医学界新聞

2014.06.02

家族と地域の力を引き出す実践を共有

第5回日本プライマリ・ケア連合学会開催


 第5回日本プライマリ・ケア連合学会が,5月10-11日,松下明大会長(岡山家庭医療センター奈義ファミリークリニック)のもと,岡山コンベンションセンター他で開催された。「家族の力と地域の力――これからのプライマリ・ケアの姿を求めて」がテーマに掲げられた今回,全国から約4000人の医療者が参加。本紙では,家族志向のアプローチの実践法を解説した講演と,米国家庭医療の歴史から日米双方の家庭医療の未来を展望した講演の模様を報告する。


家族関係が大きな影響力を持つ

松下明大会長
 患者とその家族は相互に強い影響を与えあっており,この影響を考慮に入れずして治療を実践することは難しい。特別講演「家族志向のプライマリ・ケア:米国の視点から」(座長=松下氏)では,Thomas L. Campbell氏(ロチェスター大)が,健康と疾患の管理における家族志向のアプローチの重要性を解説。自身の経験に基づいた方法論を惜しみなく紹介し,家族志向のアプローチの実践を会場へ呼び掛けた。

 まずCampbell氏は,G. Engelが提唱した「生物・心理・社会モデル」[PMID:847460]に基づき,患者を生物医学的な観点のみでとらえるのではなく,その背景に存在する家族や地域,文化にも目を向けることが必要と指摘。中でも家族は,患者の健康に関する考えや生活習慣などを決定付ける存在として,あるいは重篤な病気・健康問題を持つ患者とともに苦しむ存在として,治療を進める上で大きな影響力を持つとし,家族関係を踏まえた医療を提供する重要性を訴えた。

 では,特に家族関係に注意深くかかわっていくべきタイミングはいつなのだろうか。氏は「遺伝カウンセリングなどの検査結果から診断名を伝えられる場合」「家族が慢性疾患患者の介護にかかわる場合」「終末期において意思決定が必要な場合」といった状況を,必ず介入すべきタイミングとして列挙。こうしたケースは大きなストレスや混乱,葛藤が生じやすく,家族関係が危険な状態に陥りやすい。しかし,家族全体に対する適切な介入により,患者・家族の不安を和らげ,治療への積極的な参加を促せるのだという。

特別講演「家族志向のプライマリ・ケア:米国の視点から」では,映画『Dad』(邦題:『晩秋』)のストーリーを基に家族面談のロールプレイが行われ,Campbell氏が米国流の家族志向のアプローチを披露。松下大会長は患者役を熱演した。
 また,氏は家族が同席する面談時の医師の心構えについても言及。(1)家族一人ひとりとパートナーシップを築く,(2)特定のメンバーに肩入れせず,家族内に意見の不一致がある場合は個々の価値観に理解を示しつつも同意は避ける,(3)全員の考えや意見を収集する,(4)家族を教育し,治療プランに参加させる,の4点を基本姿勢として示した。

 患者・家族の思いを引き出す上で有効なフレーズとしては,患者側に対するものは「家族からどのような支援がある...

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