研究の価値を決めるもの(加藤憲司)
連載
2014.05.26
量的研究エッセンシャル
「量的な看護研究ってなんとなく好きになれない」,「必要だとわかっているけれど,どう勉強したらいいの?」という方のために,本連載では量的研究を学ぶためのエッセンス(本質・真髄)をわかりやすく解説します。
■第5回:研究の価値を決めるもの
加藤 憲司(神戸市看護大学看護学部 准教授)
(3073号よりつづく)
研究の価値を決める2つの軸
読者の皆さんの中には,これから研究を始めようとしている人がいることと思います。研究するからには,良い研究をしたいですよね? では,良い研究とはどのようなものでしょうか?
本連載第2回(第3065号)で触れたように,研究というのは「問いを立てて,それを解明すること」です。したがって研究の価値は,「どのような問いを立てるか」および「その問いにどのように答えるか」の2つの観点でとらえることができます。図を見てください。図の横軸には「問いの質」,縦軸には「解の質」が示してあります。図の右へ行くほど,答えることの必要性・重要性が高い問いを問うており,上へ行くほど,分析の方法が適切・妥当で結果を信用できることを意味しています。
図 研究の価値を決める2つの軸 |
図の右上,つまり問いの質も解の質もどちらも高いのが良い研究であることは明らかですね。では,これら2つの軸の一方が低い場合,どのような問題があるのでしょうか? それを考えるヒントとして,最近いろいろと話題になっているSTAP細胞を例に取り上げてみましょう。本稿執筆時点でSTAP細胞の真偽ははっきりしていませんが,少なくとも論文には取り下げに値するほどの欠陥があったと報じられています。それなのに,なぜ初めに論文が発表された段階であれほどマスコミで騒がれたのでしょうか? それはあの論文が,「どうすれば効率よく,かつ安全に,万能細胞を作り出すことができるか」という非常に重要な問いに対して,新たな方法を提案するものだったからです。もし論文の主張が正しければ,再生医療が今後爆発的に発展し,人類に多大な貢献をもたらすものとなったでしょう。したがってSTAP細胞の研究は,問いの質のレベルが極めて高いものだと言えます。ところが報道を見る限り,STAP細胞が存在する証拠は十分に提示されていないようですし,他の研究者らによる再現性の検証も進んでいないようです。これでは解の質のレベルが高いとは言えないように思います。つまり,STAP細胞の評価は図の右下のゾーンに当てはまるということになりそうです。一時は「教科書を書きかえる研究だ」「ノーベル賞間違いなし」などと言われたことからも,研究において問いの質の高さがどれほど重要か,今回の騒動で垣間見ることができた気がします。
問いは研究の“命”
次に,図の左上のゾーンについて考えてみましょう。左上は,解の質は高いけれども問いの質が低いような場合です。筆者が思うに,研究の初学者が陥りやすいのはむしろ,このゾーンに当てはまるような研究をしてしまうことではないでしょう...
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