は,イギリスの心理学科,理学療法学科,作業療法学科,地域・病院のセラピストらにより執筆され,わが国の同職種チームにより訳された,認知行動療法の入門書である。

 監訳者や執筆者の序に,多職種総心理士化ではなく,チーム医療にかかわる他の専門職の専門性の中に認知行動療法を取り込んで統合してもらうためのテキストとある。各自の治療の枠組みに認知行動的ストラテジーをどう取り込むかは,読者自身が読み取らなくてはならない。攻めて読む本といえる。

 身体障害領域や地域・高齢者領域で仕事をしている,ある程度専門性が確立したセラピストの多くは,疾患による障害に対して従来の解釈では問題が解決しないことや,まずアウェアネス,自己洞察を深めるようなアプローチの必要があることに気付いている。なんとなく心理的問題にアプローチしないといけないとわかってはいても,心理療法はこうした入門書のガイドがないと登れない山である。

 本書のPart 1(1-3章)では,非常にコンパクトに理論背景について解説してある。初期のオペラント学習理論のような行動療法に感情認知理論,論理情動療法などの認知療法が統合されて認知行動療法となる流れや,うつ病の認知モデルのキーコンセプト,認知行動療法の特徴(ソクラテス式質問法や認知的フォーミュレーションなど)の概説があり,次いで認知行動的アプローチをPT・OTになじみのある実践モデルに取り組むための解説がされている。

 Part 2(4-11章)は,実践応用の各論であり,認知行動療法効果のエビデンスが高いうつ病,不安障害などの精神疾患だけでなく,慢性疼痛や線維筋痛症などに対するアプローチが,ケーススタディと共に解説されている。慢性疼痛例ではセラピストのボヤキにもしっかり応えてPT・OTの実践への取り入れ方のコツが書かれ,SMART(Specific, Measurable, Activity-related, Realistic, Time-related)なゴール設定など,認知リハビリテーションでもなじみの方法も紹介されている。

 担当すると不思議に良くなるといった実践家は,無意識にここで紹介されている方法を使いこなしているのかもしれない。現在のリハビリテーション対象者は一つの職種や領域別の特技で何とかなるというよりも複雑な問題を抱えている。チーム医療にかかわる多くのセラピストに読み込んでいただきたい一冊である。

B5・頁208 定価:本体4,200円+税 医学書院
ISBN978-4-260-01782-4


精神科臨床エキスパート
てんかん診療スキルアップ

野村 総一郎,中村 純,青木 省三,朝田 隆,水野 雅文 シリーズ編集
吉野 相英 編

《評 者》中里 信和(東北大大学院教授・てんかん学)

精神科医以外も読むべき「精神科医の教科書」

 てんかんの有病率は約1%であり,医療関係者のみならず一般社会の誰もが知る病名である。しかし,一般社会のみならず医療関係者の多くが,これほど誤解し偏見を持つ疾患も少ないのではなかろうか。ありふれた疾患に誤解と偏見に満ちた医療が施されたのでは,患者や家族はもちろん,医療費を支える国民全体にとっても大きな損失である。

 本書は精神科医のために企画された「精神科臨床エキスパート」シリーズの一つである。「精神科医のための教科書」という位置付けなのだが,てんかんを取り上げたという点に驚いた。日本においては,てんかんは精神科医によって診療されていた時代があった。その後てんかんは神経疾患に分類されるようになり,精神科医の「てんかん離れ」が進んだ。それなのに,あえて「精神科医がもつべきてんかん診療技術のminimum requirementの提供を目指す」という方針は称賛に値する。

 私の友人でもある「てんかんに詳しい精神科医」たちは,皆,自らを「絶滅危惧種」と呼ぶ。本書はその中でも比較的若手の,いわば「超」絶滅危惧医たちによって執筆されている。各章を読み進めていくうちに,一つひとつの文章の中に「てんかんに詳しい精神科医」たちの強い思いが読み取れた。この教科書は,精神科医だけに読ませるのではもったいない。むしろ,てんかん診療に携わる精神科以外の医師にも読んでもらいたい教科書だと思う。

 第1章と第2章は,てんかん発作の症候学と鑑別すべき疾患について書かれている。精神科医の手による教科書であるから,てんかんと鑑別すべき精神疾患や,てんかん性精神病については,特に詳しくまた整理されている。

 第3章は脳波の項であるが,ルーチン記録法の限界についても触れられており,必要に応じて「ビデオ・脳波同時記録(による長時間モニタリング検査)」を依頼すべき,との記述は「わが意を得たり」と感じた。

 第4章の薬物治療の章では,外科治療についても大きく取り上げられていて,従来の精神科の教科書としては異例であり歓迎したい。

 最後の第5章と第6章は,てんかんの精神症状について書かれていて,本書の中でもクライマックスといえる部分である。この部分は,精神科以外のてんかん診療医にぜひとも読んでもらいたい。てんかん性精神病を扱った教科書は古くから数多く存在しているが,本書のそれは一言でいうとモダンである。脳磁図などの最新診断機器の知見が紹介されていることもあるが,精神疾患の概念の変遷にも触れつつ,てんかん性精神病の最新の考え方についての理路整然とした記述が,読んでいてなんとも爽やかなのである。

 この本を読み終え,「絶滅危惧種」が再び繁栄することを,心から願う。

B5・頁248 定価:本体5,800円+税 医学書院
ISBN 978-4-260-01958-3


見逃してはならない血液疾患
病理からみた44症例

北川 昌伸,定平 吉都,伊藤 雅文 編

《評 者》清水 道生(埼玉医大国際医療センター教授・病理診断学)

