MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内
2013.12.02
Medical Library 書評・新刊案内
坂井 建雄 著
《評 者》石田 肇(琉球大大学院教授・人体解剖学)
実習内容が単元ごとにまとまったわかりやすい実習書
山形大学の学生時代に,浦良治先生の『人体解剖学実習』を用いて勉強させていただいたことを,今も鮮明に覚えている。ラテン語の世界に触れた最初の感動があった。長崎大学に奉職した折には,浦先生の実習書を使った。その後,札幌医科大学では,大学独自の実習書で指導に当たった。1998年に琉球大学に赴任してからは,定番である寺田春水先生・藤田恒夫先生の『解剖実習の手びき』を用いてきた。それぞれに素晴らしい実習書であった。最近では,2013年に,『Gray's Clinical Photographic Dissector of the Human Body』が出版されたので,これも取り寄せてみた。
しかしこれらの実習書を使う医学生から,「楔形に切り取る」の「楔形」がわからない,「あばた状に」の「あばた」がわからないといった声を聞くことが多くなった。他の大学医学部の教授に聞いても,同じような状況で,いろいろ模索しておられるようだ。
このたび,2013年3月に坂井建雄先生の『解剖実習カラーテキスト』が出版された。そこで,琉球大学では,この実習書を採用することにした。実は,2012年の春に,坂井建雄先生から実習書の出版計画をお聞きし,草稿の資料をいただき,4年生の臨床解剖実習で使ってみた。私もほぼ1か月毎日参加した。
まず,実習内容が図とともに,見開き2ページにまとめてあり,とてもわかりやすい。解剖の手順が,箇条書きで述べてある点も素晴らしい。
本書に示されている実習の手順を少し紹介する。背部等の筋の解剖は,学生にはわかりにくいところである。本書では,筋を起始か停止,もしくはその両方で切断するが,支配神経は残す方法が採られている。これは,肉眼解剖学の基本であり,学生にもわかりやすい。骨盤部の解剖,特に会陰部の解剖手技は簡潔明瞭である。さらに,中耳の解剖は,いつも至難の業であるが,内頭蓋底から入る方法はかなり良いのではないかと思われる。頭部と体幹との切り離しも困難を極めるが,後頭骨を広く開放することにより解決している。これで,迷走神経,交感神経幹,さらには舌咽神経が保存できる。まだまだ良い点はいくつもあるが,紙面の都合上省略する。4年生の評判も上々であった。
実際に本書を見てみると,"Lecture"と"Clinical View"がほぼ毎節についていて,学生の理解を深めると思われる。実習内容が単元ごとにコンパクトにまとめられているため,各大学の実際に合わせた使い方もできるものと思う。この秋からの解剖実習が楽しみである。
以上,実際に『解剖実習カラーテキスト』を用いて,解剖実習を行った者として,この実習書を強くお薦めしたい。
B5・頁384 定価6,720円(本体6,400円+税5%)医学書院
ISBN978-4-260-01702-2
道免 和久 編
《評 者》市橋 則明(京大大学院教授・理学療法学)
ゴール設定の正しさを吟味するための導入書
理学療法や作業療法では,「評価に始まり評価に終わる」とよく耳にするが,この評価結果を数値化し,蓄積できていないことが,科学的データに基づくエビデンスを示しにくくしている大きな原因である。医学界では,過去のカルテの血液データや画像データなどを後方視的に分析し,ある治療効果の有無や予後を検討しているような研究も多いが,理学療法や作業療法分野ではほとんどない。エビデンスの確立や正確な予後予測のためには,国際的に共有できる,信頼性や妥当性の高い機能評価を日々の臨床の中で行っていくことが不可欠である。
理学療法や作業療法評価におけるゴール設定の重要性は誰もが認めるところであるが,理学療法士や作業療法士は何を根拠にゴール設定をしているのであろうか? 自分が評価した結果から患者のゴールを導き出すためには,必ず予後予測を行う必要があるが,多くの場合は過去の経験からのみゴールを設定し,そのゴールが正しかったかどうか(治療が正しかったのかどうか)の吟味さえされない。これでは理学療法や作業療法の発展など考えられない。
上記の問題を解決してくれる良書として,道免和久教授編集の『脳卒中機能評価・予後予測マニュアル』が発刊された。本書の第I部では,「予後予測のための脳卒中機能評価」としてADL評価,総合評価,高次脳機能の評価,感覚・運動・反射の評価,上肢機能の評価,下肢・体幹・歩行の評価等が詳細に解説されている。第II部では,「脳卒中機能予後予測」として,従来の予後予測法,合併症の予後予測,最新の予後予測法,FIMを用いた予後予測法などが紹介されている。さらに,第III部において予後予測の実践事例が7例紹介されている。まず,この実践事例から読み始めると予後予測を具体的に理解しやすいかもしれない。この第III部では,急性期の運動麻痺が重度な脳卒中例の上肢機能の予後予測や,脳出血や脳梗塞例の歩行とADLの予後予測が症例情報とともに具体的に記載されていて,非常にわかりやすい。最後に第IV部と
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