医学界新聞

連載

2014.01.27

看護のアジェンダ
 看護・医療界の"いま"を見つめ直し,読み解き,
 未来に向けたアジェンダ(検討課題)を提示します。
〈第109回〉
20年の執着

井部俊子
聖路加看護大学学長


前回よりつづく

 こういう研究発表を聞けると学会に参加して少し得をした気分になる。それは,台湾「安寧緩和醫療條例(ホスピスケア法)」制定過程における看護職の貢献に関する研究(和住淑子・錢淑君,千葉大学大学院看護学研究科附属看護実践研究指導センター)である。

 私が第33回日本看護科学学会の一般口演32群の座長をするため早めに発表会場を訪れたために出会った31群の発表であった。まさに意図していなかった出会いであったので,「少し得をした気分」になったわけである。そういうわけで,本稿では講演集の抄録とプレゼンテーションの内容をもとに再構成して読者に伝えたい。

 この研究は,台湾の「安寧緩和醫療條例(ホスピスケア法)」の制定に中心的役割を果たした看護職である趙可式氏の活動に関するインタビュー調査データと関連資料に基づいており,看護職の視点からその政策活動の特徴を明らかにし,保健医療政策の策定・実現過程における看護職の貢献について考察することを目的としている(発表者の和住さんは「ホスピスケア法」という言葉を用いていたが,本稿では「安寧緩和醫療條例」が持つ響きを尊重して漢字を用いたい)。

 分析はこのように行われた。(1)同法の制定(2000年)および改正(2002-12年)にかかわる局面を特定する。(2)局面ごとに「着目した事象」「着目した事象に対する認識」「実際の行動」を整理し,趙の問題の構造把握およびその解決に向けた活動の特徴を導き出す。そして,(3)保健医療政策の策定・実現過程における看護職の貢献について考察する。個人は特定可能であるため,個人情報を含め公表を前提としていることを説明し承諾を得ている。

直接的体験から学術的探究,理念の明確化から行動へ

 台湾では,これまで患者の救命のために最大限の医療を行う義務が「醫師法」に明記されていた。そのため末期がん患者にも救命目的の医療が行われていた。趙さんの実父の入院においても積極的な治療が施され,いわゆる「スパゲティ症候群」状態となった。延命治療を望まない父の医療処置の中止を趙さんは求めたが,醫師法を理由に拒まれた。趙さんは看護師であることから自己責任でチューブ類の抜去を認められ,病院に対して「訴えない」という書状を書いた,と和住さんは口演発表で言及した。趙さんと父親は,穏やかな別れができた。趙さんはこの体験から「醫師法」は問題があることに気付いた。看護師である自分以外の人はチューブを抜去することはできない。

 その後,趙さんは専門的な判断力を習得するために米国・英国にてホスピスケアを学び,学位を取得する。そして,終末期専門の訪問看護師として活動し,終末期を安寧...

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