MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内
2013.02.04
Medical Library 書評・新刊案内
中本 雅彦,山下 明泰,髙橋 三男 著
《評 者》酒井 糾(北里大名誉教授)
今日の"腹膜透析の意味と価値"を世に問うテキスト
20世紀の標語が1933年のシカゴ万博で発表されている。"機械中心の世界"というものだ。その中身は「科学が発見し,産業が応用し,人間がそれに従う」とされていた。その標語は21世紀に入って次のように変わったとされている。それが"人間中心の世界",その内容は「人間が提案し,科学が探究し,技術がそれに従う」としている。
確かに人間中心の世界にはなっているが,あまりにも技術革新のスピードが早い。腹膜透析についても全く同じで技術革新のスピードが早い。このたび中本雅彦,山下明泰,髙橋三男の3氏により『腹膜透析スタンダードテキスト』と題した本が医学書院より発刊された。まさにタイムリーな書だ。なぜなら透析医療ほど21世紀の標語としてふさわしいものはないと思うからである。推薦の序を書かれた川口良人先生の言葉にもあるが,この本には今日世界で認められている概念,治療指針がわかりやすく,しかも論理的に記述されている。
各章ごとにキーとなる文献が載せられており,読者にとって有用な資料となっている。特に書かれている内容はわかりやすく図や表がふんだんに取り入れられ,的確な説明が付記されているのでコメディカルの方々にも理解と知識を得る上に格好な書といえる。そうした観点からしても今日の"腹膜透析の意味と価値"を世に問うテキストはほかに例を見ないのではないかと思う。
3人の著者の経験,知識,技術,何よりも意欲が全体を通して感じられる。腹膜透析の歴史と進歩に引き続き重要項目すべてについての解説が各項で述べられ,全体で20の大項目に分類されている。その内容は具体的情報と考え方が網羅されていると思う。3人の著者の筆力がすべての項目で発揮され,"腹膜透析のすべて"を理解する上でのリテラシーを明確に示すとともに,現場に必要となる情報についても詳細に記述されているのがうれしい。こうした配慮がなされたのも最近の透析医療技術事情によるのかもしれない。
私自身,腹膜透析そのものを勉強し始めたのは1967年の米国での経験に始まっている。その後約20年でわが国にCAPDが一般臨床として始まったように記憶している(1983年のCAPD治療の認可,1986年届出制の開始)。それからまさに多岐にわたる進歩があって今日に至っているわけであるが,その詳細は髙橋先生がコラム記事の中でも解説されており,実に興味深い内容となっている。まさにわが国での腹膜透析事情の真実と内幕が14か所で感動的に記述されている。その中にはすでに亡くなられた先生方のエピソードが随所に盛り込まれ,私としても感涙の内容である。本書の一つの特徴がこのコラムにあるといっても過言ではない。
今やCAPDは小児ではファースト・チョイスの治療法であり,すべての例ではないにしても高齢者の治療としても定着しているように感じられる。血液透析との併用も然りであろう。治療法としての定着率は道半ばかもしれないが,最初にも述べたように"21世紀は人間中心の世界"という標語を知るにつけわれわれ透析医療従事者も患者中心の医療選択を心掛けなければなるまい。そうした意味を熟知する上でも本書の果たす役割は大きいと思う。
最後に3氏の序文の最終行に書かれている本書発刊に際しての家族の協力,それぞれの筆者の属しておられる職場スタッフの協力に対して謝意が述べられていることに私自身感銘した。まさに"腹膜透析の意味と価値"を読者に対して,それとはなしに伝えたメッセージであると受け取った。素晴らしい"魂の伝承作業"をされた。ぜひとも,透析医療に携わる医師,コメディカルの方々にご一読いただき,本書を座右の書としてお役立ていただきたいと心から願っている。
B5・頁224 定価6,825円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01668-1


《総合診療ブックス》
どうする? 家庭医のための"在宅リハ"
佐藤 健一 著
《評 者》葛西 龍樹(福島医大主任教授・地域・家庭医療学)
家庭医をめざすすべての医師がリハビリテーションを学ぶ際の入門書
「在宅でのリハと在宅に向けてのリハ」を家庭医が準備し実践する際に役立つ本が出版された。しかも著者の佐藤健一先生は,北海道家庭医療学センターで家庭医療学専門医コースを第一期生として修了した家庭医である。本書は,臨床的な事項の合間に,佐藤先生がより良い家庭医療を求めて旺盛に学びの機会を広く探求していったエピソードやその成果も含まれていて,いわば物語を読むような面白さで読み進めることができる。
家庭医としての必須のアプローチである高齢者総合的機能評価(comprehensive geriatric assessment)と患者中心の医療の方法(patient-centered clinical method)をベースにした上で,そこに生活の場,予防,精神面のケア,そしてチーム医療にこだわった数多くの在宅リハビリテーションで有用なヒントが盛り込まれている。
本書では,随所に読者を刺激する問いかけがあり,その答えを探しながら読むこともできる。中には従来行われていたケアについての健全な批判が述べられていたり,ケアについての根源的な問題も含まれていたりしてはっとさせられる。そのような問いかけは,例えば,「そもそもリハってなんだろう?」「物理療法はリハ?」「どの時点の能力を基準にするのか?」「廃用症候群としての筋力低下をどう考える?」「なぜ身体を動かすのか?」「廃用症候群は診断をつけることができる?」などである。
これらの問いかけすべてに本書が十分な答えを提示しているわけではないが,読者は本書によって興味を刺激されて,答えを見出すためにさらに自分で情報を集めたり,そうしたまだ答えのない臨床現場の疑問に答えを出す臨床研究へとチャレンジしたりしていくかもしれない。もしかしたら,そんなことも佐藤先生が本書を執筆した隠れた狙いなのかもしれない。
通常の書評の範囲を越えるかもしれないが,筋力維持・向上や関節拘縮の予防のための訓練については,なかなか書籍だけでは十分に理解して実践しにくいものである。DVDなどによる画像での情報提供や講習会などの学習の機会をぜひ佐藤先生が中心となって企画していただけることも期待したい。
日本の医療制度の最大の課題はプライマリ・ケアをどのように組織化するかということである。プライマリ・ケアはチームで行われるもので,そのチームで専門医としての役割を果たす医師が家庭医である。リハビリテーションの分野のケアでも約8割はプライマリ・ケアで安全に対応できなくてはならない。こうしたコンテクストの中で,今後日本でも家庭医をめざすすべての医師がリハビリテーションを学ぶ際の入門書として,本書は最適である。
A5・頁216 定価4,200円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01623-0


白日 高歩 著
川原 克信 執筆協力
《評 者》近藤 丘(東北大加齢医学研究所教授・呼吸器外科学)
呼吸器外科の手術手技ばかりでなく,長い歴史もが詰め込まれた必読の一書
私が大学を卒業し,呼吸器外科(当時そういう名称は一般化されてはいなかったが)の医師として仕事を始めてからもう40年近くになろうとしている。40年とは,当時生まれた方が外科医になったとして,バリバリの指導する立場の年代になっているという...
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