医学界新聞

寄稿

2014.03.17

【寄稿】

急性心不全におけるDECONGESTION

猪又 孝元(北里大学医学部循環器内科学 講師)


なぜ今,急性心不全治療なのか

 心不全予後を改善させる戦略は,もっぱら慢性期管理の観点から語られてきた。まず,そもそも心臓病にさせないという,予防の視点である。次に,慢性的に続く心不全病態の進行を緩徐にする治療法である。レニン・アンジオテンシン・アルドステロン(RAAS)阻害薬とβ遮断薬,さらには心臓再同期療法が,その推進役であった。しかし,有効打たる新たな治療法は一向に登場せず,今後も現れる気配がない。このような現況から,半ばやむを得ず介入の視点を変える必要が生じたわけである。

 急性増悪イベントによりダメージを受けると,治療にてそのダメージを軽減させても心不全状況は基点にまで回復できない。その繰り返しにより,心不全予後は相加的に悪化していく1)。このような病態論に基づけば,次の急性増悪イベントを回避する,あるいは,イベントが起きたとしてもダメージを最低限に済ませる――つまり,イベント発生に適切に対処すれば,心不全全体の予後が改善できるはずである()。急性期治療は慢性期治療でもある,との新たな戦略である。

 心不全予後を改善する4つの介入法(文献1を改変)
従来の(1)心血管病の一次予防と,(2)病態進行を抑制する神経体液性因子調節薬に加え,適切な急性心不全管理が心不全全体の予後改善をもたらす。すなわち,(3)イベントそのものを起こさない,もしくは(4)イベント時の傷害を最小限に食い止める介入法である。

 この四半世紀で,慢性心不全の予後は着実に改善した。それに対し,急性心不全の結果として生ずる入院下心不全の予後は,改善されなかった2)。これは,入院中の急性心不全治療が不十分なために,再入院を来す素地を残してしまうのではないかとの指摘へとつながっていく。

着目すべきは「低心拍出」か「うっ血」か

 急性心不全治療の領域においては,低心拍出を臨床現場でいかに把握し,いかに介入すべきかが,この10年間の主要テーマであった。しかし,低心拍出は急性心不全全体の1-2割にしか出現しない。大部分の患者において,主徴候はうっ血(congestion)である3)。「うっ血を解く」意のdecongestionとの新語が最近の論文上を闊歩するように,最大の関心事はdecongestionであるべきである。

 うっ血は,血管内と血管外とに分類される。decongestionは,その両者を的確に把握することから始まる。直接に血行動態へ影響するため,まず血管内うっ血の管理が優先される。しかし,肺うっ血による呼吸困難で代表されるように,血管外うっ血もまた症状や徴候に影響する。さらには,血管外うっ血が残存すると予後が悪化すると報告され4),血管内外のうっ血を十分に取り切る意味が強調されてきている。「サクッと治す,スッキリ治す」重要性,とでも表現できようか。

心不全再入院を減らすdecongestionとは

 心不全の治療には,塩分とともに余剰な体液を減ずる目的で,利尿薬が使われる。しかし,代表的なループ利尿薬には副次作用に基づく「悪者論」がつきまとい,その象徴が腎機能障害であった。decongestionの過程で生ずる腎機能障害はworsening renal function (WRF)と称され,「血清クレアチニン0.3 mg/dL以上の上昇」と定義された。WRFは予後を悪化させるとの報告が相次ぎ5),利尿薬はできる限り制限すべきとの風潮が蔓延した。

 しかし最近になり,強力なdecongestionを図りWRFが出現しようとも,心不全の生命予後はむしろ改善するとの報告6)が散見されるようになった。WRFという不利益より,強力なdecongestionという利益が凌駕し,最終的に心不全予後を改善サイドに導くのであろう。一方,WRFは心拍出量よりも中心静脈圧により左右され7),「腎うっ血」なる概念も提唱された。すなわち,decongestionはむしろ,腎機能保持に有利に働く可能性すら指摘されたのである。

 に,米国腎臓内科専門医による,ループ利尿薬を用いて有効なdecongestionへと導く方策を紹介する8)。特に重要なのは,血圧を保つことと,RAAS遮断薬を(少量で構わないので)併用する点である。それでもやはり限界はあり,サイアザイド...

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