米スポーツ界を震撼させる変性脳疾患(6)(李啓充)
連載
2014.03.31
〔連載〕続 アメリカ医療の光と影 第266回
米スポーツ界を震撼させる変性脳疾患(6)
李 啓充 医師/作家(在ボストン)(3068号よりつづく)
前回までのあらすじ:元NFL選手におけるchronic traumatic encephalopathy (CTE)第三例の脳検体を調達し,病理検査結果公表の手はずを整えたのは,ハーバード出身の元プロレスラー,クリス・ノウィンスキーだった。
2007年1月18日,ニューヨークタイムズ紙第1面に,NFLにおけるCTE第三例の「病理検査結果」が報告された。見出しで「エキスパート:自殺の原因は脳障害」とうたった上で「フットボールをプレイしたことが原因となって認知症やうつ病が起こる」可能性を強調する内容だっただけに,米国民に与えた衝撃は大きかった。
以後,ノウィンスキーは,「元選手の自殺」等,CTEが疑われる症例が出現する度に,遺族を説得して故人の脳を病理検査用に調達する役に邁進することとなるのだが,脳震盪およびCTEの恐ろしさを一般に周知させるに当たって彼が果たした役割は小さくなかった。特に,メディア対策に優れ,記者会見に遺族と研究者を同席させたり,TV番組出演の手はずを整えたりと,「アクティビスト」としての才能を存分に発揮した。
さらに,ノウィンスキーは,ボストン・ユニバーシティの研究者と共同で「Sports Legacy Institute」を創設,CTE研究を推進するための組織的体制も構築した。米国において,HIV/AIDSの研究を推進するに当たって患者・同性愛団体等のアクティビストの活動が大きな役割を果たした故事はよく知られているが,CTEの場合,ノウィンスキーという「一人アクティビスト」の存在が,その研究を大きく前進させたといっても過言ではないのである。
NFLがCTE論文の検証を権威に依頼
ボストン・ユニバーシティのグループが症例数を積み上げたこともあって,CTEは徐々に「disease entity」として医学界に受け入れられるようになった。しかし,データが集積されるようになったにもかかわらず,NFLは,「全否定」の立場を保持し続けた。特に,専門委員会MTBIC(Mild Traumatic Brain Injury Committee)の2代目委員長に就任したアイラ・カッソン(脳外科医)は,頑なに全否定の姿勢を貫き,「Dr. No」の異名をとるほどだ
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