ヒト遺伝子特許論争(2)(李啓充)
連載
2013.06.03
〔連載〕続 アメリカ医療の光と影 第246回
ヒト遺伝子特許論争(2)
李 啓充 医師/作家(在ボストン)(3027号よりつづく)
前回のあらすじ:2013年4月15日,米最高裁で,乳癌・卵巣癌関連遺伝子BRCA1/2の特許をめぐって「ヒト遺伝子を特許の対象とすべきかどうか」についての審理が行われた。
前回も述べたように,短いDNA塩基配列に対する特許も含めると,米国では,ほとんどすべてのヒト遺伝子が特許の対象となっている。遺伝子に対する特許はあまた認められているというのに,なぜ,よりによってBRCA1/2の特許をめぐって訴訟が争われることになったのだろうか? その理由を理解するためには,原告団の顔触れを見ることが手っ取り早いので,以下に,2009年にニューヨーク南地区連邦地裁で争われた第一審時の訴状から各原告が訴えるに至った背景を紹介する(なお,各原告の年齢は第一審当時)。
独占特許を利用した「商売」に対して立ち上がった原告ら
*リスベス・セリアニ(43歳,シングルマザー):2008年,両側の乳癌を診断され,オンコロジストおよび遺伝カウンセラーからBRCA1/2の遺伝子検査を受けることを勧められた。両遺伝子については,ミリアッド・ジェネティクス社(以下,ミリアッド社)が独占特許を有し,検査を受けようと思ったら同社が提供する検査しか受けることができなかった。しかし,ミリアッド社がBRCA1/2検査につけた定価は「3340ドル」と,とびきり高額であったため,セリアニに自弁することは不可能だった。さらに,セリアニはマサチューセッツ州が運営する低所得者用保険「マス・ヘルス」の被保険者であったが,ミリアッド社は,「マス・ヘルス」等低所得者用公的保険「メディケイド」との取引を拒否していたため(註1),セリアニは遺
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