人手不足を患者に伝えるべきか(井部俊子)
連載
2013.06.24
看護のアジェンダ | |
看護・医療界の"いま"を見つめ直し,読み解き, 未来に向けたアジェンダ(検討課題)を提示します。 | |
| |
井部俊子 聖路加看護大学学長 |
(前回よりつづく)
「その日はとても忙しい月曜日でした。というのも,病棟は慢性的に採用者の確保困難が続いていて,看護師の4分の3しか充足されていない状況だったからです。加えて,ベテラン看護師で,自分の担当業務をこなしながら経験の少ないスタッフを手伝ってくれていたメアリー・エバンスが病欠したのです。
リンダ・スミスさん(68歳)は股関節置換術の術後2日目でした。彼女の病室に行くと,痛み止めを頼んでから45分経っていたので,彼女はいら立っていました。前よりもいっそう眉間にしわを寄せて表情が固まっていました。数日後,調子がよかったので,彼女にスタッフ不足のことを話そうかと考えました。けれども今日の人手不足をスミスさんに開示することが正しいのだろうかと思ったのです」
こうした書き出しで始まる論文が 「倫理的課題」として紹介された(Olsen DP. Telling patients about staffing levels. Am J Nurs. 2013 ; 113 (5) : 62-4.)。つまり,人員体制を患者に告げることは,透明性の確保なのか単なる自己満足にすぎないのか,という論点である。
情報を共有する理由/しない理由
内容をみてみよう。前述した状況は,価値観が分かれ葛藤が生じることから,倫理的には難問である。透明性を確保することはよいことであり,患者の知る権利に応えることである反面,ケアは患者の問題に焦点化されるべきものであり,看護師の問題を論ずることではない,と筆者は指摘する。情報を共有する理由/しない理由として下記が挙げられている。
◆情報を共有する理由
・適切な情報共有は,患者にとってケアの同意もしくはケアを拒否する際に必要である。
・患者がほとんどコントロールできない状況において,治療の影響や結果を知らせることは不安を軽減させる。
・情報を持つことは,患者が経過を理......
この記事はログインすると全文を読むことができます。
医学書院IDをお持ちでない方は医学書院IDを取得(無料)ください。
いま話題の記事
-
医学界新聞プラス
[第1回]心エコーレポートの見方をざっくり教えてください
『循環器病棟の業務が全然わからないので、うし先生に聞いてみた。』より連載 2024.04.26
-
医学界新聞プラス
[第3回]冠動脈造影でLADとLCX の区別がつきません……
『医学界新聞プラス 循環器病棟の業務が全然わからないので、うし先生に聞いてみた。』より連載 2024.05.10
-
医学界新聞プラス
[第1回]ビタミンB1は救急外来でいつ,誰に,どれだけ投与するのか?
『救急外来,ここだけの話』より連載 2021.06.25
-
医学界新聞プラス
[第2回]アセトアミノフェン経口製剤(カロナールⓇ)は 空腹時に服薬することが可能か?
『医薬品情報のひきだし』より連載 2022.08.05
-
対談・座談会 2025.03.11
最新の記事
-
対談・座談会 2025.04.08
-
対談・座談会 2025.04.08
-
腹痛診療アップデート
「急性腹症診療ガイドライン2025」をひもとく対談・座談会 2025.04.08
-
野木真将氏に聞く
国際水準の医師育成をめざす認証評価
ACGME-I認証を取得した亀田総合病院の歩みインタビュー 2025.04.08
-
能登半島地震による被災者の口腔への影響と,地域で連携した「食べる」支援の継続
寄稿 2025.04.08
開く
医学書院IDの登録設定により、
更新通知をメールで受け取れます。