落ち着きがない男(山中克郎)
連載
2014.02.10
診断推論
キーワードからの攻略
広く,奥深い診断推論の世界。臨床現場で光る「キーワード」を活かすことができるか,否か。それが診断における分かれ道。
■第2回……落ち着きがない男
山中 克郎(藤田保健衛生大学 救急総合内科教授)
【症例】
30歳,男性。頭痛を主訴に,家族に連れられwalk inで救急室を受診。患者は両眼奥の痛みと嘔気を訴えており,目の焦点が定まらず,落ち着きなく待合室を歩き回っている。
家族からの聞き取りによれば,これまで普通に働いていたが,2週間前に突然発症のひどい頭痛があり,救急病院を受診。9日前から昨日まで,都内の病院で入院し精査を受けた。頭部CT/MRI,髄液検査を受けたが,「髄液圧が高い」と言われた以外に異常はなかった。その後,次第に歩けなくなり,よだれを垂らして暴言を吐くことがあった。5日前からは言葉も出にくくなったという。
頭痛が継続し,上記の病院にて精神科の受診を勧められたため,東京から実家(名古屋)に戻ってきた。頭痛がひどくなり救急室を受診した。
[既往歴]気管支喘息,アトピー性皮膚炎
[来院時バイタルサイン]体温36.7℃,血圧126/86 mmHg,心拍数86回/分,呼吸数10回/分
[その他]意識:JCS 1-2(名前は言えるが失見当識,傾眠傾向あり),身体所見:大きな異常なし
[検査所見]肝機能・腎機能・甲状腺機能・血清ビタミンB1/B12・頭部CT/MRI:異常なし
……………{可能性の高い鑑別診断は何だろうか?}……………
キーワードの発見⇒キーワードからの展開
診断が非常に難しいケースだ。これまで普通に働いていた30歳の男性が,2週間前の頭痛をきっかけに精神症状まで起こしているという。一体,原因は何なのだろうか?
患者の様子を見ると精神疾患を疑いたくなる。しかし,器質的疾患が精神症状の原因となるケースも少なくない。亜急性に意識レベルの変動が見られる場合は,まずは器質的疾患の除外が大切である。なかでも,完全に意識を正常化することのできる治療可能な認知症の除外が重要になる。この時点では,「治療可能な認知症」というキーワードから表1の疾患を想起したい。
表1 「治療可能な認知症」から導くべき鑑別診断リスト | |
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では,キーワードから展開した疾患の可能性を考えてみよう。表1の(1)-(7)については,冒頭に記載した検査所見から否定的だろう。(8)のうつ病の除外には2質問法(1か月以上続く,抑うつ気分と興味の喪失の確認)を行い,(9)(10)の除外には性活動歴やアルコール,違法薬剤使用歴についてたずねる。なお,この患者では家族の話から(8)(9)(10)の可能性は低いと考えられた。(11)を含めた脳炎・髄膜炎の除外のためには,ルンバール(腰椎穿刺)や頭部MRIを繰り返すことが重要である。
また,現病歴で確認した,2週間前にあったという「突然のひどい頭痛」の発症様式についてはしっかりと確認しておきたい。「1分以内に最強となる頭痛(雷鳴様頭痛)」ととらえれば,表2の疾患を想起しなければならないだろう。
表2 「1分以内 |
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