キーとなる疾患がバランスよく選び抜かれた研修医にお薦めの一冊

 本書は,“見逃してはならない”血液疾患44症例についての臨床病理学的解説書である。まず臨床症状と病理所見が提示され,症例の解説が述べられるわけであるが,解説の順番が明確に構成されている。すなわち,診断プロセス,検査所見,病理所見,最も考えられる病理診断,治療・予後の順で詳細な説明があり,最後に鑑別診断・類縁疾患がコンパクトにまとめられている。症例によっては病態生理や診断トレーニングが追加されている。この書式が,全体を通して統一されており,非常に読みやすい点がまず目を引く。本書のもう一つのユニークな点は,症例に難易度(★~★★★★★の5段階)と遭遇する頻度(★~★★★の3段階)が表示されている点である。最初の目次を見ると,症例の難易度や頻度が一目瞭然で,読者は頻度の高い疾患から読んでいくこともできるし,難易度が低い順に勉強することも可能である。一方,最後のページでは疾患体系別に症例が並べ替えて配列されている。この疾患体系別の目次を見て,興味を引く症例から読み始めてみるのもおもしろいかもしれない。これまでにないユニークな目次であり,勉強する際にはぜひとも活用すべき点と思われる。

 本書では44症例の血液疾患が厳選されているわけであるが,その症例の選び方も非常に的を射ていると思われる。ご存じのように骨髄系・リンパ系疾患の数は極めて多いわけであるが,その中から本当に“見逃してはならない”キーとなる疾患がバランスよく選び抜かれている。これは,編者らの数多くの経験に基づくものであろう。さらに,鑑別診断の項目では,この限られた症例数を補うべく,多数の鑑別疾患が列挙され,それぞれの疾患について的確な解説がなされている。また,症例によっては,最後に診断トレーニングがクイズ形式で記載されており,思わず興味を引かれてしまう点もユニークである。さらに,所々でMemoが設けられ,簡潔に疾患概念や用語が解説され,知識の整理には最適といえよう。

 病理医の立場からいうと,本書で使用されている写真の画質は非常に鮮明であり,写真によっては矢印も付けられており,初学者にとっても理解しやすいものと思われる。後半の難易度が高い症例では,遭遇する頻度は低い傾向がみられるが,本書でその疾患を記憶の片隅にとどめておけば,きっと将来,何らかの形でその知識が実際の臨床の場面で役立つ時が来るであろう。そういう点からもこの“見逃してはならない”血液疾患44症例は,何度もひもといて熟読することが大切である。

 本書の主たる読書対象は,若手病理医や内科系の後期研修医と考えられるが,彼らのバイブルといえる本になるのではないかという期待がある。最後に,本書は医学生にとっても専門的な知識をわかりやすく理解でき,かつ中堅クラスやベテランの病理医や内科医にとっても,up-to-dateな知識を含めてポイントとなる血液疾患を復習できる内容の本であることを付け加えたい。

B5・頁288 定価:本体6,500円+税 医学書院
ISBN978-4-260-01674-2


標準生理学 第8版

小澤 瀞司,福田 康一郎 監修
本間 研一,大森 治紀,大橋 俊夫,河合 康明,黒澤 美枝子,
鯉淵 典之,伊佐 正 編

《評 者》小島 至(群馬大生体調節研究所教授・細胞調節学)

高度な内容をわかりやすく説明した教科書

 生理学は,生体のさまざまな機能とそのメカニズムを明らかにする学問である。生体内で起こるさまざまな現象を理解する学問であり,いろいろな病態を理解する基盤となる。守備範囲は非常に広い。

 この膨大な内容を持つ生理学を,「ただ暗記するのではなく,考えながら読んで理解する」ことをめざした『標準生理学』が最初に出版されたのは,1985年のことである。ずっしりと重い,茶色の表紙の本を初めて手にした日のことを,今でもよく覚えている。重厚な内容であるにもかかわらず,読者の理解を助ける,いろいろな工夫にあふれていた。

 その後,分子細胞生物学の進歩により生理学も大きく発展し,『標準生理学』も改訂を重ね,その都度最先端の内容を取り入れながらバージョンアップしてきた。それは難しい内容が大幅に増えたことを意味するが,読みやすさとわかりやすさを一層充実させ,「考えながら読んで理解する」という当初のスタイルを貫いてきた。

 2014年3月,小澤瀞司先生と福田康一郎先生の監修による『標準生理学 第8版』が上梓された。表紙は明るい白で,本文はカラフルでわかりやすい図が多く,大変読みやすく,また見て楽しい内容である。全体は,16編80章から構成されている。各編の冒頭には,その編の内容をわかりやすく図示した構成マップがあり,わかりやすい図と3段階に色分けされた重要事項により,その編で何を学ぶべきかとその意義が明快に示されている。ちょっと難しいこと,一歩進んだ内容がAdvanced Studiesという形で書かれているので,より深い理解を希望する読者には楽しみに映るであろう。また巻末には「生理学で考える臨床問題」が収載されている。臨床の場で問題となるさまざまな病態を,生理学の立場からどう考えていくかが示されているのである。生理学を理解することが,臨床におけるさまざまな病態を考える上でいかに重要かが端的に示されており,本書の大きな特色となっている。

 高度な内容をわかりやすく説明した本書は,生理学を学ぶ学生だけでなく,臨床の場に出た医師にとっても貴重な内容を提供する優れた教科書といえる。

B5・頁1178 定価:本体12,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-01781-7

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