医学界新聞

連載

2013.02.11

「型」が身につくカルテの書き方

【第8講】外来編(1) 初診外来カルテの書き方

佐藤 健太(北海道勤医協札幌病院内科)


3010号よりつづく

「型ができていない者が芝居をすると型なしになる。型がしっかりした奴がオリジナリティを押し出せば型破りになれる」(by立川談志)。

本連載では,カルテ記載の「基本の型」と,シチュエーション別の「応用の型」を解説します。


カルテ記載例

患者:54歳 女性 当院初診
# 主訴:咳,受診理由:レントゲン検査希望(1)

S 咳がしつこい気がするので,レントゲンを撮ってほしい。先月亡くなった叔父の肺癌の初期症状と似ている。家計も厳しいが娘はまだ高校生で倒れるわけにはいかない。タバコも体に悪いとは思っている。(2)
 2日前の昼過ぎに鼻汁・咽頭痛が,夜には咳と微熱も出現。1日前には倦怠感や食思不振も出現。痰は少量漿液性,深吸気でも咳嗽増悪や胸痛誘発なし。職場で風邪が流行中。(3)

既往歴:なし。3か月前の検診での胸部Xp正常と言われている。
家族歴:叔父が肺癌,祖父が大腸癌。父が高血圧・心不全。
生活歴:機会飲酒。喫煙20本/日×34年。パートでレジ打ち業務。56歳の夫(タクシー運転手),15歳の長女と3人暮らし。(4)

O 全身状態:重篤感なく,すっと歩いて入室し会話内容も明確だが,不安げで思いつめた表情で話している。るいそうなし。(5)
バイタル:JCS0,BP138/86,HR84・整,RR18,SpO2 97%(室内気),BT 37.6
 結膜充血・貧血・黄疸なし,咽頭発赤軽度,浅頸リンパ節複数触知,鎖骨上リンパ節触れず。気管支・肺胞呼吸音左右差なく,wheeze・crackles聴取せず。

A
#a.急性咳嗽(6)
 特に基礎疾患のない50代女性の鼻・喉・咳症状。全身状態良好で胸部異常所見を伴わない。
 Definite:急性上気道炎→特に矛盾はしない。
 Less likely:異型肺炎は否定できないが経過をみて判断する。
 Unlikely:肺癌のリスクあるが,経過・検診結果から可能性低い。
#b.肺癌への不安(7)
 不安定な家計に身内の不幸が加わり不安が強まったようだ。病的な不安神経症・うつ病の印象はなく,理解力も良さそう。
#1.喫煙(8)
 肺癌に限らず悪性腫瘍や心血管疾患のリスクがあり,現時点で最も健康への影響が大きい。幸い#a/bから禁煙への関心が高まっている。

P Dx)検診結果を取り寄せ,今後の症状経過もみて検査を相談。
  Tx)解熱鎮痛薬・鎮咳薬での対症療法。
  Px)まずは1週間の禁煙を提案→前向きに同意された。(9)
  Ex)診断とその根拠について丁寧に説明し,喫煙の影響や,経過次第で肺精査も行う見通しを説明→安心された様子(10)
  NP)咳の改善や禁煙の成否を確認。取り寄せたXpも見て,肺Xp・CTや禁煙治療の相談を行う(11)。

(1)適切な対症療法よりも,不安を解消できる原因説明が必要と推測できる。
(2)患者中心のプロセス(PtC)。患者背景が見え,真の受診理由が見える。
(3)医師中心のプロセス(DrC)の現病歴(第2講参照)。疾患の診断に必須。
(4)既往歴・家族歴等の周辺情報は,本来は専用の記載欄に書き出したほうがよい。書式の穴埋めだけで済み短時間で書ける,毎回得た追加情報を書き足しやすい,参照したいときに長年蓄積した経過記録から探し出す手間がなく便利。
(5)全身状態ではDrCの重篤感と,PtCの雰囲気に関する情報も記載する。
(6)急性疾患による一過性の問題は,仮プロブレム。
(7)一時的な不安のため仮プロブレム。総合プロブレム方式では心理・社会的問題はプロブレム扱いしないが,外来患者の関心傾向やPCIの考え方からは健康管理上重要な問題点はすべて扱ったほうが良い。
(8)重要かつ継続的な問題であり,正式プロブレム。健康関連行動(喫煙・アルコールや運動・食事習慣など)もプロブレム扱いしたほうが良い。
(9)予防プラン(Px:第4講参照)。患者中心のプロセスで見つけた軽い体調不良や,将来の健康維持への不安を具体的な介入に変えるために,意識的に記載したほうが良い。
(10)教育プラン。伝えた内容だけでなく,患者の反応まで記載したほうが良い(渋々うなずいた場合と笑顔で受け入れた場合で次回の対応はかなり異なる)。
(11)ネクストプラン。今回の診察内容を確実に次回に引き継げるように記載する。


 今回からは「診療所」や「病院の内科外来」(以下,両者をまとめて「外来」と表記)におけるカルテの書き方について解説していきます。第8講では急な体調変化で受診した患者の「初診外来カルテ」,第9講では慢性疾患で定期受診した患者の「継続外来カルテ」について解説します。

■病棟や救急と,外来の違い

 外来研修のない研修病院では病棟や救急との違いをイメージできず,カルテの書き分け方も見当がつかないと思います。以下に,急性期病棟・救急・外来の違いを図示します。

 外来は時間の制約がかなり厳しい上にプロブレム名が事前に定まっていないため,Problem oriented systemで丁寧にカルテを書く研修医ほど戸惑いやすい傾向にあります。また患者の関心が他の診療場面と大きく異なることも重要です。1000人の住民の受療行動を1か月間観察したFukuiらの研究1)では,何かしらの症状を訴えた地域住民862人のうち実際に医師を受診するのは307人(約3分の1)しかいないことを示しており,確かに筆者自身も並大抵の症状では仕事を休んで病院を受診しようとは思いません。つまり,救急に駆けこむほど重症でもないのに外来を受診した時点で「"本人なり"の受診に踏み切る"事情"がある」ことが多いため,正しい診断とその根拠の説明だけでなく,「受療行動」を引き起こした"事情"の把握と対応までもが求められます。

 このように,事前情報のない患者に対して,より短い時間で,「医学的に正しい診断や治療」と「患者が納得し安心できる説明」が求められており,他の診療場面に比べると外来診療は難易度が高いと考えられます。

■患者中心の医療面接(Patient-centered interviewing:PCI)

 このような厳しい要求に応えられる「外来カルテ」記載法を学べる教科書は見当たりませんが,医療面接法のPCIを応用した型はかなり有用と感じています。PCIは誰でも習得可能で,患者満足度向上・症状軽減・アドヒアランス向上などのエビデンスがあり,しかも診察時間は長くならないとされています。実際にこの記載法で研修医に外来指導を行うと,短時間で適切な診察とカルテ記載を行えるようになり,患者満足度も非常に高い印象があります。

【PCIのポイント】

●「患者中心のプロセス(Patient centered process : PtC)」から始まり,「医師中心のプロセス(Doctor centered process : DrC)」に移行する。

●PtCは診療全体の1-2割を占めるが,重症・緊急の場合はDrCの割合が大きくなり,外来のような軽症・慢性の場合はPtCの割合が大きくなる。

●DrCでは医学的診断のために現病歴・既往歴・家族歴などの聴取を行うが,PtCでは受診に至った"事情"を理解するために「患者が重要視する"関心事"(診断に直結しない脱線話)」や「表情や態度で表現された"感情"」などを把握する。

 詳しい実践方法は参考文献2)に譲りますが,PCIによって何を伝えれば患者が安心するのかがすぐわかりますし,医師・患者関係が良くなることでDrCにかかる時間も短くなるため,外来の特徴に合わせたカルテ記載を行うことができます。

■以上を踏まえた,外来診療のための「基本の型」の応用

●#欄:診察内容を最初につかむため必ず1行目に記載。またプロブレム名は決まっていないので,医学的診断のための「主訴」と,事情把握のための「受診理由」も併記する。

●S/O欄:PtCの情報はSで「セリフをそのまま」書き,Oで「表情や雰囲気などの視診情報」を記載。DrCの情報はSで「医学用語に置き換え」て「単語」で羅列し(短時間で書け,後で読み返すときのノイズも少ない),Oでは「重篤感とバイタルサイン」は必ず記載し,その他の所見は診断に有用なものに絞る。

●A欄:急性疾患などの一時的な問題は「仮プロブレム名(#a)」をつけ,慢性疾患や生活習慣など継続的な問題は「正式プロブレム名(#1)」を明記する。プロブレム名なしのカルテに比べて,複数の問題があっても混乱しない,番号を次回診察に引き継ぐことで一貫性のある診療ができる,一時的な軽い問題の軽視や背景に潜む問題の見落としも防げるといったメリットがある。

●P欄:今行うプランだけでなく,「次回受診時に行う計画(Next plan : NP)」も記載する。次回診察開始前にP欄を読むことで,診療時間の短縮や,かかりつけ医として患者に「いつもの話が通じる安心感」を提供することができる。

 以上を踏まえて,カルテ記載例を読み,具体的なイメージをつかんでください。

 次回は慢性疾患を持つ患者の定期受診時に,標準的な疾患管理と健康増進を行い,かつ自分自身の学びにも活用できる,「問題リストを軸に据えた継続外来カルテの書き方」を提示します。

つづく

参考文献
1)Fukui T , et al. The ecology of medical care in Japan. JMAJ. 2005 ; 48(4) : 163-7.
2)ロバート・C.スミス著,山本和利訳.エビデンスに基づいた患者中心の医療面接.診断と治療社;2003.

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